空き家バンクとは何か。制度・登録・使い方を解説【空き家問題の解消】

昨今、「空き家」に関する問題が議論されています。老朽化して誰にも使われなくなった空き家は、放火事件やゴミの不法投棄などに発展するケースもあり、防犯・衛生などの面から地域において迷惑な存在になっているとも言われています。そんな中、平成27年5月に「空き家特別措置法」という法律が施行されました。これは、建物付き土地に適用される固定資産税の税率軽減について、空き家は適用から外すという法律です。またこの法律では、倒壊などの危険回避のために建物の解体を勧告しても、その勧告に所有者が応じない場合は、強制的に解体して費用を徴収する旨も盛り込まれています。

すべての空き家所有者が固定資産税の軽減を目的としている訳ではなく、中には思い入れがあって取り壊せなかったり、解体費用を捻出できずに放置していたりするケースもあるでしょう。ですが、この法律によって、事情を抱えた所有者に対しても大きな負担がのしかかってくることになります。

そんな空き家所有者の悩みを解決する制度として、ここ最近クローズアップされているのが「空き家バンク」です。この制度は、空き家を解体せずに、借りたい、貸したい、買いたい、売りたい人どうしをマッチングすることを目的としていて、都会の空き家だけでなく、地方の過疎化地域などでも利用が進んでいます。今回は、この「空き家バンク」について詳しく解説していきたいと思います。空き家を所有している方はもちろん、空き家に住んでみたい、利用したいという方も、ぜひ一読して頂ければと思います。

目次

1.制度・概要
☞空き家バンクを創設した目的
☞空き家バンクの大まかな制度内容

2.空き家バンクへの登録方法・契約の流れ
☞空き家バンクの登録方法
・①必要書類を提出する
・②自治体等の担当者が現地調査を行う
・③空き家バンク登録
・④情報公開と募集開始
☞空き家バンクで家を探す
・①規制の有無
・②空き家改修のための助成金や移住にあたっての優遇制度の有無
・③見学スケジュールや宿泊体験の確認
・④入居申込みにあたっての交渉
・⑤契約を結ぶ
☞直接交渉と間接交渉
・①メリット
・②デメリット

3.空き家バンクの現状
☞空き家バンクに対する需要は多いのに供給数が増えないのはなぜ?
☞空き家登録を促すための施策
・①民泊施設として活用
・②シェアハウス・文化施設・福祉施設として活用

4.空き家バンクのメリット・デメリット
☞所有者にとってのメリット・デメリット
☞移住希望者にとってのメリット・デメリット

5.気になる各地の空き家バンク実例
☞実例-① 山梨県南アルプス市
☞実例-② 長野県飯田市
☞実例-③ 長崎県

6.まとめ

1.制度・概要

空き家バンクを創設した目的

空き家空き家バンクが目的としているのは、使われなくなった空き家がある地域に定住してもらうことであり、定住を促進したい地域とは、地方つまり田舎です。以前から、退職後に田舎暮らしがしたいと都市部から移住してくる人はいました。そして、そんな方々が住みたい家はアパートなどではなく、やはり一戸建てでしょう。

農家や山小屋など、田舎には使われなくなった空き家が多くありますが、リフォームすればまだまだ使える家もあり、移住者が暮らしていくのに支障がないように感じます。しかし、田舎の物件は不動産情報に掲載されることが少なく、移住したくても探すすべがないという状況でした。

また、家が見つかって住むことができたとしても、地域住民とうまく関わることができず、定住が叶わないケースも少なくありませんでした。そのような状況を解消しようと、地方自治体、NPO法人、不動産会社が協力し合って立ち上げられたのが空き家バンクなのです。

空き家バンクの大まかな制度内容

空き家バンクは、通常各自治体が主体となって運営されています。具体的な制度の内容は、空き家を売りたい人や貸したい人から空き家登録を受け、買いたい人や借りたい人向けに、市区町村役場のホームページや所内の掲示板などに空き家情報を掲載します。

また、使われていない空き家は傷みが多いため、買いたい人に対しては住宅の改修費用の相談を受けたり、自治体によっては助成金を支給するところもあります。一方、借りたい人への対策として、本来なら空き家の所有者が必要な修繕を行って貸し出すのが賃貸借の通例なのですが、費用を掛けてまで貸すことをためらう所有者が多く、空き家登録に二の足を踏んでいました。

そこで最近導入されているのが「借主負担DIY型賃貸」スタイルで、所有者が修繕費用を負担しない代わりに、借主のDIY造作箇所について退去後に原状回復する必要がないという制度です。これにより、空き家の所有者が登録しやすくなることが見込まれます。

また、移住に不安を感じていたり、地域のコミュニティや生活環境を重視されたい方のために、短期滞在できる空き家を提供し、宿泊体験を実施している自治体もあります。なお、空き家バンクの制度内容は各自治体によって異なり、加えて制度に積極的な自治体とそうでない自治体があるため、ホームページの情報だけでなく、電話で問い合わせすることも必要でしょうし、それでも不足な場合は役所に出向いて情報収集する必要もあるでしょう。

2.空き家バンクへの登録方法・契約の流れ

流れでは、空き家バンクの仕組みについて説明します。

空き家バンクの登録方法

空き家バンクに登録するためには、自治体の担当部署を通じて手続きを行う必要があります。各自治体によって手続きの仕方に違いはありますが、基本的な流れは以下の通りになります。

①必要書類を提出する

各自治体で提出する書類は異なりますが、おもに「登録申込書」と「登録カード」に必要事項を記入し、担当部署の窓口に持ち込むか郵送します。

②自治体等の担当者が現地調査を行う

提出された書類をもとに現地確認を行います。この時、各都道府県で組織される宅地建物取引業協会(以下、宅建協会)の職員や、同協会から依頼を受けた不動産会社の担当者が同行し、売却・賃貸にあたって問題がないかを調査します。

③空き家バンク登録

空き家バンクの登録に支障がないと判断されたら、価格・賃料の査定や修繕を要する箇所などについて、所有者・役所・宅建協会で意見交換をします。各条件がクリアできたら「登録完了証書」が発行され、登録手続きの完了となります。

④情報公開と募集開始

登録が完了すると、市区町村役場のホームページや所内の掲示板で情報が公開され、募集開始となります。公開される情報については、おもに以下の内容になります。

ⅰ.空き家バンク登録番号

ⅱ.売却または賃貸の別

ⅲ.所在地(番地は原則として非掲載)

ⅳ.売却価格または賃料(所有者の希望額)

ⅴ.物件の概要

・利便施設、交通機関等までのアクセス

・使用状況(傷んでいる箇所、リフォーム箇所、アピールポイントなど)

・設備状況(故障や交換が必要な設備、交換済みの設備など)

ⅵ.物件の位置図(地図)

ⅶ.間取り図面、敷地利用図面(建物の配置)

ⅷ.現地の写真

空き家バンクで家を探す

前述の通り、自治体のホームページや掲示板等で空き家バンク情報が閲覧でき、情報を見て住みたい家が見つかったら、事前に以下のことを確認します。

①規制の有無

不動産のなかには制限が課せられている物件があります。制限の一例として、敷地に接する道路を利用するのに制限があったり、現在の建物を解体して再建築することができない物件だったり、農家の家を購入する場合にクリアすべき法律があったりなど、他にもさまざまな法令上の制限がありますので、気になった物件があったら確認しておきます。

②空き家改修のための助成金や移住にあたっての優遇制度の有無

多くの各自治体では、特に過疎地など地方の空き家に入居する場合、助成金や優遇制度を整備しています。しかし、稀にそれらの制度がなかったり利用基準が厳しい自治体もあるため、確認しておく必要があります。

③見学スケジュールや宿泊体験の確認

物件の場所が遠方ですと、一日がかりだったり場合によっては宿泊を伴うことも考えられます。せっかく出向くのであれば複数の物件を見学する方が効率的ですので、見学ルートや宿泊先の確保などの準備をしておくと安心です。また、前述した宿泊体験を同時にセッティングするのも良いでしょう。ゴールデンウィークや祝日連休に併せていくつか宿泊体験してみてから、比較検討するという方法も考えられます。

④入居申込みにあたっての交渉

住みたい家が決まったら、「空き家バンク交渉申込書」など所定の書類を役所窓口に提出します。その際、「直接交渉」と「間接交渉」という2つの交渉形態があります(それぞれの内容については後述します)。

⑤契約を結ぶ

交渉がまとまったら売買契約または賃貸借契約を結びます。直接交渉の場合は、所有者と利用者とで契約書面を作成する必要がありますが、間接交渉の場合は、物件を取り扱う不動産会社が契約書面を作成します。

直接交渉と間接交渉

前項で触れた2つの交渉形態について説明します。直接交渉はその名称の通り、所有者と買主(借主)が直接条件交渉をして契約を結ぶ形態です。一方の間接交渉は、宅建協会所属の不動産会社を通して交渉が為され、契約を結ぶ形態になります。

間接交渉では、自治体と不動産会社との間で「協定書」を取り交わします。協定書は不動産会社が責任を持って自治体サービスに協力する主旨の書面であり、これを結ぶことで自治体と不動産会社との協力体制が保持されます。

①メリット

メリット不動産の売買・賃貸借契約を結ぶ際は、不動産会社に対して所定の仲介手数料を支払う必要がありますが、直接交渉を選択した場合は、不動産会社が介在しないため仲介手数料は掛からない点がメリットになります。一方、間接交渉を選択した場合は、プロの不動産会社が法的な手続きや調査を行ったうえで契約に望むことができる点が最大のメリットです。他にも、所有者と利用者の交渉窓口として条件調整を行ってくれる点もメリットになるでしょう。

②デメリット

デメリット直接交渉のデメリットとしては、契約書面の作成を当事者どうしで行わなければならない点が挙げられます。また、仲介役となる不動産会社が介在しないため、条件交渉に時間が掛かる可能性があります。間接交渉のデメリットとしては、仲介手数料が発生することが何よりで、この点はメリットの裏返しと言えるでしょう。

3.空き家バンクの現状

仕組みとして向上の余地はありますが、空き家バンクの需要は年々増加傾向にあります。この項では、空き家バンクの需要と供給、現状の課題などについて触れていきます。

空き家バンクに対する需要は多いのに供給数が増えないのはなぜ?

低迷山梨県南アルプス市は、空き家バンクに力を入れている自治体のひとつです。空き家をリフォームして移住する人に対しては最大100万円の助成金を支給(要件あり)したり、移住者の年令を若年層に限定する自治体が多い中、同市は特に年令制限を設けていません。

また、空き家バンクの目的を定住のみに限定せず、短期で滞在する方も積極的に受け入れており、中には短期滞在者が気に入って移住してくるケースも少なくないとのことです。そのため、同市に空き家バンク登録されている物件はほとんどが契約済みになっています。南アルプス市のような、市を挙げて空き家バンクに取り組み、成果を上げている自治体がある一方で、空き家バンクはあるものの機能していない自治体もあります。その一例が東京都奥多摩町です。

同町で空き家バンクに登録される物件は少なく、その要因として空き家所有者が登録してくれないことが挙げられます。同町では若年層の受け入れにも積極的なのですが、肝心の空き家所有者が、見ず知らずの人を住まわせるのに抵抗感を持っており、制度はあるものの機能していないという現状です。

奥多摩町の例は珍しいことではなく、空き家はあるのにさまざまな理由から登録が進んでいない自治体は多く存在します。「使ってはいないが先祖代々の旧家のため手放せない」「所有者が大規模な改装費用を負担する余裕がない」「古い建物のため貸した後で補修が発生したら面倒」などの理由から、登録を拒む所有者も少なくありません。このように、空き家需要が増している一方で、供給できる空き家が少ないというミスマッチ現象に頭を悩ませている自治体も数多く存在しているのです。

空き家登録を促すための施策

田舎空き家への移住が増えることはそのまま地域の人口増につながり、過疎化の進行に歯止めを掛けるとともに自治体の税収増にも寄与することになります。「登録してくれない」と手をこまねいているだけでは地域の衰退が進むばかりです。そこで、自治体やNPOなどは登録を促すべく、さまざまな施策を講じ始めています。

①民泊施設として活用

ここ数年民泊が話題になっていますが、田舎の空き家を民泊事業に活用するケースが各地で見られ、メディアでも取り上げられています。おもに移住希望者を対象とした体験型宿泊施設や、ここ数年増加している外国人旅行客の日本文化を直に体験したいというニーズに対応し、田舎の古民家を宿泊施設に改装した事例などが報告されています。

②シェアハウス・文化施設・福祉施設として活用

NHKの「U-29」でも放送されていますが、若いデザイナーやクリエイターが、地方を拠点に創作活動を行うケースが話題になっています。彼らの中には、田舎の空き家に一人で暮らすのは広すぎるため、何人かでシェアして暮らす人もいて、もともと賃料の安い空き家をシェアハウスとすることで、さらに負担を減らすことができます。

地方では空き家のシェアハウスが少ないため、件数が増えているとまでは言えませんが、募集情報が出るとすぐに決まってしまうほど人気があるそうです。ほかにも、個人の方が自治体から補助金の支給を受けて「古民家カフェ」を営んだり、自治体が空き家を借り上げて改修し、移住希望者に貸し出したり、図書館などの文化施設として活用している例もあります。また、福祉施設として活用しているケースもあり、高齢化が進む田舎ならではの活用法と言えるでしょう。

4.空き家バンクのメリット・デメリット

所有者にとってのメリット・デメリット

売却空き家所有者にとってのメリットは、何より使っていない空き家を売却・賃貸することによって収入が得られることです。田舎の空き家は不動産会社で扱ってくれないことが多いですが、自治体のバックアップによって情報が公開され、希望者を募ることができます。また、助成金や借主負担DIYなどの制度によって、所有者の負担を考慮した仕組みも整備されています。

一方のデメリットは、建物の状況によっては必ずしも売却・賃貸できるとは限らない点です。建物が荒れ放題で改修に多額の費用を要するとなると、所有者はもちろん自治体側も負担が大きくなるため、登録が困難になります。他にも、賃貸する場合の賃料滞納リスクやメンテナンスのための費用負担などもデメリットとして考えられます。

移住希望者にとってのメリット・デメリット

風光明媚な景色移住希望者にとってのメリットについては、前項でも触れましたが不動産会社では通常扱われないような物件が掲載されていることです。建物は古くても、風光明媚な景色や豊かな自然環境を満喫できる物件が掲載されることも少なくありません。また、移住後に農作業をやってみたい方には、農地や畑の情報もセットで入手することができますし、地域の住環境や助成制度など、物件のみに止まらない情報も併せて入手することができ、移住を促すだけでなく移住してからの生活にも配慮した制度内容になっています。

片やデメリットについては、やはり「古さ」に関する事が多いようです。例えば、古い家財が残ったままになっていたり、ガスや電気などのインフラに障害があったり、中には、臭気や衛生的に問題のある物件もあるようです。また、空き家バンクの掲載情報に不備が多いというデメリットもあります。情報の更新頻度がタイムリーでないため、問い合わせしたのに数ヵ月も前に決まってしまっていたとか、売却希望額や賃貸希望額以外に掛かる費用(仲介手数料・敷金・自治会費など)の掲載が無く、トラブルに発展するケースが報告されています。

5.気になる各地の空き家バンク実例

空き家バンクは全国各地で扱われていますが、ここで3つの自治体の空き家バンクをご紹介したいと思います。

実例-① 山梨県南アルプス市

南アルプス当コラム内でもご紹介した南アルプス市は、全国でも人気の高い空き家バンクとして知られています。人気の理由としては、南アルプス山麓の豊かな自然環境が挙げられるでしょう。また、同市は空き家バンクを積極的に推し進めており、登録物件を移住希望者がバスで見学する「マッチングツアー」や、農園での作業を通じて地元住民の方々と移住希望者が交流する催しなども随時行われています。

※南アルプス市空き家バンク:http://www.city.minami-alps.yamanashi.jp/shisei/shisei-torikokumi/akiya-bank/akiyabanku.html

実例-② 長野県飯田市

天竜川長野県飯田市は山梨県のお隣ということで、こちらも自然豊かな環境がセールスポイントです。市の中央には川下りで有名な天竜川が流れていて、東西には南・中央アルプスの山並みを望むことができます。また、移住者には子育て世代も多く、若年層にとっても暮らしやすい環境と言えるでしょう。さらに、同市では農家に寝泊まりして農作業に携わる「ワーキングホリデー制度」があり、農家の方に里親になってもらって農業研修を始め、農業で生計を立てるために独立を目指しているという方もいらっしゃいます。

※ニッポン移住・交流ナビ(飯田市):http://www.iju-join.jp/prefectures/nagano/220003/

実例-③ 長崎県

ハウステンボス3つ目は特定の市町村ではなく、長崎県の空き家バンクについてご紹介します。長崎県では「ながさき移住ナビ」という長崎県による移住支援のための公式ホームページを設け、県内への移住を積極的に推し進めています。同県では「ながさき移住倶楽部」という会員制度を導入しており、提供する情報を「求人」「空き家物件」「助成金」「移住の魅力」「相談会」という5つのテーマに分け、移住を募るだけでなく移住後の生活サポートまでを、県が手厚くバックアップしています。内容としては、移住先を探す際にキャンピングカーを格安でレンタルしたり、移住希望者の就職支援を目的とした企業面談会を開催するなど、空き家バンクに対する積極的な県の姿勢が窺えます。

※ながさき移住ナビ:http://nagasaki-iju.jp/

6.まとめ

原状では、インターネットで国内の空き家物件の一括検索ができなかったり、都道府県間の情報横断が未対応であるなど、まだまだクリアしなければならない課題が残っています。しかし、少子高齢化・地方の過疎化・空き家問題等々の解消にもつながるこの制度は、今後さらにサービスが拡充されていくと思われます。最後に、空き家バンクの情報が充実しているとされるサイトをご紹介させて頂きますので、よろしければ参考にしてみて下さい。

※ニッポン移住交流ナビ:http://www.iju-join.jp/akiyabank/

- 2016年09月07日