不動産ファンドとは?その仕組み・スキームを解説【昨今の不動産市場も牽引】

不動産ファンドという言葉を聞いた事がある人は多いと思います。しかし、聞いたことはあるけれど、詳しくはよく知らないという人も多いのではないでしょうか。そこで今回は不動産ファンドについて、そのスキームや特徴などをお話します。

目次

1.不動産ファンドとは?
☞不動産ファンドに出資する手続き
☞投資信託と似ている
☞不動産ファンドのデメリット
☞不動産特定共同事業と不動産投資信託(REIT)
・イメージをつかもう
・不動産特定共同事業の詳細
・REITの詳細
・不動産特定共同事業とREITとの違い
・実物不動産と不動産ファンドとの違い

2.不動産ファンドの利益構造
☞SPCとは
☞ノンリコースローンとは?

3.不動産ファンドの抱えるリスクとは?
☞取得した不動産の賃料下落リスク
☞出資金の全部または一部は保証されていない
☞不動産ファンドの運営者の破たんリスク
☞法令や税制の規制変更など
☞天災地変や瑕疵に対するリスク
☞途中で終了するリスク

4.不動産特定共同事業のクーリングオフ
☞クーリングオフ制度とは?

5.不動産ファンドの解約について
☞買い取り請求について
☞第三者へ譲渡について

6.まとめ

1.不動産ファンドとは?

不動産ファンド
不動産ファンドとは、多くの機関投資家(例えば生命保険会社のような多くのお金を不特定多数から集めて運用している企業)に出資をしてもらい、その出資額と金融機関からの融資を元手に不動産を取得し、その不動産からの収益を出資者に還元します。「不動産投資信託」とも呼ばれます。

不動産の種類によって、「住宅系」や「商業系」などの色々な種類のファンドがあります。出資者はそのファンドがどこにどんな物件を所有しているかで、出資をするかどうかの判断をするのです。例えば、大規模マンションを購入したり、商業ビルを購入したり、現在は「介護・医療系」の不動産ファンドもあります。

その不動産からの運用益(賃料収入・キャピタルゲイン)と売却益(インカムゲイン)を得て、出資してくれた人たちに配当を渡してファンドは解散となります。ファンドの目的としては、ファンド自体は出資者と金融機関からお金を集めることで、リスクが小さく不動産を取得できます。そこで取得した不動産による利益を、ファンドの収入として計上するのです。(詳細は後述します)出資者は、決められたリターンが毎年(頻度はファンドによって様々です)得られる事。そして、金融機関は融資した金利分が儲けとなります。

不動産ファンドに出資する手続き

不動産ファンドや商品によっても違いますが、一般的な流れは以下の手順で不動産ファンドに出資します。

1.商品検討 (資料請求やホームページ、電話・面会などで説明を受ける)

2.出資の申し込み手続き

3.契約手続き

・申し込み内容の確認

・重要事項説明

・契約書類への署名・捺印

4.出資金のお振り込み

5.取引報告書の受領

不動産ファンドに出資する流れは、通常の不動産を売買する流れとさほど変わりません。

投資信託と似ている

不動産ファンドを他の投資で例えると、投資信託と似ています。投資信託も投資のプロにお金を預けて、その投資のプロたちが株や債券などで運用します。そして、その運用益を出資者へ配分するという仕組みなので不動産ファンドの仕組みと似ています。不動産ファンドは、投資対象が株や債券ではなく「不動産」に代わるだけです。

投資家一人では、何億、何十億もする不動産を取得することは出来ません。しかし、不動産ファンドに出資することで、何億・何十億の一部になることが出来るので、一人では実現できないような投資が出来るのです。これが不動産ファンドに出資する最大のメリットです。

不動産ファンドのデメリット

しかし、一方で不動産ファンドにはデメリットもあります。不動産ファンドのデメリットは大人数の出資者がいるため、経費などがかかり、受け取れる分配金が圧縮されるという点です。例えば、大人数の投資家へ送付する報告書や契約書、それらの保管なども経費になります。

他にも、ファンド自体を運営していくためのコストもかかりますので、この辺りは一人で不動産投資をしていればかからないコストではあります。当然、マンションを取得すれば管理費や修繕費用など、通常の不動産投資と同じコストもかかってきます。

不動産特定共同事業と不動産投資信託(REIT)

REIT不動産ファンドを更によく理解する上では、「不動産特的共同事業」と「不動産投資信託(REIT)」の違いを良く理解する必要があります。

イメージをつかもう

まず、イメージとしては、不動産特定共同事業は不動産投資をしたい人がお金を出し合って、共同で不動産投資をしているイメージです。不動産特定共同事業が、前項で話した不動産投資信託、世間一般言う「不動産ファンド」のイメージだと思います。

一方、REITは株とほぼ一緒です。既に運用している「住宅系不動産で運用しているREIT」などの証券を買って、その証券から貰える分配金、もしくはその証券の値段が上がった時に売れば売却益が得られます。要は、「出資者からお金を集める方法」をREITでは「証券」に代えているだけのことなのです。基本的な性質は不動産特定共同事業と一緒です。不動産特定共同事業もREITも、広義では不動産ファンドとして分類されます。

不動産特定共同事業の詳細

不動産特定共同事業とは、不動産特定共同事業法という法律で規定された特定の事業を共同で行います。この特定の事業は都道府県知事か国土交通大臣の許可が必要になってきます。不動産特定共同事業は、まず複数の投資家が資金を出資します。そして、不動産会社を中心に物件選定や物件の売買契約を行い、投資対象となる不動産を取得します。そして、その収益を出資者に分配するという事業になります。不動産特定共同事業者は、それを「不動産小口商品」として所有します。その小口商品の持ち分(言い換えると出資した額)によって、投資した不動産からのリターン額が異なってくるのです。

REITの詳細

REITもこの不動産特定共同事業と似ています。違うところは、「出資の仕方」と「従っている法律」です。REITの出資方法は株式会社に出資する時と同じ方法になります。つまり、株式会社に出資する時は株を購入しますが、REITに投資する場合には、発行されている投資証券(株券のようなものです)を購入します。REIT自体は証券取引所に上場されているので、株と同じようなやり方で売買できます。また、REITが従う法律は「投資信託及び投資法人に関する法律」になります。

不動産特定共同事業とREITとの違い

不動産特定共同事業(これ以降は不動産ファンドと同義として捉えます。)と言っても、不動産ファンドが運用するルールは各々異なります。そのため、一概には言えないので以下の内容はあくまで一般論として認識ください。まずREITとの違いは、REITは価格が毎日変わってきます。それこそ株と同様、需要と供給のバランスによってREIT価格は上下します。当然、需要が高まればREIT価格は上がりますし、供給の方が多くなればREIT価格は下がります。しかし、不動産ファンドの運用商品は、原則1年間価格は変わりません。

実物不動産と不動産ファンドとの違い

まず決定的な違いは不動産ファンドに出資するだけですので、不動産ファンド出資者が不動産の所有権を持っているワケではないという事です。実物不動産は自らオーナーになるので、当然ながら登記も自分の名前で行います。また、基本的には実物投資でいくつも不動産投資をすることは、莫大な資金を持っていないと出来ません。

そのため、1室のマンションや、1棟のアパートなど小規模な投資になります。小規模な投資になると、リスク分散が出来ないというデメリットがあるのです。要は地震が発生した時や家賃が下落するリスクを、不動産ファンドなら複数の物件を所有することでリスク分散できるということです。

2.不動産ファンドの利益構造

利益構造更に不動産ファンドのイメ―ジが沸くために、不動産ファンドの利益構造についてお話します。例えば、「Xファンド」とファンドを立ち上げたと仮定してお話します。仮に、機関投資家から出資金を募り、10億円の出資金が集まったとします。この時に、その出資金に対して年間8%で機関投資家には売り込んだとします。つまり、「お金を出資してくれたら毎年そのお金の8%分は還元しますよ」ということです。

その時にXファンドは、物件を取得して運営することだけを目的とした会社である「SPC(特定目的会社)」をつくります(SPCの詳細は後述します)。SPCには実体がなく、単に不動産投資をするための「器」です。そのSPCを名義人として、集まった10億円の出資額を元手に、更に金融機関から10億円のノンリコースローン(詳細は後述します)を受けたとします。

更に、その合計20億円を元手資金にして、賃貸マンションを2棟所有して運用したと仮定します。この時、金融機関への返済は、5年後に一括返済することを条件に金利3%で組んでいたとします。また、取得した賃貸マンションからの収入は、年間の1.5億円の家賃収入が見込めます。

そうなると「年間収益1.5億円」「ローン金利3,000万円(10億円×3%)」「出資者配当8,000万円(10億円×8%)」というのが、収入と支出になります。(その他もろもろ掛かってくる諸軽費はここでは一旦無視して考えます)この差額の4,000万円(1.5億円-3,000万円-8,000万円)がファンドの収入になります。

SPCとは

SPCとは「Special Purpose Company」の略称です。日本語では特定目的会社と言います。不動産ファンドを語る上でSPCは欠かせない用語になりますので、しっかり理解しておきましょう。先ほど触れたように、SPCは不動産投資物件を取得する目的だけに作られた会社です。SPCは不動産ファンドだけがつくる会社ではありません。他の投資会社が、資産の流動化や証券化を利用する目的で設立した会社もSPCと言います。

SPC自体で何か事業を行い、利益を上げるという目的はありません。先ほど言ったようにSPCは「器」の役割を担います。SPCの大きなメリットは「SPCは自社のバランスシートから分離できる」という点です。つまり、いくら赤字でも自社の決算は傷まないということになります。そのため、大量の不動産を保有する不動産ファンドは、その不動産の収支を分離して考えることができるので、SPC名義で不動産を所有するのです。

ノンリコースローンとは?

SPCと同じくらい不動産ファンドを語る上で欠かせない言葉がノンリコースローンです。不動産ファンドを組成し金融機関から資金を調達する時は、ほぼ必ずノンリコースローンを利用するからです。ノンリコースローンは、日本語では非遡及(ひそきゅう)融資とも呼ばれます。ノンリコースローンとは簡単にいうと、「担保設定したモノ以上の支払い義務を債務者は負わないローン」です。分かりやすく住宅ローンと比較して考えてみましょう。

例えば、A銀行から5,000万円の融資を受けてマンションを購入したとします。そうすると当然、A銀行は融資したマンションに抵当権を設定して担保に入れます。仮に、借入者が住宅ローンの返済を滞納した場合には、A銀行は担保設定してあるマンションを処分できます。

しかし、その時に残債が4,000万円残っていて、マンションの売却価格が3,500万円であれば500万円の債務は残ってしまいます。そうなると、当然A銀行は住宅ローンとはまた別の債権として、この500万円の返済を借入者に対して求めます。これが住宅ローンをはじめ、融資を受けた時の通常の流れです。

しかし、ノンリコースローンは違います。今の住宅ローンの例で置き換えると、担保として設定していたマンション以上の債務は請求されないのです。つまり、返済不能になればマンションは処分されてしまいますが、不足分の500万円の責任はないということです。

債務者からすると担保以上の責任を負う必要がないのですが、金融機関側からすると債権が全て回収できないというリスクを抱えてしまいます。そのため、通常ノンリコースローンを組む場合には、そのリスクに対してのプラミアム(上乗せ金利)がかかってきます。更に、当然ながら銀行側のリスクをヘッジするために、融資の審査は厳しくなります。

3.不動産ファンドの抱えるリスクとは?

リスク不動産ファンドの抱えるリスクは以下の通りです。

取得した不動産の賃料下落リスク

これは実物不動産投資と同様のリスクです。例えば賃貸マンションを取得したとしても、そのエリアの価値が下落する可能性があります。また、周辺にマンションが乱立すれば不動産価値は下がってしまいます。そのため、賃料収入がさがり、見込んでいた分配金が貰えない可能性もあります。

出資金の全部または一部は保証されていない

不動産ファンドへの出資は元本保証がされているワケではなりません、一部を保証している商品もありますが、基本的には出資額は保証されないと思っておいた方が良いです。

不動産ファンドの運営者の破たんリスク

不動産ファンドの運営者が破たんすれば、その事業は第三者企業により引き継がれることが多いです。その時の譲渡の仕方次第では、出資金の全てが返還されない可能性もあります。

法令や税制の規制変更など

法令や税制、政府主導による規制変更などが原因で、分配金や手数料額が変更になる場合があります。

天災地変や瑕疵に対するリスク

これも実物不動産投資と同じリスクです。不動産という実物資産の特性上、地震や自然災害のリスクはついて回ります。また、瑕疵が発覚した場合に補修費用が別途かかったり、諸経費が掛かったりした場合には、受け取る分配金が減少する可能性もあります。

途中で終了するリスク

取得をした不動産の売却や事業の継続が不可能の判断した場合には、満期前であっても途中で契約は終了する場合があります。要は、予定より早く資産を売却して資金回収をするということです。またネガティブケースだけでなく、不動産市況の上昇に伴い満期前に売却した方が利益は出ると判断して、期間満了前に契約は終了することもあります。投資商品は、当然リスクはつきものです。また、不動産ファンドは投資対象が実物資産である不動産なので、株や債券にはないリスクも備わっている点は理解しておきましょう。

4.不動産特定共同事業のクーリングオフ

不動産ファンドの中では、不動産特定共同事業だけが法律上クーリングオフ制度の対象になっています。

クーリングオフ制度とは?

ある一定の期間であれば、消費者の申し出により契約行為などの解除が出来る、消費者保護の観点から生まれた制度です。不動産特定共同事業のクーリングオフ制度は、法定の契約書面を受け取った日から8日以内に書面により解除通知をする必要があります。

ただし、銀行、信託会社、資本金5億円以上の株式会社などの「特定投資家」と呼ばれる法人は、クーリングオフ制度の適用外です。また、宅地建物取引業社や、国、地方公共団体についてもクーリングオフは適用外です。

5.不動産ファンドの解約について

解約不動産は株や債券と比べて流動性が低いです。例えば株であれば、買いたい人がいれば一瞬で売買は成立してしまうほど流動性は高いです。契約書を交わす必要もなく、購入者と顔を合わせる必要もありません。債券やREITに関しても同じように売買できるので、解約(売却)は容易にできます。

しかし、不動産はそこまで簡単に売買できる投資商品ではありません。購入検討者への物件説明も必要ですし、価格交渉や各書面の取り交わしが必要になってきます。そのため、不動産ファンドの解約もそう簡単にできるものではありません。もちろん、契約内容や規約に応じて解約することは可能ですが、例えば不動産特定共同事業の場合には、途中解約は不動産特定共同事業者が持ち分を買い取ることになります。

買い取り請求について

不動産ファンドを解約する場合には、一般的には事業者に買い取り請求をして、自分の持ち分を買い取って貰うという流れになります。こちらも不動産ファンドによってルールが異なりますが、基本は以下のようなルールになります。

・買取は基本いつでも可能

・1口(最小)単位で買い取り請求が可能

・解約理由を記載した「買取請求書」などの書面が必要

・出資金の返還(買取額)は基準価格にて換算する

・買取手数料がかかる(出資金に対して3%+消費税など)

このように解約をすることは可能ですが、それなりのペナルティもあります。この辺りは先ほど言ったように不動産ファンドは株や債券、REITと違い流動性が低いので仕方ないです。数多くの出資者が解約になってしまわないように、不動産ファンド側もルールづくりをしているのです。

また、仮に出資者が破産したり責任能力がなくなったりした場合には、上述した流れと同じく「買取請求書」を提出する事で解約するという流れになります。更に、出資者が死亡した場合については、「相続手続き依頼書」などの書面を提出してもらい、出資した分を相続人に継承してもらいます。ただし、この時にも手数料が発生する場合が多いです。

第三者へ譲渡について

譲渡結論から言うと、第三者への譲渡も基本的にはいつでも出来ます。不動産ファンドに対して「譲渡証人請求書」などの書面を提出することが条件です。また、不動産ファンド側が譲渡理由に合理性がなければ、譲渡を拒否する場合もあります(極稀ですが)。

これは、不動産ファンドの特性上、株や債券などの証券のように売買する商品ではないからです。その不動産ファンドの考え(どんな物件をどの程度所有する)に賛同した出資者と、共に投資をするというイメージになるので、譲渡する時にも一応承諾するかどうかのジャッジがあります。また、同じ理由で譲渡に関しては、「出資金に対する2.0%+消費税」などの手数料がかかります。

6.まとめ

いかがでしたでしょうか。不動産ファンドについての大枠がご理解いただけたのではないでしょうか。確かに、不動産ファンドは他の投資商品と比較すると複雑です。それは投資対象が不動産という、「実物」であり「高額」なものであるという理由が一番大きな理由です。

実物であるが故にリスクも多くなり、そのリスクを説明したり規約を設けたりする必要があります。また、高額であるが故に、わざわざSPCを作成し出資金以外にもノンリコースローンで資金を調達します。ただ、仕組みが分かってしまえば、そこまで難しいものではありません。

- 2016年10月03日