2018年公示地価から見た今後の新築マンション市場

東京ミッドタウンのテラスから見た東京都心―首都圏の新築マンション分譲価格は6.9%上昇

新築マンション価格の上昇が続いています。2017年度の首都圏新築マンションの供給戸数は、前年度比1.1%増加の3万6,837戸で平均価格は、5,921万円で前年度比6.9%の上昇、㎡単価も7.9%上昇の80.1万円となっており高い伸びを示しています。東京都区部が1,462戸増加の1万6,393戸と最も増えており同地域の平均価格は、7008万円。過去10年で最も高くなっています(出典:不動産経済研究所 首都圏マンション市場動向2017年度)。

新築マンション価格の動向は、中古マンション価格にも影響します。2000年代の新築マンションの大量供給によって良質な新築マンションストックが形成されたこともあり近年では、中古マンションと新築マンションを並行して検討するユーザーが増えています。今後の新築マンションの価格動向を知ることは、これからマンションを買う人だけでなく住み替え等でマンションを売る人にとっても重要です。新築マンションの価格動向を考える上で、押さえたいのが地価の動向です。

マンションの原価構成では建築費と用地価格が多くを占めます。マンション立地に適した駅周辺の商業系立地では、用地価格の比率の割合がより高くなります。地価動向を把握することは先行きの供給価格動向を予想する指針になります。

マンション用地の取得から販売開始までには、設計・プランニングの実施、建築確認の取得等が必要なため一定の期間を要します。大規模プロジェクトの場合3年~5年程度、中小規模のプロジェクトの場合でも1年~3年ぐらいは用地取得から販売開始までのタイムラグがあり過去3年程度の地価動向を知ることは新築マンション価格の動向を知る上での手掛かりになります。

―商業地の上昇が顕著 渋谷区の上昇がトップ 中央区、台東区が続く

地価トレンドを把握する上で、土地取引価格の指標となる公示地価を見てみましょう。平成30年地価公示の地価変動率を見ると、全国で住宅地が+0.3%、商業地が+1.9と都市部を中心に回復傾向が続いています。上昇傾向が顕著なのが都市部の商業地で、札幌市・仙台市・広島市・福岡市の地方四市の商業地平均は7.9%の上昇となっています。インバウンド需要などを背景とした中心市街地の商業ビルやホテルニーズの高まりをこうしたデータは示しています。

圏域別変動率(平成30年地価公示)

圏域別変動率(平成30年地価公示)

東京23区の過去3年のデータを見ると平成30年は、住宅地変動率が+3.9%に対して商業地の変動率は+6.4と高い伸びで、渋谷区(+9.2%)、中央区(+8.4%)、台東区(+7.3%)が商業地の上昇率上位3区となっています。渋谷区は、渋谷駅周辺で複数の再開発プロジェクトが進行中で継続的に商業・業務施設がオープンする予定です。同様に、中央区は日本橋エリアなどの大規模な開発プロジェクトが進行中。こうした街づくりの期待感が地価を押し上げている一因と思われます。

公示地価 23区 住宅地変動率

公示地価 23区 住宅地変動率

公示地価 23区 商業地変動率

公示地価 23区 商業地変動率

留意したいのは、過去3年の商業地変動率を見ると、都心3区から周辺エリアへと地価上昇が波及し、台東区、江東区、品川区といった都心近接エリアだけでなく、世田谷区、杉並区、北区といったエリアまで変動率が平成29年よりも平成30年が大幅に上昇している事実です。駅周辺などの交通利便性に高い場所に商業系用途地域が多いことから利便性の高い場所でマンションをリーズナブルに供給することは、都心エリアだけでなく都区内全域で難しくなっています。

―地価上昇+建築費の高止まりで価格に上昇圧力 需給動向にも注意

平成29年度の建築着工統計で宿泊業,飲食サービス業用の着工床面積が前年同期比で32.2%増加しているように、ホテルの建築ニーズは強く商業系の好立地でのマンションを廉価に供給することは難しくなることが予想されます。再開発が進む渋谷界隈や港区の3A地区の新築マンションの供給価格は今後も高水準で推移すると思われます。利便性の高さはマンションに住むメリットですが人気エリアにマンションを持つためには今後は相応の対価を払うことが求められそうです。

供給価格に影響を与える建築費は、人件費や原油価格の上昇で高止まりしています。よって、過去3年の地価上昇を踏まえると原価ベースだけで考えると、新築マンション価格はこれから更に上昇する可能性が高いと考えられます。地価上昇は、都心から近郊エリアに拡がっており価格の顕著な上昇は都心以外でも見られるでしょう。

一方で、既に一部のエリアで価格の見直しが行われているように、地域ごとの需給動向にマンション価格は左右されます。分譲価格の上昇は、買い手を限定し需要の縮小に繋がるのでそれほど上昇しないエリアも出てくるでしょう。モデルルームなどの販売経費を抑えるために完成後に販売を始める新築マンションも一部で見られますが、市場性を踏まえて販売計画を立てる動きが今後増えてくるかも知れません。

また、首都圏でも地域によっては地価が下落している場所があることにも注意が必要です。埼玉県の行田市、千葉県の白井市、神奈川県の三浦市など都市部への通勤利便が良好ではない場所は依然として住宅地価格は下がっています。人口減少で地方圏から首都圏の流入が弱まると一部の市区で既に見られるように自然減だけでも人口が減少していきます。将来の暮らしを考えると、街選びはこれから一層重要になってくるでしょう。

著者プロフィール 岡本郁雄(おかもといくお)
岡本郁雄(おかもといくお)

ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3000件超のマンションのモデルルームや現地を見学し、マンション市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ。

- 2018年07月31日