大地震に備える!マンションの防災対策~ソナエルワークス代表 高荷智也氏インタビュー~

世界の中でも、自然災害が多い国として知られる日本。2011年に起きた東日本大震災に続き、先日の熊本地震では多くの方が被災し、改めて「防災対策」について考えたという人もいるのではないでしょうか。たとえ頑丈なマンションに住んでいても、未曾有の災害などに遭遇した場合、予期せぬ被害が起きる可能性もあります。

今回は、備え・防災アドバイザーとしてご活躍され、総合防災情報サイト「備える.jp」の運営者である、ソナエルワークス代表 高荷智也さんに、防災リスクから考えるマンションの選び方やチェックしておくべきポイント、マンションで気をつけるべき防災対策や準備しておいた方がよい防災グッズなどについてお伺いしました。

マンション購入を考える際には、ハザードマップなどを確認して災害リスクの低い場所を選ぶべき

マップ―マンション購入の際に、防災の観点から注意すべきポイントがあれば教えて下さい。

マンションに限らず住居を決める際には、災害リスクの低い場所を選ぶことが非常に重要になります。住宅の購入を考える際には、地域の被災想定区域などが記載されている「ハザードマップ」を見て、周辺の災害リスクを確認しておきましょう。インターネット検索で「○○市 ハザードマップ」などと、マンションを買おうと考えている地域を入力すれば、該当地域のハザードマップが出てきます。災害が起きた際の避難場所なども記載されていますので、見ておくとよいでしょう。

地震による被害を抑えるためには、地盤の堅さも重要になります。インターネットから無料で閲覧できる「地盤サポートマップ(ジャパンホームシールド株式会社)」や「地盤安心マップ(地盤ネット株式会社)」などの情報を参考にするのもよいでしょう。
ただ、マンションの場合には地盤改良工事などを行うため、そこまで地盤について神経質に考えなくてもよいとは思います。しかし、大地震などの災害が起きた場合、マンションの建物自体が無事でも、周辺の道路などが液状化してインフラに影響が出るという可能性も考えられます。マンションが建っている周辺環境が災害に強いかどうかを見ておくことが大切であるといえます。

都心でも古い木造住宅などが集まるようなエリアは、災害時に大規模火災が起きる可能性がある

―マンションを購入するエリアを決める際に、人が大勢暮らしている都心や、ファミリー層が多く住むような場所は「災害が起きても大丈夫なのではないか」と考える人もいると思います。「一見安全そうに見えても、実は危ないエリア」というのはありますか?あるとしたら、どのような特徴を持った街でしょうか?

ひとつの方法としては、先ほどご説明した「ハザードマップ」で判断するというのがあります。
津波による浸水想定地域や、谷間など水害の地域が大きくなりやすそうな地域はもちろん避けるべきです。
もうひとつ気をつけておいた方がよいのは、東京の山手線と環状7号線沿いに挟まれているドーナツ状のエリア、古い木造住宅が密集しているような地域(参考:東京都建設局)です。このような地域の場合、マンション自体は頑丈にできていても、周辺に木造住宅が密集していると、大地震などが起きた際に大規模な火災が発生する可能性がありますので、そのような地域は避けた方がよいでしょう。周囲もマンションが多かったり、ビル街や大通り、公園などがあったりする不燃地域に住むことは問題ありません。

基本的に、都市部などの人口密集地域は便利な反面、災害に弱いというリスクを抱えています。とはいえ、災害時にインフラが滞ってしまうような「陸の孤島」に住んだほうがよい、ということではありません。ただ、大地震などの災害が起きた時には、人口が多い地域は「支援の手」が分散しがちになるという側面を持っています。同じ地域に被災した人数が少ない方が、手厚い支援を受けられるということもあります。災害リスクという点だけで見れば、都心よりも郊外の方がおすすめであるともいえます。

しかし、マンションを購入する場合は、予算や、職場や学校までの距離なども考慮する必要があるため、購入するエリアの選択肢がある程度限られると思います。そのため「災害に強い・弱い」ことを購入の決め手にするというよりも、複数のマンションが同じ条件で購入を迷っている時などの「ひとつの指標」として考えるとよいでしょう。

より耐震性の強いマンションを見分けるためには「住宅性能評価書」がひとつの指標となる

評価―基本的に、国で定められた耐震基準を守って作られたマンションの場合、古い木造一戸建てなどに比べれば、大地震などが起きても倒壊のリスクは少ないと思います。その中でも、より耐震性の強いマンションの見分け方はありますか?

2000年に、マンションに限らず「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が施行され、住まいの構造や快適性耐震性などを評価認可する「住宅性能評価書」を取得できるようになりました。
このなかの一分野、地震に対する強さは3段階の等級となっておりますが、全てのマンションが満たさなければならない「新耐震基準と同等(等級1)」よりも高い評価である、新耐震基準の「1.25倍(等級2)」、「1.5倍(等級3)」の耐震性能表示があるマンションは、より頑丈で耐震性に優れているといえるでしょう。
また「制震設計」「免震設計」など、揺れを免れる技術を採用しているマンションもあるので、選ぶときのポイントのひとつにするとよいと思います。

ただし、現実的には等級2以上のマンションの数はあまり多くないこと、また等級が高ければ地震に対して万全であるとも言い切れない(地盤・構造・揺れ方で被害が異なってくるため)ため、あくまでも目安として捉えることが重要です。
最近では鉄筋の太さやコンクリートのかぶりなど、耐震に関するアピールをしているマンションも多く見かけますので、等級が同じであれば揺れに対する強さは同じになりますので、例えば同じ条件の2つのマンションなどで迷った場合には、実際に見に行ってみて「柱はこっちのマンションの方が太い」など、細かく比較して決めるという方法もあります。
そのほかには、立地や二次災害の恐れ、付加価値などで選ぶことになるでしょう。

マンションの場合は一定の基準を満たしていれば、欠陥住宅でない限りは大地震などが起きても即座に潰れることはありません。
そのため、火災の可能性が低い、丘の上に建っていて水害を受けにくい、インフラが整っていて町が新しいなど、周辺環境を重視し「災害が起きて建物が無事だった後のこと」を考えて選ぶというのもよいでしょう。また、専門家に相談してみるのもひとつの効果的な方法だと思います。

防災対策を行う上では「自分と家族が死なないこと」を最優先に考えることが必須

固定―大きな地震などが起きた時に部屋の中にいた場合、食器棚が倒れる・本棚から本が大量に落ちてくる・倒れた家具で部屋から出られなくなってしまう、などの事態が想定されます。災害時の被害を少なくするために、例えば家具の位置や置き方など、家の中で気をつけておいた方がよいポイントはどこでしょうか?

地震対策及び防災対策を行う上で、何よりもまず優先しなければならないことは「自分と家族が死なないこと」です。「部屋の中のどこに手をつければ家族が死ぬ確率を減らせるか」ということを、まずは考えて対策を行うことをおすすめします。

まず、自分たちが寝ているベッドや布団に直撃する場所の家具は固定しておきましょう。
そのほかに、リビングのテーブルやこたつなど、家族が集まる場所に落ちてくる可能性のある家具、お子さんがいる場合には子ども部屋や赤ちゃんのベッドの横にある家具など、その家具が倒れたりガラスが砕け散ったりすることで、自分や家族の身に危険が及ぶ場所を優先して固定しておくようにしましょう。
その次に、その家具が倒れた場合に廊下をふさいでしまいドアが開かなくなるなど、災害が起きた時の避難に支障が出る可能性のある場所にある家具を固定します。

家具を固定する道具として、一番頑丈なのは「L字金具」で直接壁に固定をする方法です。
L字金具は価格も安く、ホームセンターなどで簡単に手に入ります。背の高い家具や倒れて困るものは、L字金具で固定しておくと安心です。マンションによっては、金具を柱や壁に使うことを禁止している所もありますので、事前に規約を確認したり、問い合わせたりしてから行うようにしましょう。
L字金具を使用するのが無理という場合は「つっぱり棒」や「ジェルマット」を併用するなどして、家具が倒れないような対策を取りましょう。

【L字金具に関するマメ知識】

L字金具で家具を固定する場合には、L字金具の向きにコツがあります。
例えば棚の上の部分をL字金具で部屋の壁に固定する場合、「L」の長い部分を壁につけて、短い部分を手前に来るように固定する方が多いと思います。
実はその方法より、L字金具の短い部分を棚の上に引っかけて、長い部分を棚の後ろに来るように固定する「逆L」にした方が、より頑丈に固定することができ、見栄えもよくなるのでおすすめです。

タワーマンションなどの高層階に住む人は特に、家具の固定や防災備蓄などの対策をしっかり行うこと

タワーマンション―建物の種類によっては、大地震が起きた時の揺れ方や、その後の状態などに違いが出てくると思います。例えばタワーマンションと低層マンション、一戸建てとマンションで、防災対策において気をつけるべき点に違いはあるのでしょうか。

タワーマンションと低層マンションの場合を比べた場合、タワーマンションは大地震が起きた時に「長周期振動」の影響を受けやすくなります。長周期振動は東日本大震災の時も問題になり、先日の熊本地震でも、もしタワーマンションが建っていたら、長周期振動で強い被害が出ていたことが考えられます。

大きな地震で長周期振動が起きると、タワーマンションなどの高層階に住んでいる場合、左右方向にものすごい振れ幅の揺れを感じることになります。
そのため、家の中の家具をきちんと固定していないと、家具が部屋中をミキサーのようにかき回してしまい、部屋が大惨事になってしまったり、大きなケガにつながったりしてしまう可能性があります。
そのため、高層階に住んでいるご家庭は特に、テレビやスピーカー、電子レンジ、冷蔵庫、金庫、ピアノなどの重量のある家電や、キャスターのついた家具の固定を、通常のマンションより厳重にやる必要があります。また、アクアリウムなども倒れて割れてしまう可能性があるため、注意しましょう。

一戸建てであれば、家の外に逃げる場合にドアから出られなくても窓を割って脱出することができますが、マンションは屋外に面した窓やドアが少ないという点があります。また、マンションは建物が大きく変形した場合にドアや窓が開かなくなる可能性があり、コンクリートの筐体のため破壊することも難しくなります。そのような事態に備え、ドアや窓を破壊できるようなバール、ハンマー、軍手などの「脱出用の道具」を用意しておくことをおすすめします。

命が助かっても、タワーマンションの高層階などに住んでいる場合、エレベーターが止まって外出が難しくなる可能性や、下水配管がずれたり破損したりして使用できなくなる可能性があります。そのため、非常用トイレ、水、食料などの備蓄品は最低でも一週間分以上用意しておくことをおすすめします。

もし水の配給などが来ても、重い水のタンクを持って高層階まで階段で上がれるかというと難しいでしょう。
水に限らず、お茶などを多めに買っておいて非常用にとっておいても大丈夫です。「普段ペットボトルの水を使わない・飲まない人」というご家庭もあると思いますので、そのような場合には必ずしも水にこだわる必要はなく、例えばウーロン茶や炭酸水など、普段からご家庭で飲んでいるものを多めに家に用意しておくとよいでしょう。

家族全員で災害時の行動や連絡手段の方法を決めておき、共有しておくことが身を守ることに繋がる

―小さい子ども、高齢者、ペットなどと一緒に暮らしているご家庭の場合には、大きな災害が起きた時の心配が特に大きいと思います。そのような家庭は、普段からどのような防災対策をしておくべきでしょうか。また、家に彼らを残して外出している時に大きな災害が起き、別々の場所で被災することもあると思います。大きな災害が起きた時の、家族が取るべき行動のポイントなどについて教えて下さい。

例えば家族の中に要介護者がいるなど、災害が起きた時に弱い立場になってしまいやすい方と一緒に住んでいるご家庭ほど、徹底した防災対策が必要です。寝た切りの介護者や赤ちゃん、ペットなどは、いざという時に自分の身を守ることができません。「二次災害の恐れがない場所に住む」「大きな災害が起きても潰れない頑丈な家に住む」「家具を完全に固定する」などの命を守る対策をしっかりやっておくほか、災害後に避難所に行かなくていいよう、水や食料、非常用のトイレ、避難所で配布されない防災グッズなどの備蓄を多めに用意しておくこともポイントです。
避難所生活は、高齢者や小さな子ども、ペットなどには特に負担が大きくなります。家が無事で、避難所に行かなくても生活ができるような環境を整えておくことをおすすめします。

災害が起きる前に普段からやっておいたことがよいこととして、災害が起こった際に「自分たちの住んでいる地域に津波が来るかどうか」「どんな二次災害が起きる可能性があるか」などについて、ハザードマップなどを家族で確認しておくようにしましょう。

また、「どの避難所へ行けばよいか」「非常時に持っていく荷物の家の中の置き場所」などをきちんと家族で共有しておくことが必要です。また、災害時に子どもが家にひとりでいたとしても、自分ひとりで決められた場所に逃げるように普段から教えておくことです。

もうひとつは、家族間の連絡手段を決めておきましょう。
携帯電話やスマホを持っていないご家族の場合、連絡先を書いたメモや家族の写真を持たせておくことをおすすめします。電話を持っていても、被災地は電話がつながりにくくなるため、家族がバラバラの場所で被災した場合には、例えば「離れて暮らす親戚のおばさんに安否を電話で報告する」などと決めておき、電話番号を共有しておくという方法もよいでしょう。

また、家族全員がスマホを持っていて、LINEやSNS操作が可能であれば、災害時はLINEの家族グループで連絡を取り合う、SNSで家族を友達登録しておき、そこでやりとりする方法もあります。それ以外には、災害伝言ダイヤルを使用するという方法もあります。どの方法にするとしても、連絡手段を事前に決め、明確なルールを家族で共有しておくことは必須です。

懐中電灯、折り畳みスリッパ、軍手、笛の4点をポーチに入れておき、手の届く場所に置いておく

懐中電灯―大きな災害に備えて、自宅に防災グッズを用意しておこうと考える人も多いと思います。「これだけは絶対にあった方がよい」という防災グッズはあるでしょうか。また、マンションで暮らすうえであった方がよい防災グッズなどがあれば教えて下さい。

マンションの場合は、水や食料と同じ位の量の非常用トイレを用意しておきましょう。
そのほかに、真夜中に大きな地震が起きて地域が停電した場合のことを想定して、用意しておいた方がよいものがあります。100円ショップで売っているもので十分ですので、懐中電灯、折り畳みスリッパ、軍手、笛をポーチに入れておき、地震の揺れが来ても飛ばされないような、ベッドの引き出しや布団の下などにしまっておきます。
手の届く範囲に「明かり」「手足を守るもの」「家の中に閉じ込められた時に存在を知らせるもの」をまとめて用意しておくのです。

今は、寝る時に枕元にスマホを置いている方も多いと思いますが、強い揺れの場合には部屋のどこかへ飛んでいってしまう可能性があります。また、玄関に非常用の持ち出し袋を用意していたとしても、部屋の中が暗いと見えずに玄関まで行けないことや、部屋に懐中電灯を置いていても、どこにあるか見えなくなる可能性があります。
また、大きな地震が起きた時に津波に襲われる可能性がある地域は特に、一分一秒が生死を分けることになるため、素早く非難できるよう必ず用意しておきましょう。

ポーチの中には、目が悪い人は予備のメガネ、持病がある人はいつも飲んでいる薬やぜんそくの吸入器なども、できれば入れておくと安心です。視力が悪い人は、大きな地震でメガネが飛んでいってしまったりすると周囲が見えず、身動きが取れなくなってしまいます。昼間であれば床を這って移動することもできますが、真夜中で明かりもなければ難しくなります。真夜中に大きな災害が起きた時でも、すぐに身動きを取れるようにしておく準備が必要です。

- 2016年06月01日