マンションを売却しようとした時に、査定額よりも住宅ローン残債が多くなってしまう場合もあります。 その場合でも、マンションを売却する方法はいくつかあります。いずれにしろ共通しているのは、今いくら残債があって、自分のマンションは一体いくらで売れるのか。そして、本当に今すぐ売らなければいけないのかという点を整理する事です。
その点を整理して、どの売却方法がベストな方法かを探りましょう。 場合によっては「今は売却しない方が良い」という結論になるかもしれません。
結論から言うと、住宅ローンの残債が残ってしまう場合には以下3つの処分方法があります。
この3つに当てはまらないと、最後の選択肢である「今は売らない」という結論になります。 この3つのどの処分方法にするかを考えるには順を追って状況を整理する必要があります。
まず自分のマンションの査定額をチェックしましょう。 査定額とは「恐らく売れるであろう金額」なので、絶対に査定額で売れるワケではない点は認識しておきましょう。 心配な人は査定額から更に1~2%程度下落させた金額で考えると良いでしょう。
その査定額とローン残債を比較してみましょう。 査定額の方が上回っているのであれば、「1.通常通りの売却」が出来ます。つまり、売却する事に何ら問題はないという事です。
しかし、売却時にかかる諸費用があることは忘れてはいけません。売却時には売却価格の3.5%~4%程度の諸費用が掛かってきます。 仮に3,000万円で売却するとしたら120万円程度の諸費用がかかります。その120万円も、物件の売却額で賄えれば問題ありません。 しかし、賄えないのであれば「1.通常通りの売却」は出来ません。
また、仮にローン残債の方が査定金額より高い場合にも「1.通常通りの売却」は出来ません。 これらのケースの場合には、手持ち金額などで残債を完済する必要があります。完済することが出来れば、「1.通常通りの売却」は可能です。
前項の結果「今のマンションの残債を完済できない」場合には、次に住む住宅を「購入するのかどうか」を確認しましょう。 仮に、次に住む家が賃貸住宅である場合には、次のステップに進んでください。しかし、新しい家を、住宅ローンを組んで購入する場合には、「買い替えローン」を利用すること出来ます。
買い替えローンの詳細については後述しますが、買い替えローンを組むことができれば、マンションの残債が完済できなくてもマンションを売却することが出来ます。
前項の結果「新しい家を購入するわけではない」場合には、もう一度今売るべきかを考えてみてください。 不動産市況は上下の波が激しいです。そのため、数年待っただけで査定額がグンと上がる可能性もあります。 また、どんどん残債は減っていくので、査定額が残債を上回ることもあるかもしれません。
しかし、どうしても事情があり売却をしなければいけない方は、「任意売却」という方法があります。 この方法で売却すればローン残債があってもマンションを売却できます。任意売却についても、詳細は後述します。
買い替えローンや任意売却を説明する前に、そもそも残債がある場合にはなぜマンションを売却できないかという理由をお話します。 まず結論から言うと、抵当権が設定されたままだからです。
抵当権とは担保として金融機関が不動産に設定する権利のことです。 仮に、住宅ローンの借入者が返済不能の状態になれば、抵当権設定者(金融機関)がその不動産の処分をできます。 その処分で得た売却益を残債の返済に充てるというワケです。
マンション購入時に住宅ローンを組む場合には保証会社が間に入りますので、具体的には以下のような流れになります。
住宅ローンの返済を2~3ヵ月滞納すると、金融機関から電話やメール、書面にてローン返済の催促をされます。
金融機関からの催促にも応じず、更に3ヵ月ほど滞納し続けていると、債権者が金融機関から保証会社に変更になります。 そもそも保証会社とは、借入者がローンを滞納した時に保証してくれる会社です。そのため、この時点で金融機関は保証会社に残債の返済を求めます。 そして、保証会社は借入者の代わりに、金融機関へ残債分のお金を返済します。
そのため、債権者が金融機関から保証会社へ変更になるのです。 これを代位弁済といい、債権者である保証会社はローン滞納者に返済を求めます。
この後は、競売にかける手続きをして、不特定多数に広く物件の売却を告知する「競売」手続きに入ります。 ちなみに競売になると相場価格の5~7割程度の金額まで下がってしまうのです。
※競売については「最も避けたい売却方法の競売を避ける方法」も参考にしてみましょう。
いずれにしろ、抵当権が設定されているということは、このように債権者によってマンションが勝手に売却されてしまうということです。
抵当権は登記簿謄本に記載されている、公的に認められた権利になります。また、この抵当権は物件に設定されていますが、あくまで債務者が責任を負います。 つまり、マンション自体に抵当権が設定されているというよりは、そのマンションを買うために住宅ローンを組んだ「人」の「債務」に抵当権は設定されているのです。
そのため、その抵当権を第三者が引き継ぐことは原則できません。 だから、住宅ローンの残債を完済して、抵当権を抹消しなければ、マンションを売却することは出来ないのです。 今回はマンションを例に挙げていますが、土地や一戸建てなどの不動産は全て同じ考えです。
先ほど言った、残債があってもマンションを売却する方法の一つである「買い替えローン」について解説します。 買い替えローンとは、簡単にいうと「今のマンション(住宅なら何でも良い)の残債と、新しい住宅のローンを一緒に組めるローン」です。
つまり、今のマンションを売却しても残ってしまう残債を、新しい家のローンと一緒に組んでそのお金を返済に充てるということです。 また、金融機関によっては「住み替えローン」と呼ぶ金融機関もあります。
例えば以下のような物件の売却時に、買い替えローンを利用するとどうなるか解説します。
このような場合には「2」で残る600万円、「3」で新たに組む3,000万円の合計3,600万円を買い替えローンで組むことができます。 現在のマンションの残債もなくなりますし、新たなマンションの住宅費用も賄えるということです。
買い替えローンのメリットは以下の通りです。
何よりも、通常であれば残債があれば住宅を売る事は出来ません。 しかし、買い替えローンは、残債があってもその残債分もローンとして組める、唯一の方法なのです。 その点が最大のメリットになります。
上述した通り、本来住宅ローンを融資する金融機関は、融資する代わりに担保として抵当権を設定します。 しかし、買い替えローンの場合は、新しく融資する物件を担保にするだけで、現在のマンションの残債分も一緒に組めてしまうのです。 言い換えると、現在のマンションの残債分の担保を、「新しく購入する住宅」で賄っているという事です。
また金利についても基本は全ての借入金額が同じ金利になります。 ただし、金融機関の審査しだいで、多少高くなるケースもあります。
利点がたくさんある買い替えローンですが、「住宅ローン審査が厳しい」というデメリットがあります。 そもそも「買い替えする」ということは一度住宅を購入している経験があるということです。つまり、年齢も若い状態ではないことの方が多いです。
銀行の審査は主に以下の点が審査基準になります。
買い替えローンは、先ほどメリットで言ったように、本来担保として見られるのは「新しい物件」だけです。 つまり、現在のマンションの残債分の担保は、借入者の「信用」になります。そのため、上記1~4に挙げた借入者や借入者の勤務先の情報を厳しく見ます。
この基準は金融機関によって異なるので一概には言えません。 例えば、「1」に関して、「通常であれば返済比率35%で良かったものを、買い替えローンにすることよって25%以内でないとNG」などです。
また、仮に年齢が45歳で借入者は30年ローンで組みたいと思っていたとします。 しかし、金融機関側は定年である65歳まで(つまり20年間)しかローンが組めないという結論を出す場合もあります。 このように、買い替えローンを利用する人は、そもそも年齢が高くなりがちという点も踏まえ金融機関の審査は厳しくなります。
また、買い替えローンはどこの金融機関も行っているワケではありません。 そのため、金融機関の数がえ限られてくるので、A銀行に落ちたから次はB銀行で・・・などと簡単にはいかないのです。
買い替えローンを組む時の最大の注意点は、残債を返金する日と新たにローンを組む日を同日にしなければいけないという点です。
つまり、以下の5つのことを確定しておき、引渡同日に行うようにスケジューリングする必要があるということです。
引渡(「5.名義変更手続き」)を同日に行うということは、現在のマンションの購入者からの入金と、自分が新しく購入する家の入金を同日に行うということです。 つまり、自分だけではなく仮に相手が何かの都合で入金できなかった場合には、新しい住宅の契約まで流れてしまうのです。
このように、2つの物件の引渡日を同日にするためには、関係者の協力が必須条件になります。 具体的には、仲介してくれる不動産会社や登記をする司法書士。そして、現在のマンションのローンを組んでいる金融機関と、買い替えローンを組む金融機関の担当者です。
また、売買を同時に行うので、例えば売却益が出た場合や逆に繰り越し控除をする場合など、税金関係が複雑になります。 そのため、税理士に確定申告の手続きを依頼する事も考えておかなくてはいけません。
※マンション売却時の税金については「マンション売却にかかる税金の種類と計算方法」、売却時の確定申告については「マンション売却のあとに確定申告が必要になる場合」も参考にしましょう。
関係者の中で一番重要なのは不動産会社の営業担当者です。 基本的には司法書士のやりとりや、金融機関とのやりとりは営業担当者が行います。 また、売却する際の不動産会社と新しい家を仲介してくれた不動産会社が違う場合も十分に考えられます。
その時は、2つの不動産会社が連携して、融資手続きや引渡手続きを進めなくてはいけません。 ベストは、売却の時の不動産会社も購入の時の不動産会社も同じにすることです。また、これは金融機関にも言えます。 現在のマンションのローンと買い替えローンの融資先が同じ金融機関であれば、手続き関係は楽になります。
買い替えローンで最も不安になることは、今の家の買い手が見つかるか。希望通りの金額で売却できるかという点です。 中古マンションの売却は、値引き交渉が入る事が普通なので、価格交渉も中々骨が折れます。
この不安を解消するためのベストな方法は、新しい家に「買い替え特約」を盛り込んでおくということです。 買い替え特約とは、「今売却中のマンションが○月○日までに、○○万円で売却できなければ新しい家の契約を白紙解約となります」という契約のことです。
もちろん、売主がこの契約に応じてくれるかどうかは分かりませんが、買い替え特約自体は不動産取引ではそう珍しいことではありません。 ただし、中古物件の場合には買い替え特約を付けるケースは少ないです。売主が一般個人であるため、万が一白紙解約にされてしまった時の負担が大きいからです。
仮に新しく購入する物件が中古マンションで、買い替え特約を盛り込むことが出来ないとします。 その際にどうしても不安を解消したい場合は、今のマンションの「買取」を検討することです。今のマンションを買取ることが出来れば、確定した金額が即入金されます。
※買取の詳しい仕組みについては「マンション買取 」を参照しましょう。
時間に余裕があり不動産会社が了承するなら、「買取保証付き売却」がお勧めです。 この売却方法は、ある一定期間(通常は3ヵ月程度)は通常通りの売却を行い、その期間で売却出来なかった時だけ買い取るという売却方法です。
買取をすると相場価格の7~8割程度まで売却価格が下がってしまうという、大きなデメリットがあります。 そのため、相場価格並みに売却できるチャンスもあり、万が一の時のリスクヘッジもある「買取保証付き売却」をお勧めするのです。
上記が買い替えローンのメリット・デメリットですが、買い替えローンを組む際には注意しておくべきことがあります。
さきほど少し触れましたが、買い替えを行うということは、売却時と購入時のどちらの諸費用もかかるということです。 売却時にかかる諸費用は、売却金額の3.5~4%で、購入時も3.5%前後の諸費用がかかります。
つまり、3,000万円のマンションを売却して、3,000万円のマンションを購入する時には、合計で200万円以上の諸費用がかかってくるということです。 当然この部分の費用は現金で支払う必要があるので、最低限必要な現金額は把握しておきましょう。
残債分を現金などで補填することができずに、更に買い替えローンが使えないとなると、後は任意売却という方法があります。
任意売却という言葉を聞きなれない方も多いと思います。 そもそも任意売却とは、専門の不動産コンサルタントが債権者(金融期間)と債務者(ローン借入者)の間に入って調整する不動産の売却方法です。
債権者の合意を得ることで、不動産の売買価格がローン残高を下回った時、つまり「残債が残る状態でも売却する」ということを合意するということです。 「任意」となっているのは「競売」と比較しています。競売は裁判所が間に入り「強制」的に売却するのに対して、任意売却は強制力ないので「任意」と言います。
例えば、残債が3,000万円あり売却金額が2,500万円だったとします。つまり、その売却金額を全て返済に充てても500万円の残債が残ってしまうということです。 良く勘違いされがちなのは、任意売却はその500万円を「帳消し」にするワケでありません。
あくまで500万円は債務として残しますが、抵当権を抹消することは認めるということです。 残った500万円はしっかり債務として、ローンの借入者が責任を持って返済します。 しかし、通常であれば500万円一括で返済を求められるところを、任意売却であれば少額で無理のない範囲で返済する事ができるのです。
また、金融機関によっては任売却時に残高を減額してくれることもあります。ただ、このケースは稀なケースなのであまり期待しない方が良いでしょう。 ちなみに、債務を減額してもらえる時は債権者が「減額しないと返済が滞りそう」と判断した時です。仮に、500万円をそのまま債務として請求して「月5万円」の返済をしてもらうとします。
しかし、その借入者は別の住宅に住まなくてはいけないので、新たに住宅費用も発生してしまいます。 そうなると月5万円の負担は現実的に厳しく、下手したら自己破産されてしまう場合には、債権者も困ってしまいます。
そのような時に、全ての債務の回収を諦めて、減額することによって回収資金は減りますが確実な回収を目的に切り替えることがあるのです。
このように、任意売却はローン借入者によってメリットもたくさんあります。 しかし、任意売却をする際の最大のデメリットは「信用情報への登録」です。 住宅ローンをはじめ、ローンを組む時には、「信用情報」というものを金融機関はチェックします。
信用情報を記録している機関は複数ありますが、基本的にはどの機関も繋がっています。 つまり、A銀行で任意売却したという記録はB銀行でもC銀行でも調べられるという事です。金融機関が信用情報から読み取る情報は「過去の延滞履歴」です。
例えば、過去カードローンでお金を借りて、2か月延滞をしてしまった等の情報は5~6年ほど記録されます。 結論から言うと、個人信用情報で延滞履歴があると、金融機関の審査はまず通りません。この延滞履歴に関しては、全ての金融機関は非常に厳しい審査をします。
任意売却は延滞ではありませんが、通常のやり方でローンを返済できなかったことには変わりありません。 そのため、個人新情報として5~6年は残り、その間に住宅ローンを組むのはほぼ不可能でしょう。
任意売却については「任意売却は住宅ローンの返済が限界と感じたときの売却手段」も参照してみてください。
このように、マンションの住宅ローンが残っていても売却する方法はあります。しかし、買い替えローンはまだしも任意売却のリスクは非常に高いです。 そのため、冒頭でも言いましたが、まずは本当に今売る必要があるかを確認しましょう。まずは自宅がいくらで売れるかを把握することがスタートといえます。