最近話題の「DIY型賃貸借」注意点・契約書式例のポイント

6月14日(火)~15日(水)、東京ビッグサイト 西1.2ホールにて、全国賃貸住宅新聞主催の「賃貸住宅フェア 2016 in 東京」にて、家主と地主と賃貸住宅市場で働く人のセミナー&展示会が開催されました。今回は、15日に行われた 国土交通省 住宅局 住宅総合整備課 賃貸住宅対策室 秋山康夫氏による、「『DIY型賃貸借に関する契約書式例』とガイドブック『DIY型賃貸借のすすめ』の解説」セミナーの概要を一部ご紹介します。

<プロフィール>
秋山康夫氏
国土交通省 住宅局 住宅総合整備課 賃貸住宅対策室 所属。

今話題の「DIY型賃貸借」とは何か?

DIY型賃貸借通常の賃貸借では、費用は貸主負担で借主の意向は反映せず、住宅の改修・修繕・設備更新などを行うのが一般的です。

DIY型賃貸借は、借主の意向を反映して住宅の改修を行います。なお、ここで言う「DIY」は、専門業者に発注する工事も含みます。DIY型賃貸借では、借主自身が改修するケースもありますし、専門業者に頼むこともあります。改修にかかる費用負担については借主が負うほか、改修の規模や内容によっては、貸主やサブリース業者が負うケースもあります。

費用は内容によって異なり、例えば造作棚の設置など小規模な場合は費用負担が少ないことも多く、専門的な工事が必要など大がかりな場合は、その分かかる費用も大きくなります。

DIY賃貸借の活用例について

現在、UR住宅でもこのDIY型賃貸借を活用している例がいくつかあります。造作棚を設置する小規模なものから、壁の塗装や床材変更までさまざまです。賃貸物件の場合は原状回復義務がありますが、これらのケースでは原状回復義務が原則として免除されているため、賃貸にも関わらず自分好みのリフォームが可能になります。

老朽化した賃貸住宅や古民家を事業者がサブリースし、貸主・借主・事業者の3者が費用を負担し、入居者も参加して改修を行うケースもあります。また、用語として正確に定められているわけではありませんが、「カスタマイズ賃貸」という言葉も、最近は耳にすることが増えてきたと思います。カスタマイズ賃貸では、あらかじめ用意された壁紙や床材などから入居者がセレクトすることができたり、間取り変更などの比較的大がかりな改修工事に対応するケースや、入居者が工事に参加することもあります。

DIY型賃貸借のメリットとは

メリットDIY型賃貸借の活用は、貸主と借主の双方にメリットがあります。

<貸主のメリット>
・借主の好みに合わせた模様替えなどが可能なため、長期間の居住で安定した家賃収入が見込める
・借主の費用負担によるDIYの場合は貸主の費用負担がなくなり、業者等を発注する手間が省ける
・貸主と借主が一緒に改修工事に参加するケースの場合、双方の信頼関係ができやすく、入居後のトラブルなどが起きにくくなる可能性がある
・借主負担で住宅設備などを更新した場合、明渡し時に新しい設備になっている可能性がある
・DIY型賃貸借に関心の強い若者へ向けたSNSを活用して募集を行うことで、営業費用を最小限に抑えて宣伝することも可能なケースがある

<借主のメリット>
・自分好みの部屋にできるため、持ち家のように愛着がわく
・自身で修繕の費用負担を行う場合、業者との交渉でコストを引き下げることも可能
・DIY費用を負担する分、貸主との話し合い結果によっては賃料を相場より安くできる可能性がある

DIY型賃貸借を行う上での資金について

資金DIY型賃貸借にかかる費用は内容によって異なり、例えば造作棚の設置など小規模な場合はかかる費用が少ないことも多いでしょう。一方、専門的な工事が必要となる大がかりな場合は、その分費用負担も大きくなります。その場合、借主個人で資金を調達することは難しいことがあります。DIY型賃貸借にかかる資金調達については、主に以下のような方法が考えられます。

①入居者となる借主が改修工事を実施する
借主が工事費用を負担します。入居者は借主としての立場で、改修工事を業者などに発注します。

②貸主が改修工事を実施する
貸主が工事費を負担します。貸主は借主の意向を反映して、改修工事を業者などに発注します。

③事業者が転貸人として改修工事を実施する
貸主と借主の間に入った事業者が転貸人として、借主の意向を反映して改修工事を発注します。事業者と貸主の間のマスターリース、事業者と借主の間のサブリースの賃料差額を、改修工事資金とします。

④貸主が一括前借前払賃料を受領し、改修工事を実施する
事業者(転貸人)が、貸主に一括前払賃料を支払います。貸主はそれを資金に、借主の意向を反映したうえで改修工事を発注します。事業者は賃料の差額で資金を回収します。

⑤各当事者の分担により改修工事を実施する
貸主、事業者(転貸人)、借主の3者がそれぞれ工事費用を負担し、貸主は借主の意向を踏まえたうえで改修工事を発注します。事業者は賃料の差額で資金を回収します。

DIY賃貸借に関する契約書式及びガイドブックについて

現在、日本全国で空き家が増加しています。ここ20年で空き家の数は448万戸から820万戸と、1.8倍になっています。その中で、賃貸用でも売却用でもない空き家(その他空き家)は318万戸で、そのうち木造一戸建て220万戸で、その大部分が個人所有の空き家です。また、賃貸用住宅と比べて、個人住宅の賃貸の流通に関するルールや指針が整備されていない状況でした。

平成25年度に、空き家活用・個人住宅の賃貸流通促進のための指針(ガイドライン)が有識者会議によって取りまとめられました。ガイドラインの中で、DIY型賃貸借が提案されました。翌平成26年度には、新たな形であるDIY型賃貸借を活用するための資金調達の方法を含む実施スキームや具体的な取組み例などが整理されました。

そのような経緯を踏まえ、平成27年度に下記の2つを検討し、今年の4月に公表されました。
DIY型賃貸借契約に関する契約書式例(国土交通省WEB)
ガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」(国土交通省WEB)

DIY型賃貸借契約の締結に必要な書面や内容について

書面DIY型賃貸契約を行う際は、下記の3種類の書面を作成することを想定します。

・賃貸借契約書
契約期間、賃料などDIY工事以外の事項を記載
DIY工事部分の取扱いに関しては「特約」とし、承諾書や合意書の内容に従うことを規定
※賃貸借契約書は、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書(改定版)」を活用することを想定、但し、各業界団体が公表している賃貸借契約書を活用することも可能。

・申請書兼承諾書
DIY工事の実施に関する内容(工事内容、費用、原状回復義務 など)について、借主が貸主の承諾を得るための書面
工事内容を記載した別表を添付する
(所有権の帰属、施工方法、増改築の内容、明け渡し時の収去 など)

・合意書
貸主と借主双方の合意事項を明確にするための書面

※賃貸借契約の締結において必要となる書面や具体的な内容等については、下記からご覧いただけます
DIY型賃貸借に関する契約書式例及び ガイドブックについて(国土交通省WEB)

DIY型賃貸借契約のうえで注意すべきポイント

DIY賃貸_秋山康夫氏

DIY型賃貸借契約においては、トラブルを回避するため、当事者間での話し合いや双方の合意を得ることをおすすめします。気をつけておいた方がよいポイントについてご説明します。

1.施工及び施工状況
・工事内容、工事実施者、実施後の施工確認などについて、当事者間で話し合い決めておく
・新たに設置する設備の内容や仕様について、事前に確認する
・工事実施者や発注者である借主は、施工時に住宅や第三者に損害を与えないよう気をつける
・設計図や施工業者との契約書など、施工に関係する書類は保存しておく

2.DIY工事部分の所有権について
・契約期間中や明渡し時、工事部分の所有権は貸主・借主のどちらにするか明確にしておく。例えばシステムキッチンを入れ替えた場合、その部分をどちらの所有物にするかということ。借主の所有物として明渡し時に残置する場合、借主は明渡し時に所有権を放棄又は貸主に譲渡することになる。

3.契約期間中の管理・修繕について
・契約期間中の部屋の修繕や管理は、貸主と借主のどちらが責任を負うかを明確にしておく。契約書式例では、例えば借主が工事を発注した場合、借主が管理・修繕を行うことを適当としている。

国土交通省_秋山康夫氏

4.明け渡し時の収去・原状回復義務について
・DIY型賃貸借の場合には古かった設備がグレードアップするケースもあるため、必ずしも原状回復の必要があるわけではない。原状回復義務の有無や工事部分の収去(残置するのか撤去するのか)については、明確に取決めておく。
・残置する場合、工事前の状態に原状回復する必要はないものの、工事部分の補修が必要な場合があり、補修を必要と定めた場合、工事部分の本来有する機能が失われている場合(例:設置した造作棚のぐらつき など)は、借主が補修を行う。
・撤去する場合、原状回復義務を有りとするのか無しとするのかを取決め、原状回復義務ありとする場合、どこまで原状回復が必要かを取決めておく。

5.明け渡し時の費用精算について
・DIY型賃貸借の場合、家賃を相場より低く設定したり原状回復義務を免除する代わりに、費用請求の権利を放棄するケースも想定される。
・借主に所有権がない工事部分の精算の有無、借主に所有者ある場合の買取の有無について、当事者間の合意により取決め、「精算等あり」とする場合は契約終了後、貸主は工事部分の残存価値や時価を支払う。
・家賃や工事費用などを考慮し、どちらか一方が不利にならないような取決めをしておく。また、契約期間満了前に解約した場合の精算等の有無についても協議しておくとよい。

まとめ

今回のセミナーでは、
・DIY型賃貸借は、貸主にとっては手間がかからず空き家の有効活用にもつながり、借主は原状回復の必要がなく自分好みにリフォームが可能という、双方にとってメリットのある方法
・DIY型賃貸借契約を行う際は、工事方法や工事部分の所有権、費用精算の有無などを具体的に取り決めておくことが、トラブル回避につながる
ということがわかりました。

なおDIY型賃貸借については、下記の国土交通省のホームページに詳細情報が掲載されていますので、DIY型賃貸借をお考えのオーナーさんは、ぜひ参考にされることをおすすめします。
DIY型賃貸借に関する契約書式例とガイドブックの作成について(国土交通省WEB)

- 2016年07月05日