アメリカで急進する不動産検索サイト「Zillow」とは?

今回は、アメリカで最も人気の不動産検索サイト「Zillow」について説明して行きたいと思います。
アメリカ国内では中古住宅の売り買いをする際、Zillow(ジロウ)という不動産検索サイトが圧倒的な支持を集めています。

Zillowコーポレーション(Zillowの運営会社)は、元マイクロソフト社のリッチ・バートンとルロイド・フリンクによってアメリカのシアトルを拠点に設立され、かつて同業態でシェアを分け合っていた「Trulia(トゥルーリア)」を2014年に買収(現在もサイトは別々に運営)したことにより、不動産検索サイト市場において、Zillowは全米最大のシェアを占めるに至っています。

■不動産売買に対する日本とアメリカの違い

日米

Ⅰ.不動産を探す目的が違う

スポーツや選挙などが賭けの対象になるなど、投資活動が日常的になっているアメリカ人にとっては自宅までも投資対象と考えられており、中には、30代の若中年層が値上がりしそうな住宅を自宅用として購入し、好況期に価格が上がれば売却するというケースもアメリカでは珍しくありません。一生住み続けることを前提とする日本人とは自宅に対する考え方が異なる訳です。

また、不動産を検索する目的も、買いたい時や売りたい時に検索する日本人とは異なり、自宅の価値が日々どう変動しているかをチェックしたり、今は安くても先々値上がりが期待される物件を検索することを目的に、アメリカ人は利用します。

Ⅱ.価格交渉の概念が日本とアメリカでは正反対

日本では、不動産の買主が売り出し価格からいくら値引きしてくれるか交渉を持ち掛け、売主はそれに対して売出し価格と値引き希望額の間で折り合いをつけるスタイルが一般的です。これは、売主があらかじめ値引きを想定した価格で売りに出すのが、昔からの日本の慣習になっているからでしょう。

と言うことは、買主が売出し価格で買うと申し出たら、通常売主は喜んでOKすることになるでしょう。ところがアメリカでは、驚くことに「その価格では売らない。売って欲しいなら、表示価格に上乗せした金額を見てから売るかどうか考える」という、日本では考えられない交渉が当たり前とされているのです。

結果として、売り出し価格よりも高い金額で売買が成立し、場合によっては2割以上も上乗せした金額になることも珍しくないのです。

■「Zillow」が支持される理由とは?

支持米国内で運営されている数多くの不動産情報サイトの中でも、「Zillow」が選ばれる最大の理由は他を圧倒する情報量です。掲載数はアメリカ全土の約1億1000万件。市場で販売されている物件はもとより、販売の予定さえない物件までもが掲載されています。

アメリカ国内では、各州が不動産価格の公開を不動産業者に義務付けていますが、Zillowは消費者が見やすいようサイト内で各社の情報を集約させた画面を公開し、消費者が複数のサイトを閲覧せずに幅広く情報を得られる点が支持されています。

Zillowが支持される理由はそれだけではありません。不動産の売主が自ら物件を登録して購入希望者を募集する機能を導入したり、また、従来の航空写真を超える高画質の映像が見られる “Microsoft Virtual Earth”の導入を、マイクロソフトとの提携によって実現させています。さらに、売却情報に加え、賃貸物件の検索サービスも2009年に導入されました。

■Zillowを利用することによって、どんなメリットがあるのか?

ここで、Zillowを利用することによって得られるメリットについて説明します。

Zillow

Ⅰ.物件のある地域の価格推移や、過去の売買履歴が丸裸に!

現在の自宅の値段がどれくらいになっているかを知りたい時、Zillowでは自宅の住所を入力すると、その時点の売却想定額を知ることができます。想定額の算出には、物件の相対的な評価にエリア内の価格変動などの要素が加味された上で自動算出されます。

エリア内の価格変動については、過去数年間に渡ってどのように推移していたのかを知ることもできます。また、物件によっては過去数十年前まで遡り、その住宅がいくらで売買されたかなど、詳細な履歴が開示されるケースもあります。

この履歴開示によって、現在の自宅エリアは上昇基調なのか、下落傾向なのかを把握することができます。また、他の州への転居を検討する際、この機能を応用して転居エリアの地価変動の推移をリサーチし、価格交渉に利用されるケースもあります。

さらに、価格交渉の材料として、以前の所有者が購入・売却した時の価格データも開示されており、これによってどのくらいの売却益を手にしたのかも知ることができるため、買い手側の交渉材料に利用されたりもします。

売却想定額については、「正確さに欠ける」という意見が寄せられることもあり、改良の余地ありと揶揄されることもあるようですが、圧倒的なデータ量というアドバンテージによって、「とにかくZillowを見てから判断しよう」という利用者が多く存在するのも事実です。

Ⅱ.価格情報だけでなく、間取りや内装も見ることができてしまう!

物件価格以外の情報としては、敷地の広さ、建物の床面積、築年数、間取り図面など、日本の不動産サイトで紹介されている物件概要も開示されていますが、内装やキッチンをリフォームしたことが判明すると、想定価格にタイムリーに反映されるなど、情報スピードにも一日の長があります。

さらに、外観や内部の写真も、販売物件ではないものまで開示されており、友人知人はもとより、交流がない隣人や著名人、所有者が不明な物件であっても、取引データが残っている物件なら、住所さえ入力すれば、その家の価格推移や間取りなどが無料で見ることができるのです。

ただ、このサービスについては、開示の目的が所有者の高値売却という点では理解されるでしょうが、そもそも売却意思などない所有者にとっては、単なるプライバシーの侵害にしか思えないと、サイトに対する批判が寄せられるケースもあるようです。

■日本国内にも、Zillowのような情報公開の波が押し寄せる!?

日本Zillowはアメリカの話だから、我々日本人とは無縁だろうと思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、このアメリカ独自の商習慣を日本に持ち込む動きが出始めているのです。その引き金になるとされているのが「環太平洋連携協定(TPP)」です。

2015年10月、日本、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの12カ国が参加するTPP交渉が大筋で合意されました。おもに農業、自動車、医薬品などの分野だけが大きく取り上げられているTPPですが、真の目的は別にあると言われています。

アメリカの企業は、自社商品の供給網を拡大するために、物品やサービスだけでなく、自国以外に対する商習慣や法規制を国際基準に統一させようとしています(国際基準とはもちろんアメリカ基準のことです)。そして、このアメリカ基準を不動産市場にも導入させようとしているのです。

日本の不動産業界では、物件や顧客の「囲い込み(※)」が長らく暗黙の常識とされてきました。確かに囲い込みは悪習ですし、近年は取り締まりも強化(?)されているようですが、そんな日本独自の商習慣や法規制によって、アメリカなどが日本の不動産取引に参入する際の障壁になっていると主張しており、すべての情報をオープンにして、日本だけが有利な商取引はやめさせようと誘導しているのです。もうおわかりでしょう。TPPの真の目的は、アメリカ企業による市場拡大なのです。

※参考 不動産業界が抱える「囲い込み」問題とは?

さらに日本政府側も、囲い込みをはじめ、空き家問題や少子高齢化問題など国内不動産を取り巻く環境の変化に対応すべく、不動産市場の活性化策として2020年までに中古住宅流通・リフォームの市場規模を20兆円に増大させる政策目標を打ち出しており、その政策推進のためにTPPに乗じようという目論見もあるのです。

※参考 空き家対策だけではない!?国はなぜ中古住宅市場を活性化させようとしているのか?

すでに、日本にもZillowをモデルとするサイトがいくか出始めています。例えば、マイクロソフトとSUUMOがコラボレーションした「Bing不動産」、不動産総合情報サイトHOME’S(ホームズ)が公開するサービス「HOME’Sプライスマップ」、マンションに特化した評価サイト「マンションマーケット」などがあります。
今後続々と、Zillowのような“黒船”が、日本の不動産市場に来襲することも十分に考えられるでしょう。

■Zillowの肝ともいえる「Zestimate」とは?

Ⅰ.Zillowが見たければ英語は必須

英語を公用語とする国々では、不動産データの情報公開が進んでおり、特にアメリカやカナダ、オーストラリアなどでは、所有者が「売る」「貸す」意思に関わらず、原則どの物件についても分析データを簡単に入手することができます。

英語圏である理由として、Zillow検索の際に基礎的な英語力と簡単な不動産知識が必要となるからで、裏を返すと、それらの知識があれば、日本に居ながらにして上記諸国の不動産データを入手できるという訳です。

【開示されている分析データの一例】
・過去に売買、賃貸された年月日や価格の変遷
・現時点における売買価格や賃料水準
・時系列による不動産価値の変動推移
・敷地形状、間取り図面
・建物外観および室内の画像(リフォーム後の状態)

Ⅱ.アメリカの不動産相場をも動かす「Zestimate」

日本では、不動産売買において、公示価格や路線価格などの指標を目安に取引事例比較法などの評価基準によって相場価格を算出するのが一般的で、不動産投資では、投資額を導き出す際に収益還元法やDCF法を用いるのが通例です。

一方、Zillowの導入によって売却総定額がオープンになっているアメリカでは、Zillowが独自に査定した「Zestimate」という見積価格が判断基準として利用されており、公開されている物件価格に対して以下のような判断が前提となります。

①Zestimateより高い値段が付けられている場合は、物件状態が良いと推測される。
②Zestimateより低い値段が付けられている場合は、物件状態が悪いと推測される。

Ⅲ.不動産売買に大きな影響を与えるZestimateにも、ウィークポイントが!?

「Zestimate」はEstimateをなぞらえた造語で、Estimateには、見積り、推定値という意味があります。Zillow側も公表していますが、Zestimateはあくまで推定値であり、物件データに正確性を欠いたり、突如そのエリアで何かしらの報道が為された場合などは、Zestimateと実際の価格にかなりの差がでるケースも見られます

また、Zillowでも追い切れないほど不動産マーケットが動いている時には、Zillow価格と直近価格との間にズレが生じるケースもあります。住宅を購入した後にZillowで自宅を検索してみると、購入後のわずかな期間にも関わらず、相対的な評価数値よりもZestimate価格が明らかに高くなっていたり、エリア内で頻繁に価格変動が起きているのに、Zestimate価格には変化が見られないなど、ローカルな事情において若干のウィークポイントがあるようです。

■「Make Me Move」によって、本来なら発生しなかったかもしれない取引が実現する!?

取引が実現Zillowに掲載されている物件の中には、「Make Me Move」と記載されているものがあります。これは、「売るつもりはないが、◯◯万円くらい出すなら考えてもいい」と、所有者自身がオークション価格の申し出をする機能で、不動産業界では「オンライン地上げ機能」とも言われています。

Zillowのおもな目的は、売却を希望する売主と買主のマッチングですが、そこに「Make Me Move」を導入することによって、すでに売却意思のある所有者だけでなく、「隠れた売却希望者を見える化する」機能が加わった訳です。

売却情報を集める際、従来は「売りたい人」に対する訴求だけでしたが、「Make Me Move」は「どっちでもいい人」も対象となり、「自宅に不便さを感じている人」や「あっちの家の方が住みやすそうと考えている人」など、潜在的な売却予備軍にも訴求できることから、本来は発生しなかったかもしれない取引を実現させる機能として期待されています。

■まとめ

日本でも、不動産査定や住宅ローン金利、引越し費用などの一括見積りサイトが出回るようになり、これによって「相手側の言い値」や「不動産会社の主観」が通じなくなってくることも予想されます。

そして、従来のスタイルを覆す「Zillow」のような新機軸の展開が日本でも予想されており、ユーザーにとって、情報公開が進むのは歓迎されることと言えるでしょう。

- 2016年05月17日