アパート経営を失敗しないためにメリット・デメリット・リスクについて知る

このところ、アパート経営に関する書籍やセミナーが人気を博していますが、成功している方がいる一方で、失敗している方も少なくないと言われています。株式や投資信託などと比べて投資金額が大きくなるアパート経営では、不動産ならではのデメリットやリスクを念頭に置いた計画が必要になります。そこで今回は、アパート経営のメリット・デメリット・リスクについて詳しく説明していきます。アパート経営に興味のある方は、ぜひ参考にして頂ければと思います。

目次

1.アパート経営におけるメリット
☞アパート経営はメリットが多いと言われるのはなぜか?
・アパート経営は投資?
・少ない自己資金でも融資によってレバレッジを効かせられる!
・退職後の生活資金を確保できる
・アパート(=集合住宅)という形態がメリットをもたらす!?
☞相続・贈与税対策としても有効なアパート経営
・複数のアパートを所有しているなら、所得税・相続税対策が不可欠!
・現金かアパートか?贈与で損しないテクニック!
・相続時精算課税制度を利用した“もうひとつの節税メリット”とは?
・アパート経営を法人化するとさまざまな効果が!

2.アパート経営におけるデメリットとリスク
☞アパート経営のデメリット
・出資する金額が大きい
・換金性スピードが遅い
・アパート経営における成功と失敗を分ける境い目とは?
☞アパート経営のリスク
・市況の変動によるリスク
・賃料未収リスク
・災害・老朽化のリスク
☞リスクヘッジ
・市況変動リスクへの対策とは?
・賃料未収リスクの事前策とは?
・災害・老朽化リスクへの対策とは?

3.まとめ

1.アパート経営におけるメリット

メリット

アパート経営はメリットが多いと言われるのはなぜか?

アパート経営は投資?

ここ数年の超低金利政策やマイナス金利導入によって預金金利は最低水準が続いています。また、中国、ギリシャ、イギリスなど海外の不安定な経済情勢が日本の株式市場にも影響し、株式や金融商品の収益を押し下げています。

そんな中、注目を集めているのが「アパート経営」です。一般的なアパート経営とは、アパートやマンションを一棟購入し、自らアパートオーナーとなって各部屋から賃料収入を得ることであり、一過性というより継続的な利益追求を目的とすることから、投資であると同時に「事業」という性格も持っていると言えます。

また、アパートは建物が築20年以上経過すると価値がほとんど無くなり、入居も決まりづらくなりますが、土地は残りますので、解体して再建築したり駐車場にしたり、売却することも可能です。中古アパート購入にあたり、大規模修繕をしない前提で、解体後の土地活用を視野に当面の賃料収入を建設資金としてストックするという賢い方もいらっしゃいます。

少ない自己資金でも融資によってレバレッジを効かせられる!

アパートを購入するとなると、その費用は数千万円にも及びます。でも、そんな大金を持っている方はそう多くはないでしょうから、金融機関の融資を利用することになります。融資を利用すれば、少ない自己資金で数千万円ものアパートを購入でき、年間数十万円から数百万円もの利益を得られる可能性があります。融資利用によって、自己資金は少なく、大部分が他人(金融機関)の資金を使って収益が得られる“レバレッジ効果” のメリットを生かすことができます。

※アパートローンについては「アパートローンとは?概要から住宅ローンとの違いまで徹底解説」も参考にしてください。

退職後の生活資金を確保できる

公的年金の受給額は減少傾向となっており、受給開始年齢も引き上げられているため、老後の生活に不安を抱える方も少なくないでしょう。一線からリタイアされた方にとって、労働せずに収入を得られるアパート経営は老後の収入安定にもつながります。そして、アパートが老朽化して入居者が入らなくなっても前述した通り土地は残るため、解体して再建築したり売却して現金化することもできます。

アパート(=集合住宅)という形態がメリットをもたらす!?

不動産経営には、アパートの他にもワンルームマンションや分譲マンションの1室を対象とする場合もあります。特にワンルームマンションは、1棟もののアパートと比べて価格が安いことから、購入のハードルは低いと言えるかも知れません。

しかし、これらの物件は部屋数が1室だけですので、空室になると収入はゼロになってしまいます。一方、通常のアパートは6~8室のものが多く、仮に1室や2室空いたとしても収入がゼロにはなりません。アパート経営は部屋数が複数あるため、空室時のリスクを分散できるのです。

相続・贈与税対策としても有効なアパート経営

相続アパート経営は「相続」や「贈与」においてもメリットをもたらします。ただ、有利に且つ合法的にメリットを享受するためには、“ルール”を知っておく必要があります。ここでは相続・贈与で覚えておくべき、3つのルール(評価減の仕組み、贈与の手順、法人化)について説明します。

複数のアパートを所有しているなら、所得税・相続税対策が不可欠!

個人の方が複数のアパート経営をされていると、ご自分に賃料収入(不動産所得)が集中するため所得税対策が必要になります。さらに、将来の相続に備えて、相続人(妻・子など)が納める相続税納税資金も準備しておく必要があります。

それらの対策として、子にアパートを生前贈与することによって自分(親)の賃料収入を分散させ、所得税を節税することができます。そして、子が譲りうけたアパートの賃料収入をストックしておけば、相続税納税資金も確保することができます。

所得税対策・・・賃料収入の集中→
相続税対策・・・納税資金の不安→
アパートを生前贈与→所得を分散
→資金の確保

現金かアパートか?贈与で損しないテクニック!

①アパートなら相続・贈与で大きな節税メリットが!
アパートなどの不動産の相続税を算出する際、実際に購入した金額ではない評価方法を採用できるという“ルール”があり、これを上手に利用すれば現金で相続するよりも相続税を低く抑えることができます。また、贈与時において「相続時精算課税制度」を選択した場合にも、そのルールを利用することが可能となります。
※相続時精算課税制度:http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4103.htm

○土地:相場よりも3割ほど評価が下がる「路線価」で算出
○建物:相場価格よりも評価が低い「固定資産税評価額」にて算出
※なお、アパートの場合は入居率も評価の対象
建物(アパート等)の相続税評価額=建物の評価額×(1-30%×入居率)
⇒評価減によって贈与税の非課税枠を有効に使える。

この評価減を応用し、アパートを購入して相続・贈与税対策を講じる方法があります。例えば、3000万円の現金を贈与する場合、相続税評価額は3000万円のままですが、3000万円のアパートを購入し、入居率90%の状態で子に贈与すれば1890万円(3000万円×(1‐30%×90%))と、1110万円もの評価減となり、合法的に相続・贈与税の非課税枠を残しておくことができます。

②まだある!アパートの敷地も評価減される!
さらに路線価について補足しますと、アパート以外(子の自宅用地など)であれば路線価のままの評価ですが、アパートの場合は、その敷地も建物と一緒に賃借人に貸していることになり(貸家建付地)、アパート所有者の自由な利用が制限される土地であると見なされ、土地の評価がさらに2割程度低くなります。

貸家建付地の評価=路線価×(1-借地権割合×借家権割合)
→相続税評価よりも約2割低くなる
※借地権割合:60%~70%(地域によって異なる)
※借家権割合:30%(全国一律)

これらの評価ルールをすべて採用すると、アパートの敷地の相続税評価は、相場(=実勢価格、購入価格)の50%程度まで低く抑えられます。

相続時精算課税制度を利用した“もうひとつの節税メリット”とは?

これらの評価ルールをすべて採用すると、アパートの敷地の相続税評価は、相場(=実勢価格、購入価格)の50%程度まで低く抑えられます。

前述の通り、贈与時に相続時精算課税制度を選択すると、相続税・贈与税を低く抑えることができます。そしてもうひとつ、贈与におけるアパートならではのテクニックがあります。ただ、そのテクニックでは手順がとても重要ですので、詳しく説明していきます。

①自分(親)がサブリース契約を結ぶ
子にアパートを贈与する前にやっておくべき事があります。それは、親と不動産管理会社との間でサブリース契約を結び、アパート1棟の借主を不動産管理会社にしておくのです。なお、この不動産管理会社は、入居斡旋や集金業務を行う不動産会社ではありません(詳細については後述します)。

②親から子に対し、アパートの建物だけを贈与する
アパート全部(土地と建物)を贈与すると、財産評価額が相続時精算課税制度の特別控除枠(2500万円)を超えてしまう場合があるため建物だけを贈与します。特別控除枠内で抑えられれば贈与税は掛かりません。建物の評価は、前述〔建物の評価額(固定資産税評価額)×(1‐30%×入居率)〕の通りです。

③子に現金を贈与する(敷金と同額)
敷金は、アパートの入居者から預かっているお金であり、退去する時に返還義務があります。もしアパートの建物と一緒に敷金も引き継いで(贈与して)してしまうと、返還義務のある債務負担付きの贈与と見なされ、建物の財産評価が実勢価格(相場)で算出されてしまいます(固定資産税評価額ではない)。

加えて、贈与した親の側にも高くなった評価基準で不動産譲渡所得税が課せられてしまいます。そのため敷金に相当する額を現金で贈与することにより、債務負担を解消した状態で建物だけを贈与するという手順を踏む必要があるのです。

④敷地の評価減を生かすための対策。
アパートの贈与では貸家建付地という評価減のメリットがあることはお話ししましたが、このメリットを生かすには、土地・建物の所有者が同一の個人である必要があります。もし建物だけを贈与すると、そのメリットが生かせなくなってしまいます。

でもご安心を。そんな時のために「サブリース契約」を結んでおいたのです。建物が親名義だった時に賃貸借契約(サブリースも当然含む)を結んだ部屋は、贈与後も貸家建付地の評価を持ち越すことができるのです。贈与前にサブリース契約を交わしていれば、たとえ入居者が入れ替わっても、賃貸人と賃借人との関係は(契約満了まで)変わりませんので、評価減のメリットが生かせるのです。

また、①で触れたサブリース先の不動産管理会社は、子が株主&役員である法人とします。サブリース会社は、通常賃料収入から10~30%程度を差し引いた後でオーナーにサブリース賃料を支払うため収益が減少してしまいますが、子の会社にサブリースすれば収益を確保することができます。この方法なら、サブリース会社は仲介業ではなく貸主となるため、原則として宅建業免許を必要としません。

関連記事:サブリースが抱える問題~さまざまなリスクと契約トラブル

アパート経営を法人化するとさまざまな効果が!

法人①法人化すると“争族”防止になる?
複数のアパートを所有していると、心配なのが“争族”です。ひと口にアパートと言っても、立地条件や築年数などの違いから優良な物件とそうでない物件が存在するため、それが争いのタネになってしまいます。そもそも、アパート経営を法人化する第一の目的は、収益を個人から法人に移行して節税を図ることではあるのですが、下記のように“争族”回避策としても有効に作用します。

すべてのアパートの所有者となる法人(不動産管理会社)を設立

家族(相続人)を法人の役員にして各人の株式保有割合を決める

相続人全員がアパート経営に携わり、すべての収益が分配される

優良物件の取り合いが無くなり、”争族”を回避することができる

②法人化による節税効果

毎年のように税制改正が行われていますが、消費税も含め、個人に対する課税は今後一層と強化されていくと思われます。一方の法人税については、段階的に引き下げられています。ということは、個人が行っているアパート経営を法人化すれば、節税効果が得られるはずです。

個人所有のアパートの家賃収入は「不動産所得」に分類されます。同じく個人所有のアパートを売却した時の売却代金は「譲渡所得」に分類されます。個人所有のアパートを売却して損失が出た場合、所得税法では、それまでの不動産所得(利益)と譲渡所得(損失)を相殺(損益通算)できないことになっています。つまり、家賃収入は黒字として税金を課せられるのに、売却損が出ても赤字計上できないということです。
*〔参考〕損益通算:https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2250.htm
*〔参考〕所得の区分:https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1300.htm

さて、これが法人の場合はどうなるかと言うと、個人の所得の区分は適用されず、不動産所得でも譲渡所得でも、事業年度ごとの「損益計算書」という税法上の枠組みで収支を計算します。これにより、売却した年だけではありますが、損失と利益を相殺することができ、個人では丸々掛かっていたはずの所得税が節税できる訳です。

また、アパート経営に係る打合せや会食の費用、交通費・事務用品・書籍などの支出が経費として認められています。さらに、アパートの火災保険や役員に退職金を支給するために法人名義で積み立て型の保険に加入した場合、それらの保険料は損益計算書で経費扱いとすることができるため、法人税対策として効果的です。法人化については、税法上の知識も必要となるため、アパート経営に関するセミナーに参加したり、新聞等で「不動産」「税制」「相続」などのキーワードに目を光らせるなどして知見を広めておくと良いでしょう。

2.アパート経営におけるデメリットとリスク

アパート経営のデメリット

デメリット出資する金額が大きい

株式や投資信託などの金融商品であれば投資金額が数万円程度からでも可能ですが、アパート購入では数千万円からの大きな資金が必要になりますし、アパートローンを組むにしても、一般的に物件価格の3割以上の自己資金が必要と言われています。また、中古アパートであれば、不具合箇所の補修やリノベーションなど手を加えなければならないケースも考えられるため、相応の資金を用意する必要があります。

そう聞くと「なんだ、メリットの項の説明と矛盾するじゃないか!」と思われるかも知れません。でも、自己資金が少ないとローン返済は大きくなりますし、維持管理がズサンだと入居が安定せず、賃料収入にも影響します。安定したアパート経営にするためには、賃料収入に対する自己資金の拠出割合と維持コストとのバランス(収支バランス)をしっかりと認識しておく必要があるのです。

換金性スピードが遅い

株式などの金融商品の場合、現金化したければ即日または数日後には売却(解約)して換金することが可能です。しかし、アパートなどの不動産ですとそう簡単ではありません。一般的な不動産売却の手順としては、事前に不動産会社に調査や査定を依頼することに始まり、売却希望価格が決まってから買主探しがスタートします。優良な物件であれば比較的早く売却できるかも知れませんが、それでも2ヶ月以上は要し、一定水準以下の物件となるとそれ以上で、場合によっては年単位を要するケースもあります。

アパート経営における成功と失敗を分ける境い目とは?

失敗と成功の境目先に述べた通り、アパート経営は投資と事業の性格を持ち合わせているため、成功したり失敗したりすることがあります。その要因として、国の制度や市況などの影響などが考えられ、それらの影響を考慮した対策を講じておくことにより、失敗を回避または最小限に抑えることが可能になります。

前項で自己資金は3割以上必要とお話ししましたが、成功している方は、自己資金を多めに支出しているケースが多く見られます。借入が大きければ返済額も大きくなることから、賃料収入の大部分を返済に回したり、最悪の場合は返済が収入を上回って債務超過に陥ってしまいます。

それと、アパート経営で覚えておくこととして「リスク」と「コスト」があります。下の表は、アパート経営で想定される「空室リスク」と「維持コスト」を収支計画に盛り込んだもので、左≧右となるかどうかで成功・失敗を判断することができます。

空室リスク&維持コストを踏まえた収支バランス

満室賃料収入の70%
(想定空室率30%)

年間融資返済額
年間諸経費(賃料収入の20%)

売りアパート情報を見ると、満室を想定した収入や利回り(*)しか記載されていませんが、アパート経営は中長期の投資・事業ですので、満室がずっと続くのは現実的に不可能と言えるでしょう。そのため、一定の空室率を想定しておく必要があります。さらに、アパート経営では補修・メンテナンス費用などの維持コストが掛かり、その分も盛り込む必要があります。端的に言うと、自己資金割合が低く、リスクやコストの想定が甘い計画は、失敗する可能性が高いということになります。

*利回りについて
アパート経営における利回りとは、物件価格に対してどのくらいの収益があるのかという数値で、一般的にパーセンテージで表します。利回りの計算としては、「表面利回り」と「実質利回り」という2つの方式があります。

①表面利回り(グロス)
表面利回りとは、年間の賃料収入の総額を物件価格で割った値です。例えば3,000万円のアパートに対して年間収入が300万円なら、300万円÷3,000万円×100=10%となり、そのアパートの表面利回りは10%となります。

②実質利回り(ネット)
実質利回りとは、年間の実収入(賃料収入から維持管理費用や固定資産税などの諸経費を差し引いた金額)を、取得金額(物件価格と仲介手数料や登録免許税などの購入諸費用を加えた金額)で割った値です。

これを、上記と同じアパートで計算してみます。
・不動産価格3,000万円
・購入時の諸経費200万円
・年間賃料収入300万円、
・保有に掛かる年間諸経費50万円
→実質利回り(%) (300万円-50万円)÷(3,000万円+200万円)×100≒7.8%

表面利回りでは10%だった値が、実質利回りでは7.8%に下がってしまいました。さらに、この値は保証されるものではなく、空室リスクや維持コストによって変動する可能性があります。とは言え、現在の超低金利状態となっている預金金利と比べると、高い水準であるのは確かです。しかし、その低い預金金利を引き合いに出して、巧みに誘導する営業マンもいますので注意が必要です。

アパート経営のリスク

リスク前項で空室リスクについて触れましたが、アパート経営には空室以外にもさまざまなリスクがあり、十分な備えをしておかないと経営が破綻する危険性もあります。そこで、当コラムの“肝”とも言える「アパート経営のリスク」について詳しく解説していきたいと思います。

市況の変動によるリスク

経済情勢や国の政策といった市況の変動に伴い、アパートの購入・維持コストが上昇する可能性があります。以下、変動要因を挙げてみます。

①融資金利の上昇

融資を利用してアパートを購入する場合、より金利の低い変動金利を組むケースが多いでしょう。確かに、現在はマイナス金利が導入されるほどの超低金利状態のため、返済額は低く抑えられていますが、マイナス金利にも限界はあり、将来的には、下がるよりも上がる可能性の方が高いと言えます。当然、金利が上がれば返済額が増えることになり、そうなれば前説の収支バランス表が左≦右となって債務超過に陥る可能性もあるのです。

②資産価値の下落

建物は年数が経つに連れて資産価値が減っていきます。特に中古アパートを購入する場合、アパート経営の“隠れたメリット”とも言える「減価償却(*)」の期間が短くなるため、ある時期を境に目に見えて収益が減ってしまいます。また、減価償却の残存期間が短い中古アパートは、融資期間が短縮されたり、融資額が減額されたりするリスクもあります。
*減価償却(資産):http://homepage3.nifty.com/domex/business/yogo_syoukyaku.htm

さらに、土地についても「地価下落」というリスクが考えられます。アパートなどの収益不動産は、通常、地価よりも収益還元法やDCF法など収益性を重視した評価が採用されますが、銀行が評価する際は、収益性だけでなく地価(路線価など)も重視するため、収益性に問題はなくても地価が下落局面にあって土地の評価が下がると、希望する融資額が受けられない可能性もあります。

③消費税率10%導入の影響

2013年の秋頃、消費税が8%に上がることを見越した駆け込み需要が、不動産業界でも見受けられました。需要が増えれば価格は上がり、それによって購入コストも上がるため、自ずと収益の下落につながります。にもかかわらず、増税の不安から購入予定時期を早めた方も少なくなく、不動産営業マンから心理的に煽られて購入を強引に勧められた方も多かったようです。

このように、消費増税は導入後の負担増よりも導入前の駆け込み心理に注意が必要です。駆け込みに乗らず、増税後の反動下落した時に購入する方が、結果的に収益の安定したアパート経営ができるのかも知れません。

賃料未収リスク

賃料未収リスクの一例として、先に空室リスクをお話ししましたが、それ以外にも賃料未収が懸念される事象があります。なかには深刻なケースもありますので、それらのリスクについては十分に心得て置く必要があります。

①空室リスク

当然のことですが、入居者が入らなければ賃料収入が減少します。異動シーズンではない時期に退去が発生すると、次の入居者は決まりにくく、1室また1室と空室が増えるようなことになれば、そのアパートは空室が常態化するようになります。

その一方で、毎月の返済や維持コストは掛かり続けるため、収益の維持が困難になる恐れもあります。負担の大きさに悩んだ末、ローン清算のために売却を検討するも、空室が多いアパートは投資対象としての魅力が薄く、安く買い叩かれたり売却自体が難しくなります。

昨今、金融機関では、空室発生によるローン滞納を回避するため、融資の際に「一括借上げ」や「家賃保証」の付保を条件とするところが増えています。しかし、それらのシステムを利用すると、賃料の一部が不動産会社や保証会社の手数料として引かれるため、オーナー側の収益は確実に減少してしまいます。

②家賃滞納リスク

アパート経営において、家賃滞納リスクはさほど重視されませんが、放って置くと痛い思いをすることになります。ある入居者が家賃を滞納してしまい、翌月にまとめて2か月分を払うと約束をしたとします。でも、せいぜい数万円か十数万円の家賃さえ払えないのに、2か月分一括は危ういと言えます。人によっては滞納のまま居座る輩もいたりします。

訴訟を起こすにしても、訴訟費用の方が滞納額よりも高く付くため、滞納分の家賃を請求せずに出て行ってもらうこととなり、期間中の入居募集もできないことから、数ヶ月間その部屋は収入が無いどころかマイナスになってしまいます。

さらに厄介なのは「夜逃げ」で、残された家財道具を撤去しなければならないのですが、然るべき手続きを踏まずに撤去してしまった場合、夜逃げした人から「あったはずの貴重品が無い」などと意図があってか否か、損害賠償請求をされる恐れがあります。夜逃げはかなり面倒なリスクと心得ておく必要があります。

③事件・事故のリスク

ここで言う事件・事故とは、自殺、殺人事件、火災などが該当し、それらのトラブルによって死者が出てしまうと、入居募集の際にその旨を「心理的瑕疵(*)あり」と告知しなければなりません。トラブルが理由で入居してもらえないとなると収入が得られないため、賃料を下げたり、数ヶ月間賃料が発生しないフリーレントにして募集するなど、リスクは避けられません。
*心理的瑕疵:http://www.daigakuseiooya.com/realestate/fudousantousi/1029/

災害・老朽化のリスク

災害

①天災リスク

阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、そして毎年のように被害を及ぼす台風。最近では、平成28年8月に、岩手県を中心に甚大な被害をもたらした台風10号は記憶に新しいところでしょう。近い将来「東海・東南海・中南海地震」の発生が危惧されており、さらに、近年増加傾向にある台風・豪雨災害など、天災はアパート経営にも大きなリスクであることは間違いありません。新築した時から、建物の天災リスクはスタートします。日本は、地震・台風の影響が不可避ですので、相応の対策(保証や保険など)は必須になります。

②火災リスク~アパート経営における火災保険の重要性

アパートに限らず、建物には必ず火災保険を掛けることになります。その火災保険について、主契約だけでなく、オプションも注視する必要があり、内容によっては水害や強風による被害なども保障されます。保険料を抑えようとオプションに加入しなかったために、修復費用を自腹で負担せざるを得ないケースも考えられますので、十分に保障内容を検討するようにしましょう。

③老朽化リスク

老朽化リスクには、一定サイクルで発生するものと突発的に発生するものがあります。アパートが新築なら10年程度は一定の状態が維持できると考えられますが、中古アパートの場合は、大なり小なり傷んだ状態であるため、購入直後に修繕が発生するケースもあり、アパート経営の開始早々から出費の憂き目を経験することになります。

そうでなくても、一定のサイクルで補修・メンテナンスは発生します。具体的には、外壁、屋根、鉄部、舗装など建物本体に関わる箇所で、モノによっては足場を必要とするなど、工事が大規模になることもあります。また、上下水道配管の高圧洗浄については数年に一度行う必要があり、劣化の度合いによっては配管自体の交換が必要となる場合もあります。

突発的なリスクとしては、各部屋に設置している給湯器やコンロなどは、ある日突然点火しなくなることも珍しくなく、数十万単位の費用が発生します。さらに、設備会社との連携に不備が生じると入居者に迷惑を掛け、想定外の出費が発生する恐れもあります。

リスクヘッジ

リスクヘッジリスクヘッジとは「将来的に発生し得るリスクに備えた対策を講じること」です。前項でご紹介したリスクごとに必要な対策を説明していきます。

市況変動リスクへの対策とは?

アパートオーナーだけを優遇するような政策を国や銀行が出せるはずはありませんので、市況変動リスクを完全にヘッジするのは不可能でしょう。でも、唯一融資金利上昇リスクについてはヘッジできる可能性が残されています。

①変動金利を選択せず固定金利にする

住宅ローンと同じく、アパートローンでも変動金利と固定金利の選択が可能です。固定金利は全期間金利が変わらないというメリットがありますが、変動の方が金利が低いためほとんどの方が変動金利を選択されます。とは言え、超低金利状態の今、固定金利も超低金利状態です。

また、金融機関の立場からすると、金利が上昇した場合、以前に貸し出した固定金利水準が上昇後の変動金利水準を下回ってしまうことから、変動の方が金融機関の収益が確保しやすく、暗に変動へと誘導してきます。という事は、将来的な金利上昇に備えての固定金利選択は、市況変動リスク対策として有効と言えます。

②期間固定金利型のローン

これは、一定期間は固定金利で、期間終了後に固定・変動・期間固定が選択できる形態です。アパート経営開始当初の収支計画が立てやすく、市況変動にも対応しやすいバランス型の形態と言えます。固定期間は3年~5年が主流で、国内の銀行だけでなく多くの外資系金融機関で取り扱われています。

賃料未収リスクの事前策とは?

賃料未収については、アパート経営開始前と開始後では対策が異なります。賃料未収リスクの事象ごとにその対策を説明していきます。

①空室リスク対策(AP経営開始前)

空室リスクを防ぐためには、アパート経営開始前の「物件選び」と「不動産会社選び」が重要です。

〔物件選び〕
○立地条件
・最寄り駅からの所要時間は徒歩15分以内が目安
→実際に歩いて本当に15分以内かを確認
・郊外の単身用アパートの場合、大学へのアクセスが良いか確認
○外観・間取り
・スタンダードな物件を選ぶ
→飽きの来ないスタンダードな外観や間取りは、長く入居してもらえる可能性が高い
○賃料設定
・賃料相場の確認
→どんなに優良な物件でも、設定賃料が相場より高ければ、空室になった時の募集が困難
・需要減シーズンの対策
→7~8月など需要が落ち込む時期の退去発生に備えて、礼金ゼロやフリーレント2ヶ月などその時期限定の注目を集めるサービスを検討

〔不動産会社選び〕
何よりも、集客力のある賃貸仲介会社を選ぶことが重要で、その判断基準は、情報サイトへの登録数やホームページの充実度をチェックすると良いでしょう。賃貸情報の検索では、ほとんどの方がパソコンやスマホを利用しており、Web環境は集客にダイレクトに影響します。

また、入居者への対応がしっかりしているかどうかも重要なポイントと言えます。日常のメンテナンスやクレーム対応がしっかりしていれば、入居者の満足度向上、退去率の低下につながります。入居者対応の判断基準としては、どのくらいのアパート・マンションを管理しているか、そしてマンション管理資格者が何人いるかなどをチェックすると良いでしょう。

②家賃滞納リスク対策(AP経営開始前&開始後)

家賃滞納は事前に把握することが難しいリスクですが、対策がまったく無い訳ではありません。ここでは具体的な対策法を2つご紹介します。

・不動産会社と管理委託契約を結ぶ際、借主の面談と保証人確認を徹底してもらうべく書面に記載する。
・賃料の確実な支払いが為されるよう保証会社や賃料のクレジット払いを促す。

注意点として、入居審査を強化しすぎたり、滞納への保全として敷金の額を多くするなど、付加条件を多くすると検討客から敬遠されるため、対策が行き過ぎないようにすることです。

③事件・事故リスクの対策(AP経営開始前&開始後)

これからアパート経営を始めようと考えている方は、事件・事故物件は購入しない方が良いでしょう。確かに、事故物件を専門に買い取る業者もいますが、一般人には相当高いハードルです。

では、アパート経営開始後に事件等が発生してしまった場合、新たに募集する際に「心理的瑕疵あり」としてその事実を公表・告知する義務があるため、入居募集は難しくなります。

とは言え、ずっと空室のまま募集を止めておく訳にも行きません。そこで、事件等のあった部屋だけをウィークリーやマンスリー形式で募集するという方法があります。さらに、居住用ではなく事務所やトランクルームとしての利用も有効な方法です。不本意に感じることもあるでしょうが、できるだけリスクを抑えるためにも、起きてしまった事は頭を切り換えて柔軟な対応を心掛けるようにします。

災害・老朽化リスクへの対策とは?

保険災害リスクには「保険」が最も有効な対策でしょう。一方、老朽化リスクには、定期的なお手入れで“アンチエイジング”してあげることが重要です。

①天災・火災リスク対策

アパート経営では必ずと言っていいほど火災保険に加入されますが、保障の範囲としては火災以外でも対象となる場合があります。なかには、主契約に強風、水害、落雷、雪害などが含まれている保険や、火災になってから復旧するまでの賃料収入を保障してくれる保険もあります。

次に地震保険ですが、その加入者は近年増加してきたとは言え、それでも約30%の加入率と低いのが実態です。火災保険に付帯して加入しなければならない地震保険は、その高額な保険料のために加入を見合わせてしまう方も多いようです。

ただ、地震保険は最初に加入しないと、後から追加加入できないケースもあるため、早計に判断することのないよう注意するようにしましょう。なお、地震保険の注意点としては、地震が原因で発生した火災は地震保険の範疇となる点です。また、アパートの装備不良から、入居者・通行人・車両などに傷害・損害を与えてしまった場合の「施設賠償責任保険」という保険もあります。

②老朽化リスク対策

前述の通り、老朽化リスクには、一定サイクルで発生するものと、突発的に発生するものがあり、修繕・復旧ための費用は、原則としてアパートオーナーの負担となります。その費用を捻出するために、毎月の賃料収入の中から一定額を修繕積立金としてストックしておく必要があります。積立て額の目安は賃料の3%から7%程度で、この費用を盛り込んだ収支計画を組む必要があります。

3.まとめ

サラリーマン大家さんという言葉があちこちで聞かれるようになり、不動産投資が一般個人にとって身近な存在となってきました。サラリーマンであると同時に複数のアパートを保有し、成功を収めている方の事例が書籍などで紹介されています。しかし、成功者の“自慢話”だけで安易に流行に乗り、その多くが失敗に終わっているというのも現実の話です。

今回は、アパート経営のメリット・デメリット・リスクについて詳しく解説してきた訳ですが、これからアパート経営を考えている方には、とりわけ「リスク」と「リスクヘッジ」に関心を持って頂きたいと思います。メリットは一定の手順を踏むことによって自力で得ることも可能ですが、リスクは自力で回避できないものの方が多いのです。

- 2016年10月26日