不動産を大きく分けると3種類に大別されます。
1つ目は、マンションや一戸建てなどの「住宅」です。
2つ目は住宅を建てることもでき、単体での活用もできる「土地」です。
さいごは、賃貸マンションや商業ビルなどの「収益不動産」の3種類になります。
これら3種類の不動産は、それぞれ不動産を評価するときの査定方法が異なります。
今回は、「取引事例比較法」 「原価法」 「収益還元法」 という3つの査定方法を解説し、それぞれの査定方法は、どの不動産を査定する際に利用されるかを合わせて解説します。
目次
1. 取引事例比較法について
1-1. 取引事例比較法とは何か?
1-2. 取引事例比較法の具体例
1-3. 住宅査定の際に金額差のある理由
1-3-1. 強いエリアか?
1-3-2. 媒介契約を取りたい
1-4. 自分で調べる方法
2. 原価法について
2-1. 原価法とは?
2-2. 原価法の計算事例
3. 収益還元法について
3-1. 収益還元法の種類について
3-2. 直接還元法とは
3-3. DCF法とは
4. 土地の査定額について
5. まとめ
取引事例比較法は、 住宅・土地・収益不動産という3種類全ての不動産に利用される査定方法になります。
特に、「住宅」査定の際は取引事例比較法を基に査定額を算出されるので、一般的には最も身近な査定方法と言えるでしょう。
取引事例比較法については、以下の点を理解しておきましょう。
取引事例比較法とは、 周辺エリアで成約した事例を基に、査定金額を算出する方法です。
不動産会社がレインズなどにストックされているデータから、査定の対象となる不動産と同じような不動産を探しピックアップします。
ちなみにレインズとは、Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)の略称で、頭文字を取ってREINS(レインズ)と呼ばれます。
レインズは国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピュータ・ネットワーク・システムになっていて、不動産業者しかアクセスできません。
レインズ以外にも、不動産会社が過去に成約した事例や、成約には至らなかったのものの、売り出した実績がある事例など、 あらゆる事例をピックアップして査定額を算出するのが「取引事例比較法」です。
たとえば、「○○駅から徒歩5分 築12年 70㎡3LDK 南向き」のマンションを査定するとします。
この物件を査定するときの事例は、以下の要素でピックアップします。
上記の条件で物件を絞ってみて、仮にたくさん事例があれば「階数」や「住所」など、もっと細かい要素で物件を絞ります。
たとえばマンションなら、同じような条件の物件が5~6物件ほどあれば、取引事例比較法で査定額を算出するなら十分な物件数です。
逆に、同じような物件が1~2物件しかない場合には、上記の例でいうと「東向き」や「徒歩10分以上」など、条件を少し緩くして事例をピックアップします。
上記の「○○駅から徒歩5分 築12年 70㎡3LDK 南向き」 という物件の査定額を算出しようと思ったときに、以下の事例が見つかったとします。
以下の物件はいずれも最寄り駅は同じです。
上記3物件の中でも物件Cが、今回売り出す物件と最も条件が近い物件になります。
また、そのほかの物件A,B,Dを見ても、徒歩距離や築年数と成約価格はほぼ比例しています。
そのため、このケースでは「成約価格3,000万円」程度と見なし、査定額も3,000万円程度になることが多いですが、 この査定額は不動産会社によって異なるケースが多いです。
査定額が異なる理由は、「強いエリアか?」という点と「媒介契約を取りたい」という点になります。
不動産会社によって、「売却に強いエリア」があります。
たとえば、不動産会社Z社がC市の地元密着型不動産会社であれば、C市のエリア知識は豊富になります。
エリア知識が豊富であれば、営業トークも精査されていますし、営業ツールも豊富にあります。
また、そもそもC市内で物件を探している顧客を既に抱えている可能性もあるので、C市内での売却なら集客力が高いことが多いです。
つまりZ社に査定依頼をすれば、「このエリアは得意だから高く売れる」という理由で、査定額が高くなることがあります。
逆に、C市で売却実績がない不動産会社は、査定額は低くなる可能性があります。
「エリアでの売却実績がある」という理由で査定額が高くなるのは納得できますが、中には「媒介契約を取りたい」という理由だけで査定額を高く提示する不動産会社もいます。 このような不動産会社は、売却中に結局金額を下げることが多い悪質な不動産会社です。
不動産会社は、売主と媒介契約を結ばないと売却活動ができません。
そして、媒介契約は査定額を提示した後に売主と結ぶ契約なので、査定額が高い方が媒介契約は結びやすいのは事実です。
そのため、根拠もないのに査定額を高く提示して売主に良い印象を持たせ、そのまま媒介契約を結ぶという不動産会社もあります。
このような不動産会社は悪質な不動産会社が多いので、査定額を見極める際は、その「根拠」を必ずヒアリングしましょう。
根拠をヒアリングして納得できなければ、媒介契約を取りたいがために査定額を高く提示している可能性があります。
先ほどいったように、レインズは不動産業者しかアクセスできません。
ただ、レインズと近しい情報を閲覧できる「REINS Market Information※1」というサイトがあります。
また、国土交通省が運営する「土地総合情報システム※2」というサイトでも、周辺の成約事例を調べることができます。
サイトを見てもらえると分かりますが、REINS Market Informationよりも土地総合情報システムの方が検索しやすいです。
ただ、土地総合情報システムの情報源は「購入者のアンケート」であり、REINS Market Informationの情報源は不動産業者が見られる情報とほぼ一緒です。
そのため、情報の確実性はREINS Market Informationの方が勝っています。
いずれにしろ、どちらかのサイトで一旦調べてみると良いでしょう。
事前に調べておけば、不動産会社の査定依頼の理解度が上がります。
※1REINS Market Information
http://www.contract.reins.or.jp/
※2土地総合情報システム
https://www.land.mlit.go.jp/webland/
原価法は、主に一戸建てを査定するときに利用される査定方法です。
そのため、マンション・土地・収益不動産を査定したい人には関係ない査定方法になります。
原価法については、以下を理解しておきましょう。
注意点は、原価法はあくまで「参考価格」であるという点です。
なぜなら、原価法は計算式に当てはめて機械的に算出するので、そのときの市況や競合物件状況はほとんど加味されないからです。
そのため、ベースは前項の取引事例比較法を利用し、補助的な要素で原価法を利用すると考えておきましょう。
原価法は、まず「査定したい一戸建てを改めて建築するといくらの金額になるか」を算出します。
その金額に一戸建ての築年数に応じて「劣化した」分を差し引くという考え方です。
計算式で言うと、以下の通りになります。
・「再調達価格×((耐用年数-築年数)÷耐用年数)」
再調達価格とは、「改めて一戸建てを建築するといくらになるか?」の金額です。
再調達価格は、国土交通省の資料※3のように、機械的に算出するので金額を知りたい場合は不動産会社に依頼すると良いでしょう。
耐用年数は、構造・造りによって異なります。
こちらも機械的に決まるので、国税庁の資料※4で確認しましょう。
※3国土交通省 資料
https://www.mlit.go.jp/common/001033819.pdf
たとえば、以下の一戸建てを原価法で査定してみましょう。
上記の物件は「再調達価格4,500万円(15万円×130㎡)×((耐用年数22年-築年数15年)÷耐用年数22年)」となり、1,431万円が原価法で算出した査定金額です。
不動産会社に一戸建ての査定依頼をすると、築20~25年程度で査定額がゼロになることが多いです。
それは、木造一戸建ての耐用年数は22年に定められているので、築20~25年を経過すると耐用年数をオーバーしているという扱いになるからです。
ただし、先ほどもいったように、査定額は市況や周辺環境にも左右されます。
さらに、一戸建ての場合は部屋の使い方によっても劣化具合は異なりますし、リフォームしているかどうかも重要です。
そのため、原価法で算出した査定額は、取引事例比較法の補助的に使われる金額になるのです。
「収益還元法」は、商業ビルや投資用マンションの査定時に利用します。
ただ、収益還元法も単体で利用することは少なく、取引事例比較法と合わせて利用されることが多いです。
収益還元法については以下の点を抑えておきましょう。
収益還元の基本的な考え方は、まずは「その物件からいくらの収益を上げたいか」を考えます。
その後に、その収益を上げたいのであれば「どのくらいの金額で不動産を購入すれば良いか」という順番で物件の査定額を算出するという流れです。
要は、その物件で得たい利回りから逆算して査定額を算出するので、周辺事例などは加味せずに算出します。
そのため、その物件から得たい利回りが極端に大きければ、査定額も極端に安くなります。
また、収益還元法には「直接還元法」と 「DCF法」の2つの考え方があるので、いずれも概要は理解しておきましょう。
直接還元法とは、まず「自分の得たい利回り(目標利回り)」を設定します。
その後に、その物件から得られる収益を、利回りで割り戻します。
そうすると、目標としている利回りを得るには、いくらの金額で物件を取得すれば良いかが算出されるのです。
計算式は「年間収益(年間収入-年間経費)÷目標利回り」になります。
たとえば、以下の物件の査定額を直接還元法で算出してみましょう。
この場合には、「年間収益152万円(180万円-28万円)÷目標利回り6%」という計算式になり約2,533万円が査定額になります。
逆にいうと、この物件を2,533万円以下の金額で取得できれば、目標利回りの6%を上回ります。
一方、2,533万円超の金額で取得すると、目標利回りの6%には到達しません。
経費とは、「固定資産税」や「ローン支払い額」「補修費用」など、その物件の運営・管理にかかった支出全般のことです。
はじめに言っておくとDCF法は非常に複雑な計算式になります。
そのため、基本的には不動産会社が自動計算してくれるので、計算式自体を覚える必要はありません。
今回は、計算式も紹介しますが、計算式を覚えるのではなくDCF法の「趣旨」を理解しておきましょう。
DCF法と前項の「直接還元法」の違いは、将来的な売却を視野に入れるかどうかです。
DCFは賃貸収入だけではなく、将来的な売却益も加味して査定額を算出する計算式です。
DCF法の計算式は以下の通りです。
「R÷(1+W)+W÷(1+W)2・・・+R÷(1+割引率)h+B÷(1+W)h」
R:初年度純利益 W:割引率 h:保有期間 B:不動産売却価格
上記の割引率とは、「不動産は経年劣化していくもの」という考えがあるので、割引率を掛けることで収益を減らしています。
不動産売却価格は、あくまで現時点での予測値になるので、取引事例比較法などで算出する計算式です。
上述したように、土地の査定額は取引事例比較法を基に算出されます。
ただ、土地は以下の金額も参考にします。
土地には「一物四価」という言葉があります。
一物四価とは、上記の3つの金額に取引事例比較法で算出した「実勢価格」を加え、「1つの土地に4つの価格指標がある」という意味です。
公示価格は、国土交通省が指名した不動産鑑定士が毎年評価する土地の価値です。
固定資産税評価額とは、 公示価格の70%程度を目途に、固定資産資産税を算出する際に利用される評価額になります。
そして、路線価は 公示価格の80%を目安に、その土地を相続したときの相続評価額を算出するときに利用される価格です。
あくまで、取引事例比較法で算出した金額がベースですが、土地の算出の際には上記3つの価格も参考に見る点は覚えておきましょう。
不動産査定は以下の点を抑えておきましょう。