空き家対策だけではない!?国はなぜ中古住宅市場を活性化させようとしているのか?

最近では、国が中古住宅市場の活性化に取り組んでいます。それは、昨今の日本では空き家問題が社会現象となっていることが一番の原因です。空き家問題とは、その名の通り空き家が増えており、古い建物の倒壊リスクや不法占拠などの犯罪リスクが増えている問題です。政府や不動産会社も空き家対策として様々な対策、サービスを考えていますが、そもそも何故空き家問題は社会現象までに発展してしまったのでしょうか。今回はそんな「空き家問題」を通じて、なぜ国が中古住宅市場を活性化させようとしているのか?についてお話していきます。

目次
1.空き家問題が生まれたワケ
1-1過去の住宅着工数が多いが人口は減っている
1-2マンションは建て替えが大変
2.空き家問題のリスク
2-1放置することによる犯罪、災害リスク
2-2土地有効活用できないリスク
2-3その他リスク
3.中古住宅市場の問題点
3-1一昔前の中古住宅市場
3-2昨今の中古住宅市場
4.中古住宅市場活性化のための対策~中古流通活性化~
4-1「囲い込み」に関しての対策
4-2「仲介保証」について
4-3マンションの建て替え問題に対する対策
5.中古市場活性化のための対策~空き家解消~
5-1空き家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空き家対策法)の成立
5-2空き家に対する解体の通告や強制撤去が可能に
5-3固定資産税の特例対象からの除外
6.まとめ

1.空き家問題が生まれたワケ

空き家何故、最近になって空き家問題が浮上してきたのでしょうか。実は空き家問題は10年ほど前から取りざたされていましたが、昨今の住宅着工数増や、土地活用が再び注目されて以降、それが表面化したのです。

1-1過去の住宅着工数が多いが人口は減っている

空き家が大量に存在する大きな原因は、高度経済成長期に大量に建築された住宅が、一斉に相続や譲渡されていることです。下表のように平成元年から約20年、住宅(表はマンションのデータですが、一戸建ても同じような推移です)の供給は盛んに行われてきました。

一方、日本の人口はというと、ご存知のように右肩下がりです。この状況の中では空き家が増えてしまうのも当然です。冒頭で、「空き家問題は昔からあったが最近表面化した」と申し上げましたが、大量供給された住宅が築20~30年経ち、老朽化が進んできたのも表面化した理由の一つです。

空き家が増えた大きな原因は、このような過去の大量供給と人口減少のバランスの悪さですが、雇用が都市部に集中していることなども理由の一つです。地方の家(実家など)を相続したとしても東京で働いていたらそこに住むことは出来ません。しかし、親族の関係性や将来を考えると売却はしたくない、と考えている方が多く、これが空き家に繋がっている例もあります。

マンションの戸数で言うと平成20年に入り急落しましたが、オリンピック効果などもあり、また盛り返しています。そして、出生率の上昇を政府は課題にしているものの、目に見えた効果はまだ選ら得ていないので、今後も空き家は増え続ける可能性があります。

※全国のマンションストック戸数
全国のマンションストック戸数
出典:国土交通省ホームページ

1-2マンションは建て替えが大変

マンションは木造の戸建てと異なり、頑強なRC(鉄筋コンクリート)造ですので、倒壊のリスクは低いですし、管理会社がキチンと運営していれば修繕なども管理組合が行ってくれます。それ故、戸建てに比べると、空き家になっても倒壊リスクや犯罪リスクは低いです。しかし、マンションは戸建てに比べて建て替える事が困難なので、新しく有効活用するという手段がとりにくいという大きなデメリットがあります。
例えば、築40年程度のマンションであれば賃貸・売却ともにしにくくなりますので建て替えて新しくしたいという方もいます。しかし、既に住んでいる方々の同意が得られなければ建て替えは出来ないので放置せざるを得ないという状況になってしまうのです。

マンションの建て替えは法律上、実質的には入居者同意が必要になります。建て替え期間の仮住まいを避ける方もいますし、費用負担が発生することもありますので、それを嫌がる方がおり、マンションの建て替えは中々上手くいきません。更に、本人が住んでいない場合には区分所有者に連絡すること自体が困難な場合もあります。それ故、頑強で倒壊・犯罪リスクが小さいマンションでも建て替えることが難しいという、また別の問題が浮上するのです。

参考記事:マンション建て替えができない?問題点や法律を事例を踏まえて考える

2.空き家問題のリスク

 
リスク

2-1放置することによる犯罪、災害リスク

空き家を放置するとそこへの不法占拠、盗難目的での侵入、不法投棄など、犯罪のリスクが上がります。その空き家だけの問題であればまだ良いですが、その空き家への侵入目的で近隣住宅にも被害が出たり、不法投棄の問題が周辺に影響を及ぼしたり、空き家の所有者以外の人達にも被害が及ぶケースがあります。

更に、上述のようにRC造のマンションでは倒壊リスクは極めて低いですが、木造の戸建ては倒壊リスクがある上に火災のリスクもあります。これらの問題も、その空き家だけでなく周辺住民にも被害を与えてしまう大きなリスクとなります。

2-2土地有効活用できないリスク

空き家がある場所が本来一等地であったり、住宅街の中でも住みやすいとされているエリアであったりすると非常に勿体ないです。そこに空き家がある限り、建て替えや更地にしての用途変更などが出来ないため、土地の有効活用が出来ません。仮に大きな平屋を取り壊して商業施設を建築できればたくさんのお金が世の中に流通します。それら一つ一つの額は小さいものですが、今や空き家800万戸程度の数があるので、それらを有効活用することにより経済効果は大きなものがあります。

2-3その他リスク

その他には「景観が崩れる」リスクや、所有者の「コスト負担」のリスクがあります。
例えば綺麗な住宅街の中に築40年を超える古い木造の空き家があったらどうでしょうか?その住宅街の印象が悪くなり、相場自体が多少下がってしまうかもしれませんし、その住宅街の景観が崩れてしまいます。
他にも、空き家を所有することで固定資産税が毎年かかってきますし、空き家がマンションであれば管理費、修繕維持積立金などのランニングコストがかかってきてしまいます。それらが家庭の収支を圧迫し、回りまわって日本経済に負の影響をもたらせてしまうのです。

3.中古住宅市場の問題点

失敗日本では欧米に比べると中古住宅市場の割合が少なく、欧米の1/6程度しか中古住宅のシェアがないと言われています。いわゆる「新築至上主義」が少なからず残っていると言えるでしょう。

3-1一昔前の中古住宅市場

新築至上主義の大きな理由としては、一昔前までの不動産流通の不透明性が挙げられます。30年ほど前は、不動産流通市場は閉鎖的でした。欲しい住宅があれば現地まで行き、近くの不動産業者に聞かない限りは相場も売り出し物件も分からない状況です。

更に、代金授受を明記してある契約書の整備も疎かで、今では当たり前の媒介契約や査定方法なども未整備のままでした。つまり、不動産を「売りたい」「買いたい」と言ってもプロである不動産業者の都合で価格や条件が変わり易い不透明な取引が多かったのです。

3-2昨今の中古住宅市場

一昔前に比べると、ネットの普及やレインズの登録義務などをはじめとした法整備がされてきたので、中古住宅流通市場も大分透明性が高くなってきました。更にリノベーション物件などの流行により少しずつ中古市場も活性化が進んでいますが、日本ではまだまだ中古住宅市場が活性化しているとは言い難いです。

昨今の中古住宅市場で一番問題視されていることは、不動産の売買仲介における物件情報の「囲い込み」問題です。囲い込み問題とは、売り主から物件を預かった不動産会社がその情報を囲い込んで、他の不動産会社が購入者を見つけてくる「客付け」を妨害する事です。これは宅地建物取引業で明確に禁止されている不法行為になります。

例えば、Aという土地をX社が仲介しているとします。このX社は土地Aの「売主」と「買主」どちらも自分で探して売買を成立させれば両方から仲介手数料を貰うことが出来ます。つまり、会社として売上が倍になり、仲介を成立させた営業マンにもインセンティブが与えられる会社もあります。それ故、買主も自分で見つけたいという一心で他の会社の客付けがないよう妨害するのです。

参考記事:不動産業界が抱える「囲い込み」問題とは?

上述したように空き家問題が深刻化する中で、中古市場が活性化していない現状は空き家問題の悪化に拍車をかけます。それ故、国は中古市場の活性化を目指しているのです。中古市場が活性化すれば空き家問題が解消し、引いては日本経済に良い影響をもたらすと考えています。更に、過去の考えであるスクラップ&ビルドを払拭し、再利用することにより様々な企業が不動産中古市場に参入できるよう、障壁を下げると言う狙いもあります。

4.中古住宅市場活性化のための対策~中古流通活性化~

活性化前項までで、中古市場を活性化させようとしている理由を述べました。空き家問題も多くなり、日本経済に負の影響を与えている中、人口は減少の一途をたどります。それ故、中古住宅市場を活性化させないと空き家問題も深刻になりますし、不動産を起点とした経済対策が進まないため、国は中古市場の活性化を積極的に行っているのです。具体的な対策をこの項ではお話します。

4-1「囲い込み」に関しての対策

前項「3-2昨今の中古住宅市場」で述べた囲い込みの対策です。国土交通省は、仲介会社間で物件情報を登録・閲覧できるレインズと呼ばれるインターネットシステムに、販売状況を表す「ステータス」を設置しました。これにより、仲介会社のほかに売り主も公的なシステムに則って、販売活動の状況を確認できるようにする。
狙いとしては、このステータスを設置することにより、他の不動産会社が販売状況を問い合わせてきた時、まだ客付けが出来ていなにも関わらず「顧客と交渉中なので、今は紹介できない」と偽ることを防止するのが狙いです。

4-2「仲介保証」について

大手不動産仲介会社が取り入れている仲介保証についても中古活性化の一役を担っています。これは、物件を引渡した後に瑕疵(欠陥)が見つかり、買主から売主に足して瑕疵担保責任(欠陥を保証してくださいという責任)が請求された時に力を発揮します。通常は瑕疵担保保険に入る事で不安が解消出来るのですが中古住宅市場ではこの保険はほとんど認知されていません。
しかし、大手仲介会社が提供する「仲介保証」は、この保険と同じ保証を、売り主が費用負担せずに受けられるサービスになります。つまり、この制度により、中古住宅に対する購入不安が和らぎ、結果中古住宅市場の活性化に繋がるのです。

4-3マンションの建て替え問題に対する対策

マンションの建て替え「マンション建替法」の改正(2014年12月施行)によって、マンションの敷地売却が4/5以上の賛成で可能となりました、従来も建て替え自体は入居者の4/5の同意で行えましたが、建物の解体や跡地売却は入居者全員の同意が必要だったので、実質全員の同意が必要だったのです。しかし、今回、敷地売却が4/5以上の賛成で可能になったため不動産会社に売却できる道が広がり、マンションの建て替えが従来よりはスムーズに行えるようになったのです。

参考記事:マンション建て替えができない?問題点や法律を事例を踏まえて考える

5.中古市場活性化のための対策~空き家解消~

解決策空き家問題を再三お話してきましたが、それを解消するための具体的な対策が整備されています。

5-1空き家等対策の推進に関する特別措置法(以下、空き家対策法)の成立

平成26年11月に空き家対策法が成立しました。これは上述したような、リスクのある空き家を減らすことを目的としています。勿論、「空き家の所有者が空き家を有効活用しやすいように」という意図もありますが、周辺住民の安全や財産の保護も目的とした法案です。

5-2空き家に対する解体の通告や強制撤去が可能に

この空き家対策法の成立で一番大きなことは空き家の処置を第三者が行えると言う点です。倒壊寸前の古い空き家や、管理や修繕がされていなく著しく景観や衛生上マイナスとなる空き家については、強制的に対処が出来るようになりました。勿論、すぐに解体・撤去が行えるワケではなく手順を踏む必要があります。

最初は修繕や解体、木が生い茂っている家などはその伐採などの助言や指導を行います。指導を行った後に一定期間改善を行わなければ「勧告」に移ります。指導から勧告になる大きな違いは固定資産税の特例対象物件(後述します)から外れてしまうことです。指導・勧告と聞くと、まだ行動に移す必要がないと思われがちですが、この時点で既にイエローカードが出されているのです。

そして、勧告でも改善されなければ「命令」に移ります。命令に移ると、物件の所有者にも意見を述べる機会が与えられるので改善出来ない理由などを主張することができます。しかし、の主張が受け入れられず命令にも従わない場合には、「強制対処」となります。命令後に改善に着手すれば良いわけではなく、改善を完了する必要があるので、改善しているフリは認められません。
この法案により、今までは個人の裁量でしか撤去が出来てなかった空き家を、国として撤去することができ、周辺の安全や財産の保護が行えるようになったことは大きな進歩です。

5-3固定資産税の特例対象からの除外

上述したように空き家に対する改善勧告があると、固定資産税の優遇措置が除外されます。固定資産税には時期によって税率の軽減や控除額の優遇措置がありますので、それが受けられないということは固定資産税の負担額が上がると言う事です。固定資産税自体、年間10万円単位でかかってきますので、この措置は所有者にとっては大きな負担になります。それ故、この特例により空き家対策の推進が期待できます。

6.まとめ

国が中古市場を活性化させる理由を簡単にいうと「経済の活性化」と「周辺住民の保護」です。一昔前まではブラックボックスの中にあった不動産流通業界の透明性を更に高め、スクラップ&ビルドの考え方を払拭することによって、世の中に回るお金は増えます。
そして、社会問題化している空き家問題を解消することにより周辺住民の保護を行うと同時に、不動産中古市場の活性化に繋げているのです。空き家問題をはじめ中古住宅市場に関しては、まだまだ改善の余地がありますので、今後更に進化していくでしょう。

- 2016年05月13日