定期借地・定期借家契約での不動産投資の注意点

「土地活用」という不動産投資を行うときには、駐車場経営やアパート経営など、自分が管理する活用方法だけではありません。

その土地の借り手と「定期借地権契約」を結ぶことで、土地を貸すことによる「賃料」だけを得て、その土地に建築した建築物などの管理は行わないという活用方法もあります。

また、マンションや一戸建てなどを貸すときには、「定期借家契約を結ぶ」という選択もあります。

どちらの選択肢も事例としては決して多くありませんが、この方法を知っておくことで不動産投資の幅が広がることは間違いありません。

目次

1.定期借地権とは?
☞1-1定期借地権の生まれた背景
☞1-2定期借地権の仕組み

2.定期借地権を利用した不動産投資
☞2-1マンションの建築用地として活用
☞2-2定期借地権マンションの流れ
☞2-3定期借地権契約を結ぶときの注意点
・2-3-1地代を一括前払いにする
・2-3-2物解体費用をどうするか?を理解する
・2-3-3土地を売却するより収益は下がる

3.定期借家契約とは?
☞3-1定期借家契約の概要
☞3-2定期借家契約のメリット
☞3-3定期借家契約のデメリット

4.まとめ

1.定期借地権とは?

定期借地権
定期借地権とは、簡単にいうと「期間を定めて土地を第三者に貸すこと」です。

不動産投資としては、自分が所有している土地を、不動産会社や個人に期限を定めて貸し出し利益を得ることになります。

定期借地権は1992年以降に誕生した契約形態であり少々複雑なので、まずは仕組みを理解しましょう。

1-1定期借地権の生まれた背景

定期借地権は1992年8月1日に行われた「借地借家法の改正」により誕生しました。この定期借地権が生まれた背景としては、今までの借地契約が賃借人に有利過ぎたという背景があります。

不動産業界では、従来の借地権契約を旧法借地権と呼ぶことがあります。
この旧法借地権が「賃借人に有利過ぎた」とは、平たく言うと賃借人はその土地に建物が存在する限り、賃貸借契約を更新し続けられるということです。

つまり、その土地を貸している人からすると、一度土地を貸してしまうと数十年以上の期間、第三者に貸し続けなければいけないということになります。
その状況では、その土地を活用する「自由」が奪われ過ぎてしまい、不法滞在する人の発生リスクも高まるので、この定期借地契約が誕生しました。

1-2定期借地権の仕組み

定期借地権は「一般定期借地権」「事業用借地権」「建物譲渡特約付借地権」の3種類が存在します。

しかし、一般的な不動産投資の観点で土地活用をするときには、一般定期借地権になるので、一般定期借地権に限定して解説します。

一般定期借地権
借地権の存続期間50年以上
権利の内容以下の特約が有効
1. 更新しない旨
2. 建物再築の売却も期間を延長しない。
3. 建物買取請求権利を行使しない
契約期間満了時の処理借地人は建物を解体して更地にする

まず、借地権の存続期間は50年以上で設定します。
これは、どちらかというと、その定期借地権物件に住む人を保護することが目的です。
仮に、借地権の存続期間が50年であれば、50年後にはその物件に住む人は退去する必要があります。

また、定期借地権の契約書には、上記「権利の内容」の3点を特約として盛り込めます。
基本的には、期間が満了しても土地の賃貸借契約の更新はしません。

また、期間内に建物を建て替えたとしても、建物を建て替えた時点で契約期間が0年に戻るワケではありません。
つまり、契約を締結して20年経過時点で建物を建て替えても、契約の残り期間は30年のままということです。

さらに、土地を借りて建物を建てた場合、その建物は土地の所有者が買い取る必要はなく、借地人が建物を解体して更地にするという流れです。

この辺りの取り決めは、物件によって異なる部分であり、土地所有者からすると重要な部分です。
そのため、次章で具体例をもって解説します。

2.定期借地権を利用した不動産投資

不動産投資
前項で定期借地権の概要は分かったと思います。
次に、定期借地権を利用した土地活用の具体例の話で、実際に不動産投資の観点でメリット・デメリットを解説します。

結論から言うと、定期借地権の利用は、以下のケースの場合に大きなメリットを受けられます。

・ある程度広い土地がある

・土地を財産として残したい

・自分が主導で土地活用(駐車場経営など)をしたくない

上記3点のメリットが大きい理由を、自分の土地に定期借地権で貸し出し、その土地にマンションを建築した例をもって解説します。

2-1マンションの建築用地として活用

定期借地権の不動産投資で最も多いパターンは、不動産ディベロッパーにマンション用地として貸すことです。

不動産投資以外に「個人」でもマンション用地として貸す場合もあると思いますが、マンション建築は億単位の費用がかかるので、現実的には不動産ディベロッパーが相手になることがほとんどでしょう。

一般的なマンション販売は、不動産ディベロッパーが土地を「購入」して、その土地にマンションを建築し、一般個人に向けて販売(分譲)します。
このようなマンションは、いわゆる「所有権のマンション」と言われます。

一方、定期借地権の場合は、50年以上の期間を定めて不動産ディベロッパーと定期借地権の契約をします。

そして、定期借地権として借りた土地に不動産ディベロッパーがマンションを建て、一般個人に販売(分譲)するという流れです。
そのため、このようなマンションは「定期借地権マンション」と言われます。

2-2定期借地権マンションの流れ

土地を定期借地権として貸す場合には以下のような流れです。

・不動産ディベロッパーと定期借地権契約を結ぶ

・その定期借地権契約をマンション購入者に継承する

つまり、最終的にはマンションの購入者である、一般個人と定期借地権契約を結ぶことになります。

不動産ディベロッパーと締結した定期借地権契約はそのまま購入者に引き継がれますので、契約内容が変わることはありません。

日本住宅総合センター※1によると、定期借地権物件が誕生した1993年2月から2017年3月31日まで、合計54,242万戸の定期借地権物件が誕生しています。

また、2016年のマンションの供給実績は1,000戸を超えており、この戸数はリーマンショック(2008年)を上回る水準です。

※1公益財団法人 日本住宅総合センター
http://www.hrf.or.jp/webreport/teishaku/teishaku_2016.html

2-3定期借地権契約を結ぶときの注意点

注意点

そんな定期借地権契約を結ぶときには、以下の点に注意しましょう。

・地代を一括前払いにする

・建物解体費用をどうするか?を理解する

・土地を売却するより収益は下がる

定期借地契約は、長期間で土地を貸す契約です。
また、マンションを建築する場合には、一般個人が相手になり、さらに50年以上経ってから土地が返還されます。

そのため、仮に不動産ディベロッパーから定期借地権契約を提案されたら、弁護士などのプロに契約書を確認してもらうことが大切です。

ただ、その前に上記3点の注意点はきちんと理解した上で、不動産ディベロッパーと話をしましょう。

2-3-1地代を一括前払いにする

定期借地権は、土地を貸している対価としてもらう「地代」が土地所有者の収益となります。

地代は建物を貸したときに発生する「賃料」と同じようなものです。
定期借地権契約の場合、この「地代」を月々分割でもらうか、一括前払いするかという2つの方式から選べます。

結論からいうと、以下の理由で前払い方式の方が良いでしょう。

・毎月徴収する手間がない

・地代を取り損ねる心配がない

・一度に大きな金額が入ってくるので他の投資にまわしやすい

まず、前払い方式にすることで、土地を売却した「土地代」と同じように、一括でお金を手に入れられます。
毎月地代をもらう方が節税になるというメリットはありますが、地代の滞納などのリスクが発生します。

また、一括で億単位(物件による)のお金が手に入るので、そのお金を別の投資にまわしやすいです。

現金化すれば、元本保証の債権などにも利用できるので、少なくとも土地を寝かしておくよりは利益は大きくなります。

2-3-2物解体費用をどうするか?を理解する

定期借地権マンションにつきものなのが、解体費用をどう準備するかという点です。

物件にもよりますが、解体費用は以下のような方式になります。

・解体準備金としてマンション購入者から毎月徴収する

・解体準備金として一括前払い(マンション購入時の諸費用)で徴収する

いずれの方法にしろ、マンション購入者から徴収した解体準備金は、債権などで運用する前提で考えます。

その場合、格付けの高い債券の利回りを参考に、50年間運用した場合にどの程度解体費用が増えるかを計算するということです。

土地所有者は、その債権の利率に注意してください。
その利率が将来的に下がれば、予想していた解体金は集まりません。

つまり、定期借地権契約が終わる数十年後に、手持ち資金を捻出して解体しなければいけないということです。
そのため、解体費用の運用利率は低めに設定しておきましょう。

前項の前払い地代もそうですが、この解体準備金も物件価格に乗せることができます。
そもそも、所有権付きマンションも物件価格に「土地代」が乗ってくるので、定期借地権マンションも物件価格に「地代」と「解体費用」を上乗せしても問題ありません。

2-3-3土地を売却するより収益は下がる

一方、定期借地権としてマンションを貸し出すときに得られる「地代」は、その土地を売却したときよりも低くなる点は定期借地権のデメリットです。

なぜ「地代」の方が売却時よりも低くなるかというと、定期借地権のマンションは所有権のマンションよりも安価になるからです。

そのため、不動産ディベロッパーも定期借地権で支払う地代は、土地を購入(所有権マンション)するときよりも安価にしないと利益が出ません。
相場としては、地代は売却時にもらえるお金の7割程度まで下がるでしょう。

そのため、土地売却時の価格査定もしつつ、定期借地権の適切な地代を検討しましょう。

上述したように、地代と解体準備金を一括で前払いすれば、その土地の居住者と今後やりとりすることはありません。
そのマンションの補修などは、そのマンションの居住者とマンション管理会社が勝手に行います。

また、将来的に土地は必ず返還されるので土地として財産を残すことができます。
この点にメリットを感じる人は定期借地権での不動産投資も検討すると良いでしょう。

3.定期借家契約とは?

定期借家
つづいて、定期借家契約についてです。
定期借家契約は定期借地権よりは単純で、分かりやすい契約形態になります。

主に、マンションなどを区分(1棟ではない)で所有している人は、そのマンションを賃貸に出すときに利用します。

3-1定期借家契約の概要

定期借家契約の概要は非常に単純で、賃貸借契約を結ぶときに「期限」を定めるという契約形態です。
その期限が満了したら、必ず賃貸借契約が解除され賃借人は退去するという流れになります。

この定期借家契約は、1999年12月に行われた借地借家法の一部改正時に誕生し、誕生した背景は定期借地権と一緒です。

マンションや一戸建てを貸すときには賃借人と賃貸借契約を結びますが、一度賃貸借契約を結ぶと、正当な理由がない限り所有者側から賃借人を退去させるのは非常に難しいです。

賃貸借契約では「退去するとき(させるとき)は○○か月前に通知すること」とありますが、借地借家法という法律で賃借人は守れています。

そのため、不動産オーナーは一度賃貸借契約を結んでしまうと、賃借人がいる限りその不動産を別の用途として利用できないということです。
そのような背景から、定期借家契約が生まれたということです。

詳しくは、こちらのホームページ※2を確認ください。

※2国土交通省 定期借家制度について
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000030.html

3-2定期借家契約のメリット

定期借家契約のメリットは、「賃借人を必ず退去させることができる」という点です。

そのため、以下のように将来的にその家に住む場合などは、定期借家契約を活用すると良いでしょう。

・遠方へ転勤になり今の家を貸したいが、その家には2年ほどで戻る可能性が高い

・実家のマンションを相続したが空き家にしたくない。ただ、今後そこに移住するかもしれない

上記のようなケースで賃貸借契約を結ぶと、その賃借人が住んでいる限り、自分の都合で戻るのは難しいです。
「自分が住みたいから退去して欲しい」という理由では、正当な理由にはなりにくのです。

そのため、仮に退去させるときには、引っ越し費用や次の家の初期費用などを補てんするなど、所有者の負担が大きくなる可能性があります。
そのようなことを避けたいときに、定期借家契約を結ぶと良いでしょう。

3-3定期借家契約のデメリット

一方、定期借家契約には、「賃料が下がる」というデメリットがあります。

たとえば、「1年」の定期借家契約であれば、そこに住む人は1年後に必ず引越さなければいけません。
引っ越し費用もかかりますし、何より新しい家を探す手間がかかります。

さらに、新しい家では新たに初期費用がかかり、無駄な費用がたくさん発生します。
そのため、通常の賃貸借契約よりも2~3割程度は賃料が下がると思っておきましょう。
どのくらい下がるかは物件や、定める期間によりますので、一度不動産会社に査定してもらうと良いでしょう。

4.まとめ

このように、土地活用は「定期借地権」、建物活用は「借地借家法」という選択肢があることを知っておきましょう。
しかし、特に定期借地権は複雑な契約になりますので、契約前は良く内容を確認しておくことが重要です。

いずれにしろ、この2つの方法を知っておくだけで、不動産投資の幅が広がります。

- 2018年04月17日