「合法的民泊運営は可能か?」行政書士が語る、違法にならない民泊運営

近年、訪日外国人の増加とともに「民泊」が注目されてきています。しかし、実際に合法的に民泊を運営するとなると様々な条件、ルールがあります。国の定める法律や、自治体による条例に基づいた民泊運営をするためには、すべてのハードルをクリアしなくてはいけません。

そこで今回、合法的な民泊をするにはどうした良いかを探るために、2016年6月14日東京ビッグサイトで開催された住宅イベント「賃貸住宅フェア2016」にて行われた、行政書士、阪本浩毅氏による、「民泊」に関するセミナーを取材。その内容を紹介していきたいと思います。

<プロフィール>
阪本浩毅氏
昭和53年7月生まれ。法政大学法学部法律学科卒業後、旅行会社JTB、司法書士事務所、行政書士法人を経て行政書士サカモト法務オフィスを開業、その後行政書士法人シグマを設立。運輸業・観光業の許認可法務を専門として活躍中。

そもそも民泊とは?

「民泊」の定義は、自宅の一部や空き別荘、マンションの空き室などを活用して宿泊サービスを提供するものです。実際に自分の部屋の一部を外国人旅行者に提供したり、自分の所有するマンションやアパートの空き室を他人に提供したりする人が最近増えています。
しかし、中には違法な民泊をしている人も非常に多いのです。

民泊増加は訪日外国人の増加が影響

増加年々、訪日外国人が増加し、2016年の1月~5月の訪日者数は970万人と言われています。訪日外国人が増えるものの、日本の宿泊施設は全く足りていないため、外国人旅行者も宿泊施設を探すのに一苦労するという話を耳にします。

そのような中、注目されているのが「空き家の活用」です。
最近は日本全体で空き家が増え、管理不足や老朽化による倒壊の恐れや防犯面でも問題が指摘されています。
そこでこの「空き家」を外国人旅行者に提供することで、宿泊施設の不足を補うことができ、空き家になってしまう住戸を減らすことが出来ます。そのうえ収益を得られるとして、空き家を利用した民泊は、ビジネスチャンスとして注目されているのです。

合法的な民泊と違法な民泊がある

あまり知られていませんが、実は民泊を運営するうえで様々な条件や守らなければいけないルールがあります。
まず、民泊を運営するには「旅館業の許可」が必要になってきます。民泊で旅館業というと大げさなイメージがあるかもしれませんが、旅館業には大きく分けて4つの定義があります。それに該当する営業については、必ず許可が必要になってきます。

1. 宿泊料を徴収している
基本的にビジネスとして民泊を運営するのであれば当然当てはまることになります。

2. 社会性がある
「社会性がある」に関しては当てはまるケースと当てはまらないケースがあります。
ただ、友人や知人を泊めるというだけではなく、広告などを利用して幅広く募集をかけるなど、不特定のゲストを泊めるために何らかのアクションを起こしていると、この項目に該当することになります。

3. 反復継続性がある
「反復継続性」というのは、ゲストを継続的に募集している場合です。たとえば、「春だけ」などの季節限定の募集だとしても、これに該当することになります。

4. 生活の本拠ではない
「生活の本拠ではない」というのは、ゲストの宿泊日数が「1か月未満」の場合です。

この条件を満たしていながら、無許可で民泊を営業している人が後を絶たず、年々取り締まりが強化されているのです。

合法的民泊を行うための選択肢

3つの選択肢合法的に民泊を営業するためには、3つの選択肢があります。

1. 特区民泊

「特区民泊」とは、国が指定した区域で民泊を運営するというものです。
都道府県知事、市長、区長などに認定してもらうことで「旅館業の許可」を得ずに運営することが可能です。2016年6月現在では「東京都大田区」「大阪府」ですが、今後「大阪市」も指定される予定です。
旅館業の許可なしで営業することはできますが、特区民泊にも守らなければいけないルールがあります。

◯最低宿泊日数は6泊7日
◯宿泊者一人当たりの最低床面積25㎡(台所、浴室、トイレ、玄関なども含める)
◯近隣住民への周知(同意までは求めていない)

「特区民泊」では、以上の条件を満たしてれば、「住宅」という用途のままの住戸でも民泊を運営することができます。そのため、旅館業法に基づいて改造したり、建て直したりする必要が無く、コストも低く運営することができます。

2. 簡易宿所

もし民泊を運営したい地域が政府や自治体が指定した「民泊特区」以外だった場合、「簡易宿所」という選択をしなくてはいけません。
しかし、この簡易宿所としての営業は少々面倒な上、民泊特区での営業に比べ、かなりコストと手間がかかってきます。
細かい条件がかなりありますが、簡易宿所として運営するポイントとして、以下の4つが重要になってきます。

1. 旅館業法に基づいていること
2. 要件緩和とローカルルール
3. 建築基準法に沿った建物か
4. 消防法に沿った建物か

先ほども説明したように、定常的もしくは断続的にゲストを募集し、宿泊料を徴収するのであれば、必ず「旅館業の許可」が必要になっています。簡易宿所についてもこれに該当しますので、旅館業法に適合していることを判明させたうえで、許可を得る必要があります。

次に、「要件緩和とローカルルール」に関してですが、これが最もややこしいものになります。民泊においては国が定めた条例よりも、地域が定めた条例を優先的に満たさなくてはならないという決まりがあります。
そのため、たとえ国の定めた要件の方がハードルの低いとしても、厳しい条件である地域の条例を守らなくてはならないのです。

また「建築基準法」と「消防法」に適合していることも重要です。「建築基準法」には、耐火性能に関するものや非常用照明の設置、階段の寸法や廊下の幅など、様々な細かいルールが存在します。「消防法」に関しても消火器具の設置や火災報知機の設置、避難経路の確保などのルールが存在しており、その全てに適合している必要があります。

このように、簡易宿所として営業をする場合にはたくさんの条件を満たす必要があります。民泊特区での営業に比べてコストも時間もかかるため、デメリットが大きいと言えるでしょう。

3. 新制度を待つ

最後の選択肢としては、「新制度を待つ」ということです。
厚生労働省と観光庁は平成28年度中に、現在問題になっている「民泊サービス」について、新制度が作る見込みです。

<新制度として検討されている内容>
1.1日単位で利用者に貸し出し(時間帯の貸し出しを排除)
2.住宅提供者、管理者、仲介業者に対する規制の緩和
3.営業日数制限
4.宿泊人数の制限
5.建物の利用形態に関する制限
6.取り扱い物件に関する制限
7.面積に関する制限(ゲスト一人当たりの面積を3.3m)

現在は民泊に関して厳しいルールが多いですが、この新たな制度によってルールが緩和される可能性が高いと思われます。そのため、この新制度の制定を待って、民泊の営業をするというのも比較的デメリットが少なく、合法的に民泊をする手段と言えるでしょう。

マンションの一室で合法的に民泊運営ができるのか

マンションここまで色々な話をしてきて「結局のところマンションの一室を合法的に民泊として運営することが可能か」ということについてですが、現時点で言えることは2つです。

◯簡易宿所としての民泊運営は、建築、消防、旅館業法など様々なハードルがあるので難しい
◯特区民泊は簡易宿所に比べてどれもハードルが低く認められやすい

一概に「できない」とも「できる」とも言えないものの、マンションの一室を合法的に民泊として運営するのであれば、「特区民泊」がおすすめです。
しかし、実際に東京23区内でマンションの一室で、簡易宿所の営業許可を取得している例はありません。ただ、「許可が難しそう」と思われているだけで、実際には許可をとることが可能そうな物件は出てきています。マンションの一室での民泊運営は、決して不可能ではありません。

民泊運営に一般論は通用しない

私のもとには、日々様々な相談が寄せられています。
中でも「物件」に関する相談や「費用」に関する相談、許可をとるまでの期間の質問などが多く、「どんな物件なら許可をとれますか?」という相談もよくあります。しかし、一概に「これなら許可が取れる」と断言できるものはないのです。

建てられている建物を取り巻く環境は様々です。仮に同じ地域の建物だとしてもその建物の構造や設備も影響しますので、一般論として言えることはほぼありません。実際に保健所の人に見てもらったり、図面を見てみたりしないと、判断出来ないのです。費用や、許可を取るまでの期間に関しても、物件や設備なのでそれぞれ大幅に違ってきます。
早く許可をとるためには、まず図面を用意して保健所で確認してもらうことが大切です。それを先に行うことで今後の進み具合や修正箇所などがはっきりしてくるのではないでしょうか。

今回のまとめ

以上のセミナー内容をまとめると、「民泊」は下記のような現状と課題があることが分かりました。

◯合法的民泊の選択肢は現時点(2016年6月現在)では「特区民泊」と「簡易宿所としての営業」のみ
◯簡易宿所として営業許可を得るのはかなりハードルが高い
◯マンションの一室を運営するなら特区民泊が現実的
◯個々の物件で条件は異なるので一般論では通用しない

民泊の運営は決して簡単なものではなく、様々なルールや条件に適合させなくてはなりません。
しかし、阪本氏は「合法的な民泊は可能である」と断言されています。
ただし、どこまでコストをかけられるのか、どこまで手間をかけられるのかによって、大きく左右されることは確かです。
民泊の運営を検討している方はぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか?

- 2016年06月21日