マンションの売却を行う際、必要書類として真っ先に確認したいものが【権利証(登記済権利証)】または【登記識別情報】が手元にあるかどうかです。権利証や登記識別情報は一度紛失してしまうと再発行されませんので、大切に保管しておきたいものです。
では、万が一、権利証や登記識別情報を無くしてしまった場合、マンション売却は出来ないのでしょうか?ここでは権利証や登記識別情報を紛失してしまった場合のマンション売却について解説します。
まず、権利証(登記済権利証)と登記識別情報の違いについてですが、平成17年の法改正によりそれまで【権利証(登記済権利証)】と呼ばれていたものの発行が廃止され、その代わりとして登記識別情報通知と言う書類に英数字12文字で表記された【登記識別情報】が発行される事となりました。登記識別情報は不動産に関するパスワードのようなものと捉えていただくと分かりやすいかもしません。
権利証の発行が廃止されたとは言え、平成17年以降に全ての不動産所有者に対して登記識別情報が送付された訳ではなく、権利証は所有者の手元に残りその効力を保っています。平成17年3月以降に不動産に係る登記情報の変更等を行う際には、権利証を提出しそれが登記識別情報となって返ってくるという仕組みです。ですから、権利証(登記済権利証)は法改正後に効力を無くした訳ではなく、引き続きその効力を持っていますので大切に保管しなければなりません。
権利証(登記済権利証)や登記識別情報は様々な登記情報を変更する際に必要となります。例えば、ローン完済時の抵当権抹消登記、所有者の住所が変わった際の住所変更登記、売買を行った際の所有権移転登記などです。また、権利証(登記済権利証)や登記識別情報は一度紛失してしまうと再発行をしてもらう事ができません。
では、もしマンション売買の際に権利証(登記済証)や登記識別情報を無くしてしまっている場合にはどのようにすれば良いのでしょうか?具体例を見てみましょう。
結論から言うと、権利証(登記済証)や登記識別情報を無くしてしまっていてもマンション売却は可能です。しかし、一般的な売却に比べて追加の手続きや費用が発生しますので、権利証(登記済証)や登記識別情報が手元にあるほうが間違いなくスムーズなマンション売却が可能となります。
権利証(登記済証)や登記識別情報がない状態でのマンション売買売却には以下の3通りが存在します。
事前通知方式とは、マンションの売買(所有権移転登記申請)時ではなく、主にローン完済時の抵当権抹消登記等の際に権利証(登記済証)や登記識別情報を無くしている場合に多く用いる方法です。
具体的には、下記のようなフローとなります。
この一連のフローには数週間~1ヶ月近くかかる事になります。
お分かりの方も多いと思いますが、もし仮に事前通知方式をマンション売買(所有権移転登記申請)時に行ってしまうと、通常は残代金の支払いと合わせて所有権移転登記を行うところを、残代金が支払われているのに所有権移転登記完了までに多くの時間差が発生してしまうのです。
また、所有権移転登記の場合は、法務局から『所有権移転登記の申請が来ていますが、間違いありませんか?』という確認書類が送られるのは売主宛てとなりますので、万が一売主が悪意を持ってその書類を期限内に返送しなかったりすると、物件代金は支払われているのに所有権が買主に移転されない、という事態に陥ってしまうのです。これがマンション売買(所有権移転登記申請)時に事前通知方式を使わない最大の理由です。
上述の通り、事前通知方式はマンション売買(所有権移転登記申請)時では基本的に利用しません。代わりに利用する制度がこの【本人確認情報の作成】と呼ばれるものです。
これは、権利証(登記済証)や登記識別情報に代えて、第3者が売主がそのマンションの所有者本人である事を証明する書類を作成するというものです。第3者が作成したその本人確認情報が法務局で認められれば、所有権移転登記等の手続きが可能となります。
この本人確認情報の作成を認められている第3者は司法書士・弁護士等の有資格者となり、メリットは、決済時にその場で作成が行えるため手続きが非常にスムーズで間違いが無い点です。デメリットとしては本人情報確認の作成にあたり、売主はプライベートに関わる事など様々な質問を受ける事になり不快な思いをする可能性があります。また、有資格者に支払う作成費用報酬も数万円~10万円近くになる事があり、非常に高額です。
公証人による本人証明とは、簡単に言うと公証役場の公証人に売主本人であると証明してもらう事を指します。具体的には、司法書士の登記申請に関する委任状に、この公証人が署名・捺印を行い『確かに売主本人で間違いありません』という旨の認証分を付けてもらいます。
公証人による本人確認のメリットとして、まず費用が非常に安い点です。司法書士等の立会いがなければ数千円で作成が可能です。また、プライベートに関して根掘り葉掘り質問される事がなく不快な思いをする事もありません。デメリットとしては、売主本人が平日に公証役場に行かなければならない点、印鑑証明書や物件の謄本など売主が事前に書類を用意する必要がある点、そして書類の不備等により、万が一決済日までに本人確認情報の作成が行えない場合は、売買契約の違約となってしまう可能性がある点でしょう。
費用を抑えたい方や決済日までに時間的猶予がある方は公証役場を利用するのも良いと思いますし、煩雑な手続きが面倒な方や決済日まで時間的猶予のない方は有資格者による作成を利用するのが良いでしょう。また、場合によっては、登記関係は全て司法書士に任せてくださいという不動産会社などもありますので、公証役場の利用を反対されるケースもあります。