中古マンションの売却を検討する際、少しでも高く売却するために、複数の不動産業者の査定を見比べたり一括査定サイトを活用したりして、 最も良い条件を提示した業者に売却を依頼することになるでしょう。
但し、査定が高いことと売れることは別問題です。 いくら査定が高くたって、相場より割高な価格であればなかなか買い手は付かず、当初の売出価格を少し見直して再販売し、 そこで希望者が現われたとしても、必ずと言っていいほど値引き交渉が発生し、結局は相場並みの価格に落ち着くことになります。
そんな中、相場よりも高額かつ早期に売却するための手法として、近年注目を集めているのが「 ホームステージング」です。 日本ではまだ導入され始めたばかりですが、アメリカなどの諸外国では売却時に「ホームステージング」を活用するのが一般的になっています。
今回は、「ホームステージング」を導入した場合の効果や、掛かる費用、進め方などについてご紹介して行きたいと思います。
目次
1. ホームステージングを導入する目的は何か?
2. どこで、どのようにしてホームステージングが生まれたのか?
3. どのくらいの費用が掛かるのか?
3-1. ホームステージングに要する費用
3-2. 費用を抑えたプランも
3-3. ターゲットを絞って効果的なホームステージング売却を!
4. ホームステージング効果によって、他の物件との差別化が図れる!
4-1. 来場者の購買意欲を高める効果によって、成約までの日数短縮が図れる!
4-2. 取り扱い数が少ないため、他物件との差別化が図れる!
4-3. 差別化によって価格交渉を優位に進めることができる!
5. ホームステージングで使われる手法とは?
5-1. ホームステージングで行う演出手法
5-2. 専門家に依頼するメリット
6. ホームステージングのプロ!「ホームステージャー」の技能
7. まとめ
ホームステージングは、中古マンションなどを空室状態で売り出す際、家具やインテリアをセットすることによって、新築マンションのモデルルームのような演出を施す売却手法で、 単なるインテリアコーディネートとは異なり、物件の持つ魅力を最大限に引き出して来場者の購買意欲を喚起させることが目的です。
ホームステージングを導入することによって、売主にとっては「早く」「高く」売却することができ、 また、買主にとっては空室では得られない臨場感や入居後にコーディネートする際の手本にもなり、売主・買主両方がメリットを実感できることになります。
ホームステージング導入に際しては、事前に「エリア」「相場価格帯」「競合物件」などの市場分析を行います。 それらの分析を踏まえ、他の物件と差別化するために、家具はもちろんセンスのいい小物や観葉植物、スクリーン映像などの演出によって、 「こんなところに住みたいな」という印象を持ってもらうことを目指します。
ホームステージングは、1970年代にアメリカで始まり、その後、カナダ、フランス、アイルランド、イギリス、オーストラリアなど多くの国に広まり、 最近になってようやく日本でも普及し始めてきました。
新築志向が強いと言われる日本では、住宅の全流通量の8割強が新築物件となっているのに対し、アメリカでは1割弱で、残りの9割以上を中古住宅が占めています。 また、イギリスやフランスでも、中古住宅の流通量は5割以上となっており、そのような背景からホームステージングが広まったと考えられます。
ホームステージング発祥の地であるアメリカでは、不動産を高値で早期に売却するために、「ホームステージャー」という専門家が欠かせない存在と言われています。 ホームステージャーが関わった物件は、そうでないのと比べ1割程度高く売れると言われており、市場が下落傾向にある中でも値下げを最小限に食い止める効果があるとされています。
ホームステージャーには、「物件の価値を最大限引き出すための演出能力」が求められ、能力の高いホームステージャーは、複数の不動産会社から依頼されるほどビジネスとして確立されています。
ホームステージングを取り扱う会社は、大手不動産会社と提携しているホームステージング専門会社が主ですが、他に中小のインテリア専門会社でも行っています。 ただ、日本では、まだホームステージングを専門に扱う業者が少ないため価格競争がおきておらず、現状では料金は割高な状況です。
実際にホームステージングを導入する際の費用について、株式会社ホームステージング・ジャパンの料金プランを、参考までに紹介させて頂きます。
○コンサルティングプラン
・料金:50,000円~
・自分で家具や小物を設置したい方や居住中物件で相談したい方向け
・売却のアドバイスやコーディネートのみ
○ベーシックプラン
・料金:150,000円~
・ソファー、ダイニングセットなどリビングコーディネート+家具レンタル
・家具レンタルは成約見込み期間(3ヶ月以内)の料金を含む
○スタンダード・プラン
・料金:300,000円~
・リビングダイニング重視の演出
・洗面所・トイレ・浴室などもコーディネート+家具・小物レンタル
○フルパッケージ
・料金:物件価格の1~2%
・物件の清掃、ベッドルームも含めた物件全体の演出
・家具や小物のレンタル、物件写真撮影、オープンルーム実施など
参考元:株式会社ホームステージング・ジャパン サービスメニュー
あまり費用は掛けられないという方向けに、佐川急便の関連会社「SGムービング」が導入した「住空間整理サービス」というホームステージングの方法もあります。
プランの内容としては、「整理収納サービス」「家事代行サービス」「ホームステージング」「遺品整理サービス」があり、 料金は1部屋21,600円からと、リーズナブルな設定になっています。
また、住宅の整理・収納・梱包などを手掛ける「サマンサネット」では、不動産売却時の室内整理といった簡易なプランから、 インテリア設営や小物の設置といった本格的なホームステージングプランまでを扱っており、料金は31,320円から選べるようになっています。
加えて、同社では居住中の住宅でオープンハウスを開催する際の、家具搬出入やレンタル家具コーディネートなども手掛けており、選べるプランが多いという利点があります。
仮に、30万円の費用を掛けるとすれば、売却価格に30万円をオンしなければ意味がありません。 果たして30万円が妥当なのかどうかは、一般の方々が判断するのは難しいでしょう。 購入希望者の中には、自分好みのリフォームを検討される方もいらっしゃるでしょうから、 過度なホームステージングはイメージの押し付けと受取られる可能性もあります。
そのため、どの程度のホームステージングを行うかについて、不動産会社に自宅マンションのターゲットになるのはどのような人なのかをリサーチしてもらった上で、 ホームステージングの内容を決める必要があります。 一概には言えませんが、ある程度高価格帯の物件の方が、ホームステージング売却には有効かと思われます。
ホームステージングを導入した場合、成約までの日数を短縮できるメリットがあります。 ホームステージングを導入しない通常の売却の場合は、成約まで平均で5ヶ月程度を要します。 一方、導入した場合の所要日数は平均1.5ヶ月と、成約までの日数に歴然とした差が出ています。
その差に少々疑いを持ってしまいそうですが、考えてみれば、「寝泊りさえできればいい」「買うことに夢などない」と思ってマンションを購入される方はあまりいらっしゃらないでしょう。 みなさん何かしらの“夢”や“思い”を持って購入される方がほとんどではないかと思います。
そんな“夢”や“思い”を持って来場される方にとって、空室で殺風景な状態を内覧するよりも、 新築のモデルルームのように演出されている方が購買意欲は明らかに高まり、結果として成約日数の短縮につながることになります。
成約に導くためには、何はともあれ内覧してもらわなければなりません。 マンション購入を検討される方の多くは、インターネットで検索し、興味を持った物件に対して資料請求や内覧希望されます。
その時、掲載されている室内の動画や写真が、空室状態のものとホームステージングされたものとでは、インパクトに大きな差が現われ、内覧してもらえるチャンスが広がります。 類似物件より少々高かったとしても、「ちょっと気になる」、「見るだけでも」と、内覧希望者の興味を引き出す効果が期待できます。
また、利用される方が増えてきたとは言え、ホームステージング売却はまだ発展途上の状況です。 そんな中でホームステージングを実行すれば、「先行者利益」を活かすことができるため、他の中古マンションや一戸建てとの差別化を図ることができます。
中古物件の査定では、築年数や立地条件などのデータからだいたいの相場が決まります。 最初の項でもお話ししましたが、ホームステージングの目的は「早く」「高く」売却することであり、 多くのケースでその目的は達成されています。
通常の売却よりも早く高く売却できるということは、それだけ購入希望者が“他にはない魅力”を感じている証拠であり、 価格交渉されることなく相場以上の価格で売れるケースも珍しくありません。
また、通常の売却で50~100万円の値引きが発生することを考えれば、一時的に数十万円の費用を掛けたとしても、高く、しかも価格交渉なしで売却できるホームステージングなら、 例えば、住宅ローンの残債を減らすことができたり、売却の諸費用に充てることが可能になります。
ここまで、ホームステージングの効果についてご理解頂けたと思います。では、ホームステージングがどのような手法を用いて行われるのかについて説明します。
まず、どのようなアイテムを用いてホームステージングを行うのか、そしてその狙いとは何かについて、3つのポイントが挙げられます。
①の家具については、カラーや形状はもちろん、間取りの構成や窓からの景色などとのバランスにも配慮します。 また、例えばマンションなら、その建物や地域における家族構成やライフスタイルなどから、購入希望者を想定し、これから住まわれるであろう方々に “最低でもネガティヴな印象は与えない”ことを念頭にコーディネートを行います。
②のデコレーション小物を配置する目的は、“臨場感”を醸し出すことです。家具を配置しただけでは、いかにも間に合わせの印象が否めず、中途半端になってしまいます。
観葉植物が日光に当たる様は、外部と室内のつながりを印象付ける効果があり、流れる映像を見ていると、休日の過ごし方を想像させます。 また、壁に絵画や写真を飾ることによって、歩行中の視覚に退屈感を与えない効果があります。
内覧している時、物件を見て、説明を聞いて、頭を働かせます。 考えることに傾いている状況で、③の“五感”に訴えるアイテムを用いることにより、“雰囲気”というプラスアルファの要素をもたらすことができます。
面積・質量としての広さや操作性優先の間取りという“性能面”とは別の次元で、「なんとなく感じがいい」ムードを、BGM、芳香、照明などを用いて演出します。
家具・インテリア小物・五感に訴えるアイテムの要素が効果的であることはおわかり頂けたと思います。 では、実際にそれらの演出を行う専門家に相談していきます。
専門家に依頼するメリットとして、「自宅を客観視できる」点があります。 自宅だからこそ気付かないでいた魅力やその物件ならではのアドバンテージを、第三者の目線で見出してくれます。 さらに、住んでいるからこそわかる物件の優位性や使い勝手をヒアリングした上で、その物件に最も相応しい演出を手掛けてもらうことができます。
次項で詳しく説明しますが、従来のインテリアコーディネーター資格と比べて、よりホームステージングに特化した「ホームステージャー1級・2級」という認定資格があります。 資格保持者はまだ少ないですが、どうせならその道のプロに依頼する方が良いでしょう。
アメリカにおける「ホームステージャー」の重要性は前述した通りですが、日本にも同様の資格制度が存在します。 「一般社団法人日本ホームステージング協会」が主催する「ホームステージャー1級・2級」という認定資格がそれです。
ホームステージャーは以下のような技能を習得しています。
確かに、片付け、遺品整理、不要家財の知識などは、売却という事情ならではのスキルです。 ホームステージャーは、インテリアの分野にとどまらない、売却を目的としたトータルコーディネートの専門家ということになります。
今後、ホームステージングの必要性はますます高まっていくことが予想され、中古マンションや一戸建ての内覧会場で、ホームステージングの実施が増えていくことでしょう。
ただ、すべての中古マンション・一戸建てがホームステージングに向いているとは限りません。 費用の項でも述べましたが、ある程度高い価格帯の物件でないと得られるメリットが少ないと考えられます。
また、居住中のホームステージングも可能ではありますが、「早く高く」の原則で言うなら、退去後の空き家状態の方がより効果が大きいと思われます。