賃貸契約には一般的なアパートを借りる際の契約である普通借家契約と、期間を契約前に示してから賃貸契約を行う定期借家契約の2種類があることをご存知でしょうか?
今回は、その通常の賃貸契約とは少し異なる定期借家契約について解説していきます。
目次
1.そもそも定期借家契約とは?
2.普通借家契約との違いは?
☞契約期間について
☞契約期間の長さについて
☞賃料の改正について
☞定期借家契約は基本的には貸主優位
3.定期借家契約のメリット、デメリット
☞定期借家契約のメリット
・借主側のメリット
・貸主側のメリット
☞定期借家契約のデメリット
・借主側のデメリット
・貸主側のデメリット
4.定期借家契約の有効な利用方法
☞借主の試用期間として利用する
☞中古物件のお試し入居
☞学生向け専門の賃貸物件として貸し出す
☞シェアハウスなどには最適
5.定期借家契約の注意点
☞定期借家物件だと知らされていない
☞貸主との関係が重要
6.定期借家契約はどんな人に向いている?
☞学生
☞自宅所有でも転勤がある人
☞シェアハウスの経営者
7.まとめ 定期借家契約は貸主保護と言っても十分な説明を
1.そもそも定期借家契約とは?
定期借家契約とは、一般的な普通借家契約が、借主保護の観点から借主側に有利な内容が多く含まれているのに対して、貸主側の都合も考慮した契約方式が必要との観点から新たに制定された契約方式です。始まったのは2000年の「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」制定後からで、比較的新しい契約方式です。
今までの契約方式であれば、借主の主張が大きく反映されることから貸主負担が大きくなります。そのため、貸し出すリスクを恐れて賃貸物件として有効活用されない不動産物件が発生することを防止するために新たに制定されました。
2.普通借家契約との違いは?
では、定期借家契約を普通借家契約と比較してみましょう。
どのような点に違いが出てくるのでしょうか?
契約期間について
普通借家契約では、2年の契約期間が決められてはいますが、借主の都合で期間途中でも退去することが可能です。
それに対して、定期借家契約はあらかじめ契約書に契約期間が定められており、その間は特別な事情がない限り、退去することはできません。
また、基本的には契約期間満了で退去するということを前提とした契約となります。借主側が賃貸契約を申し出て、貸主側が合意すれば「再契約」という形で期間延長を行うことができます。
契約期間の長さについて
普通借家契約では、契約期間は1年以上とされているのに対して、定期借家契約では、1年未満の契約期間の設定も可能です。1カ月~3カ月と言った短期間での契約で賃貸物件として貸し出すことも可能です。定期借家契約で最長契約の期間については、普通借家契約と同様に借地借家法が適用され、期間の定めのない長い契約期間の設定も可能です。
しかし、定期借家契約は契約期間途中解除が行いにくい契約となっているため、長期間の契約では借り手がつかないものと考えられます。
賃料の改正について
普通借家契約では、一般的に2年の契約期間満了後も住み続けたい場合、契約更新という形になります。その際に、借主側から賃料の見直しについて迫られることもよくありました。
しかし、定期借家契約では、あらかじめ設定した契約期間満了後は、特別な理由がない限り退去することとなります。契約期間内であれば、基本的には賃料の交渉を行うことができません。契約更新も借主希望のみによるものではできないため、賃料改定の交渉材料が少なくなり、事実上賃料改定は不可能となります。
定期借家契約は基本的には貸主優位
定期借家契約は、以上のように貸主に優位とも思える契約内容で契約するものです。今までは大家というと一定の資産家というイメージから、借主が弱者の立場で、弱者を守る契約として普通借家契約が存在してきました。
しかし、大家にも様々な形態が出てきて、一概に「大家=お金持ち」という構図が成り立たなくなってきました。
そのため、空き家になっている不動産を賃貸に出すと、契約期間内のトラブルや想定外の出費などを恐れて、賃貸に踏み切れない大家の存在がありました。そうした大家にも賃貸を安心して行ってもらえるように登場したのが、貸主側が有利になっている定期借家契約です。多様化する国内需要に対応することが目的であり、決して借主をいじめるための契約ではありません。
3.定期借家契約のメリット、デメリット
普通借家契約とは違う定期借家契約ですが、そのメリット、デメリットはどのようなものがあるのでしょうか?
定期借家契約のメリット
借主側のメリット
定期借家契約をすることで、借主側のメリットはあるのでしょうか?
借主にとって、非常に一方的な契約のように思えますが、実はこの一方的を逆手にとって格安の賃料を掲示している物件も存在します。3カ月など契約期間が限られている代わりに、賃料を割安に設定したり、礼金を不要とするような不動産物件もあります。
期間限定とはなってしまいますが、その間にかかる出費を抑えることができます。期間中は、家具類などをレンタルや必要最低限のものとすることで、ホテル住まいのような感覚で利用できます。
貸主側のメリット
もともと貸主保護の観点から制定された措置のため、貸主のメリットは大きいです。契約期間を借主の都合で解除されたりするリスクも軽減されます。
また、短い期間だけの賃貸とすることができることから、都合により数カ月家を空けるなどの際に、気軽に賃貸物件として出すことも可能です。契約期間を延ばすことが基本的にはできないため、予定通りに退去してもらえます。
また、他の部屋などに迷惑となる行為(騒音など)をだす借主を、契約期間満了を理由に退去させることなども可能となります。
定期借家契約のデメリット
借主側のデメリット
借主側では、デメリットの方が大きくなります。気に入った物件であっても、契約期間の延長は貸主側の了承をとらなければできません。貸主がOKを出したとしても再契約時に、賃料を上げる等の措置がとられてしまう可能性もあります。
また、期間を延長したことで再契約となるため、礼金を要求される可能性があります。
貸主側のデメリット
定期借家契約は、普通借家契約と違い、期間限定のため、短期間、格安賃料で募集してもなかなか入居者が見つからない可能性もあります。
契約期間中でも転勤その他特別な理由があれば退去できるため、悪質な場合、虚偽の事実により契約解除を申し出られる可能性もあります。
こうした部分は、事前に借主への十分な説明で防げるトラブルでもあります。
4.定期借家契約の有効な利用方法
このように、普通借家契約と違い、少々特殊な扱いを受ける定期借家契約ですが、有効に利用すれば、借主、貸主にとってとてもよい関係が築ける可能性を秘めています。
借主の試用期間として利用する
普通借家契約は、借主が退去を申し出ない限り、契約の更新をされ続けてしまいます。そのため、周囲に迷惑をかけるような借主を、貸主が追い出すことはできませんでした。こういった借主がいると、周囲の部屋の借り手が見つからなくなったりするため、できれば入居してほしくないものです。
そこで、初めて入居してもらう人には一定期間、定期借家契約をしてもらいます。その後、借主が問題ないと貸主が判断した場合、次回の契約から普通借家契約に切り替えて再契約をするといったこともできます。こうすることで、定期借家契約期間に周囲の評判が悪かった場合、定期借家契約期間満了に合わせて、契約解除をすることができます。
これにより、経営する賃貸物件に迷惑な借主を住まわせない措置を取ることができます。これは貸主だけではなく、借主にとっても、迷惑な隣人などが来てもすぐに追い出すことができるといったことで、快適な住環境を維持することができます。
中古物件のお試し入居
中古マンションや戸建ての購入を検討していても、実際に住んでみなければ細かい部分に気が付かないものです。その場合、中古物件のお試し入居を行って、その後に購入を検討するといったことも可能です。
普通借家契約では一年未満の短期間での賃貸契約ができませんでしたので、2~3カ月実際に住んでみて購入を検討するといったことはできませんでした。中古住宅購入を納得のいく形で行うことができるようになります。
学生向け専門の賃貸物件として貸し出す
転勤などがある社会人はいつ賃貸物件を退去するかが読みにくいですが、大学生などの一人暮らしでは、卒業の年が決まっています。
そのため、あらかじめ賃貸期間が分かりますので、定期借家契約として貸し出すことが可能です。退去の日程を正確に把握できますので、次の入居募集なども計画的に行うことができます。
シェアハウスなどには最適
同じ空間で他人と暮らすシェアハウスでは、その居住空間のルールやマナーなどがとても重要となります。それらが守られなかった場合、お互いに不快な思いをしてしまいます。普通借家契約では、そういった場合に入居者の退去を貸主から言うとことができませんでした。退去に応じたとしても、借主から立ち退き料を請求されるといったこともあり、強くいう事ができませんでした。
しかし、定期借家契約であれば、契約の条文にシェアハウスのルールを記載し、ルール違反が著しい場合は退去を行ってもらう旨を記載することが可能です。実際に貸主側からの退去を申し出ることも可能です。定期借家契約は、単に貸主に有利な契約ということではなく、借主にとっても快適な住環境を手に入れることができる可能性を秘めた賃貸契約です。
5.定期借家契約の注意点
様々な利点もある定期借家契約ですが、そこにも注意点があります。
定期借家物件だと知らされていない
不動産業者の対応にもよりますが、割安な賃料で募集されていて、気に入って入居したまではよかったのですが、退去を申し出てから初めて定期借家物件であったことを知らされるという例もあります。
これは不動産業者の説明不足によるものですが、あまり賃貸契約に慣れていない人がやってしまう失敗でもあります。心配であれば、普通か定期かどちらの契約かを確認するようにしましょう。
貸主との関係が重要
定期借家契約は貸主保護のための契約です。そのため、貸主の意向によって再契約できるか、途中契約解除が円満にできるかが決まってきます。これは行き過ぎてしまうと、賃貸物件では貸主側の一方的な契約解除もまかり通ってしまいます。
極端な例を申し上げますと、他の入居者は定期借家再契約の際に、手土産があったから応じたがAさんは持ってこなかったので再契約には応じないといったことも法律上は可能です。
これは、普通借家契約では借主が保護されているため、借主側でこうした問題は深刻となっていました。定期借家契約をする場合、入居前に貸主がどのような人なのかを確認しておく必要があります。
6.定期借家契約はどんな人に向いている?
ここまで定期借家契約について説明してきましたが、この契約はどのような人に向いている契約なのかをまとめます。
学生
まずは入居の期間がある程度決まっている学生には最適とも言える契約です。定期借家契約とすることで、割安な賃料とすることができ、借主、貸主双方にとっていい契約となります。
自宅所有でも転勤がある人
次に、転勤などで持ち家を空き家とする場合、期間限定で借家とすることができるのが定期借家契約です。この場合、借主がもっと住みたいという意向を出しても、転勤期間の都合で退去を申し出ることが可能です。
ただし、あらかじめ期間限定の入居であることを借主と十分に協議して納得の上で入居をしないと後々トラブルの原因にもなりえますので注意が必要です。
シェアハウスの経営者
共同住宅でもあるシェアハウスの経営者は、ルールを無視するような入居者には強い措置を取る必要があります。ルールを守らないことを口頭で注意しても守られなかった場合の最終手段として強制退去を言い渡すことができれば、渋々でもルールは守るようになるでしょう。
7.まとめ 定期借家契約は貸主保護と言っても十分な説明を
定期借家契約は、契約の条文だけを見ると非常に一方的で、貸主の「俺様ルール」が適用できるようにも思えます。貸主が気に入らない借主を追い出すといったことも条文だけ見ればできてしまうので、入居を検討している方は、定期借家契約ということが分かったら、いろいろと契約について質問したほうがよいでしょう。
貸主も定期借家契約だからと言って、悪意ある契約を強要するのではないということをきちんと説明する必要があります。定期借家契約は、正しく運用されれば、快適な住環境を維持され、貸主借主双方にとってもよい契約となります。
こうしたことを踏まえて、貸主は借主に対して十分な説明を行うようにしましょう。お互いの信頼関係から、いい契約は生まれます。
マンションサプリ 編集部 - 2017年01月23日