マイホームを購入する時に重要なことと言えば、物件探しと住宅ローン選びです。 特に住宅ローン選びは、金利や融資条件によって毎月の返済額が変わってきますので、しっかり検証する必要があります。
その住宅ローン選びにおいて欠かすことのできないローン商品に「フラット35」があります。 その内容は各メディアで紹介されていることから、ご存知の方も多いかと思います。
でも、フラット35を提供している会社をご存知の方は少ないかも知れません。 その会社とは「独立行政法人住宅金融支援機構」というフラット35のみを専門に扱う政府系金融機関です。 「フラット35は知っているが住宅金融支援機構を知らない」という方は案外多いのではないかと思います。
そこで今回は、住宅金融支援機構の業務内容や私達ユーザーとどのように関わるのかについて解説して行きたいと思います。
目次
1. 住宅金融支援機構の概要
1-1. 住宅金融公庫
1-1-1. 一般的な住宅ローンの直接貸付
1-1-2. マンション建設資金の直接貸付
1-2. 支援機構の“会社概要”
1-3. 支援機構の業務
1-3-1. 支援機構の設立目的・役割・ポジション
1-3-2. 住宅ローン審査~支援機構と民間金融機関とで見解が違う!?
1-3-3. 証券化事業~住宅ローン債権の買い取り
2. フラット35の審査
2-1. “人”に対する審査の基準
2-1-1. 年齢
2-1-2. 国籍
2-1-3. 年収に対する返済負担の割合
2-1-4. 信用履歴
2-1-5. 団体信用生命保険への加入資格
2-2. “物件”に対する審査の基準
3. 支援機構の手続きで覚えておくべきこととは?
3-1. フラット35の借り換え
3-1-1. 借り換えによるメリット
3-1-2. フラット35ならではの借り換えメリット
3-2. 繰り上げ返済
3-2-1. 「住・My Note(す・ま・い のーと)」を活用した繰り上げ返済
4. まとめ
住宅金融支援機構(以下、支援機構と表記)の説明にあたっては、まず「住宅金融公庫」について触れておく必要があります。支援機構は、その前身である旧住宅金融公庫の業務を引き継ぐ形で2007年4月1日に発足しました。
住宅金融公庫(以下、住公と表記)は、長期間固定で低金利の不動産融資(住宅金融公庫融資)を取り扱っていた政府系金融機関です。
住公の業務の中で、一般ユーザーと関わりがあるのは大きく2つです。
住公は審査とローン資金の受け渡し(送金)を行い、融資申込みは住公取扱代理店となっている民間金融機関などが取扱窓口となっていた。
マンションデベロッパーやマンションオーナーが分譲マンション、賃貸マンションを建設するための建設資金を融資していた。 取扱窓口、審査、資金の受け渡しのすべてを住公が行っていた。
次に、支援機構がどのくらいの規模なのか、“会社概要形式”で説明します。
設 立 | 2007年(平成19年)4月1日 |
本 店 | 東京都文京区後楽1-4-10(兼 首都圏業務取扱拠店) |
支 店 | 8支店(沖縄県を除く46都道府県について取扱い) |
北海道支店(札幌市)、東北支店(仙台市)、東海支店(名古屋市) | |
北陸支店(金沢市)、近畿支店(大阪市)、中国支店(広島市) | |
四国支店(高松市)、九州支店(福岡市) | |
所管省庁 | 国土交通省住宅局、財務省 |
資 本 金 | 7,117億3,259万円(平成27年度末現在、全額政府出資) |
財務体質 | 買取債権等残高 24兆9,585億円 |
財務体質(内訳) | 買取債権11兆6,394億円 |
貸付金13兆2,404億円 | |
平成27年3月31日現在 | |
※参考: Wikipedia 住宅金融支援機構 |
国の機関ということから“営業エリア”は沖縄を除く全国となっており、各地方の拠点都市に支店を配置しています。 なお財務体質に関して、差押・競売・不良債権などの買取債権の残高が債券全体の46%を占めていますが、 民間企業ではちょっと考えられない数値と言えます。
次に、支援機構がどのような業務を行っているのか、その内容について説明していきます。
まず、支援機構のホームページに設立目的の説明が掲載されていますので見てみます。
この説明から、「国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与」することが支援機構の目的であり、 目的遂行のために「住宅の建設等に必要な資金の円滑かつ効率的な融通(ローン貸出)」が 支援機構の役割ということになります。
そして、ローン貸出にあたっては「一般の金融機関による住宅の建設等に必要な資金の融通を支援するための貸付債権の譲受け」、 「一般の金融機関による融通を補完するための災害復興建築物の建設等に必要な資金の貸付け」が 支援機構のポジションということになります。
※支援機構の意義
目 的 | 国民生活を安定させ社会福祉を増進させること。 |
役 割 |
住宅ローンの仕組みを円滑・効率化し、多くの国民が住宅を持てるよう支援すること
(フラット35の仕組みを利用しての間接的支援)。 |
ポジション |
①一般の金融機関が貸し付けを行った住宅ローンの債権(=返済を請求する権利)を買い取ること(証券化事業)。
②災害復興住宅等の建設・購入や被災建築物の補修資金の貸付けなど、 一般の金融機関が対応できないローン貸出を行うこと(経済的に困難な人々の支援)。 |
一般の会社が目的とするのは利益追求であることは言うまでもなく、民間金融機関もその例外ではありません。
しかし、「買取債権の内訳が民間企業では考えられない数値である」と先述したことからも、 支援機構の目的とは利益追求ではなく、「多くの国民が住宅を持てるように支援すること」になります。 その目的を遂行するため、支援機構はある点において民間金融機関と異なる見解に立っています。
そのある点とは「審査基準」です。 住宅ローンを貸し出す際は、支援機構でも民間金融機関でも審査を行いますが、審査の基本的なスタンスとして、民間金融機関が“人”を重視するのに対して、 支援機構が貸し出すフラット35は「物件」が重視されます(審査内容の詳細については後述します)。
住宅ローンが返済できなくなると、貸した側に損害が生じるため民間金融機関が“人”を重視するのは当然と思われます。 もちろん、支援機構にも一定の審査基準はありますが、民間並みに“人”の基準を厳しくすると少しでも基準に不足がある人は借りることができず、 「多くの国民が住宅を持てるよう支援する」という主旨は“絵に描いた餅”になってしまい、支援機構の存在意義はなくなってしまいます。
また、支援機構が物件を重視するのは、人に対する審査の基準を下げることだけが目的ではありません。 「国民生活を安定させる」ためには住宅の品質を向上させる必要があり、品質の基準を満たした住宅に対してのみ貸し出すこととしています。
近年、震災や豪雨などの大規模な自然災害が毎年のように発生しています。 それらの災害に耐えられる住宅であることが、フラット35では大前提となっています。
この大前提は新築に限らず中古物件にも適用され、「新耐震基準(*1)」の住宅であることや 「ホームインスペクション(*2)」の検査をクリアすること、 また耐震などのリフォーム工事についても一定基準を満たした工事内容とすることなどが条件となっています。
*1新耐震基準:https://mansion-market.com/words/%E3%81%97/shintaishinkijun
*2ホームインスペクション:https://mansion-market.com/words/%E3%81%BB/homuinsupekushon
前記の“※支援機構の意義”の表で、支援機構のポジション①として「証券化事業」を記述しましたが、 この「証券化事業」が支援機構のもうひとつの重要な業務になります。 表では、「住宅ローン債権(=返済を請求する権利)を買い取ること」と説明しましたが、この「証券化事業」とはどのような内容なのかについて詳しく解説します。
銀行が一般個人(債務者)に住宅ローンを貸し出すと、銀行は住宅ローンの債権を持つ立場(債権者)になります。 債権について簡単に言うと、①住宅ローンの返済を受ける権利、②住宅ローンの返済を請求する権利、 ③住宅ローンが返済されない場合に住宅を競売に掛けて債務に充当できる権利になります。 通常、住宅ローン債権は銀行(または保証機関)が所有し、返済、請求、競売の権利を保有し続ける形態を取ります。
一方、フラット35の場合は、住宅ローンの貸し出しによって発生した銀行の債権を支援機構が買い取る形態です。 債権をすぐに現金化できる銀行にとっては、滞納などのリスクがないことから “人”に対して必要以上に厳しい審査が行われることはなく、長期間固定金利の住宅ローンがスムーズに貸し出されるようになります。
買い取った債権については、支援機構が証券(投資商品)化して金融市場で投資家に販売します。 この債権は、“政府系金融機関という公的な信用力”によって日本国債と同等以上の高い格付けが為されることになり、 機関投資家(保険会社、証券会社、銀行など)が買い取って投資信託商品に組み込むなどして個人向けに販売したりします。 もちろん個人投資家が買い取ることも可能です。
フラット35を借りた人達が返済したお金(元本・利息)は、最終的に投資家が受け取ることになります。 株式などの価値が流動的な商品と比べ、フラット35証券は貸出金利が固定である住宅ローンが原資となっているため、安定的であると見なされています。
このように、フラット35の債権を買い取る「買取型」を供給することが証券化事業になります。 ちなみに、「買取型」の他に「保証型」という形態もあり、 こちらは支援機構が一般的な住宅ローン(金融機関が窓口となって保証会社が債務を保証)における保証会社の立場を担う形態で、 債権を買い取らずに滞納や貸し倒れなどのリスクを引き受ける方式です。
※「買取型」と「保証型」の違い
比較項目 | 買取型 | 保証型 |
融資期間 | 35年 | |
融資額 | 購入価格の90%以内 | 購入価格の100%以内 |
金利 | 買取型≦保証型 | |
借り換え | 可能 | 不可 |
団体信用生命保険料 | 無し(金利に含む) | 別途必要 |
繰り上げ返済 | 可能 | 不可 |
ここまでの説明で支援機構の概要についてはおわかり頂けたのではないかと思います。 では次に、実際にみなさんと関係の深い「フラット35の審査」について解説して行きます。
フラット35の利用を検討されている方にとって、支援機構がどのような基準で審査するのかを知っておけば、 手続きをスムーズに進めることができますので“必読”です。
フラット35は長期の住宅ローンですから、年齢は重要なポイントです。
これは、前年の年収に対してローン返済が占める割合で、 現在返済中のローン(自動車ローン、カードローン、教育ローン、別の住宅ローン、クレジットカードのショッピング・キャッシングの分割およびリボ払い)に これから借りようとするフラット35の返済額を含めて計算します。
また前年の年収については、原則として行政機関発行の所得証明書を提出しますが、申込の際は源泉徴収票や確定申告書の写しでも審査は可能です。
年収400万円未満→30%以下、400万円以上→35%以下
※返済負担率=年収÷1年間のローン返済の合計額
これは、過去にローン返済や税金などを延滞(または不納)したことがあるかどうかの審査です。 該当する場合は借りられない可能性が高くなります。
団体信用生命保険とは、 債務者が死亡または後遺障害者となった場合におりる保険金のことで、以降の住宅ローン債務は保険金の充当によって完済される制度です。 民間金融機関の住宅ローン審査では団信保険を必須加入としており、 健康上の理由などで団信審査に通らなければ住宅ローン審査も通らない仕組みになっています。
一方、フラット35では、団信保険の加入については任意となっており、団信審査に通らない場合でもフラット35審査には通る可能性があります。
先に、支援機構が「品質の基準を満たした住宅」に対してのみ貸し出すとお話しした通り、 物件に対しては厳しい審査基準を設けており、適合しなければ融資を受けることができません。
物件の審査基準について下表を参照してください。
※フラット35の物件の審査基準
(参考)フラット35技術基準:https://www.flat35.com/business/standard/new.html
条件 | 戸建 | 共同住宅(マンションなど) |
接する道路 | 原則として建築基準法上の道路に2m以上接すること。 | |
住宅の規模(床面積) | 70㎡以上 | 30㎡以上 |
住宅の規格(生活空間) | 原則として2つ以上の居住室(家具等による仕切りでも可)、キッチン、トイレ、浴室を設置すること。 | |
併用住宅の床面積(店舗併用住宅など) | 併用住宅については、住宅部分の床面積が全体の2分の1以上(住宅以外が2分の1以下)であること。 | |
木造建築の制限 | 木造建築の場合は、一戸建てまたは棟割り(連続建て)住宅であること。 | |
断熱の規格 | 外壁、天井(または屋根裏)、床下などに規定の厚さ以上の断熱材を設置すること。断熱の性能は等級2または省エネルギー対策等級2レベルとする。 | |
耐火・耐久構造 | 耐火構造、準耐火構造または耐久性基準に適合する住宅であること。 | |
配管設備の制限 | 床下、小屋裏に点検口を設置すること。 | 構造耐力上主要な壁の内部に共用配管を設置しないこと |
区画の制限 | 隣接する住宅との間隔については、一定の離れを確保するかまたは規定の耐火構造物等を設置すること。 | |
床部の遮音構造 | ― | 上下階の間に位置する床の遮音構造は、鉄筋コンクリート造の場合は厚さ15cm以上とすること。 |
維持管理 | ― | 管理規約が定められていること。 |
ここまでの説明で、あらためて支援機構と民間金融機関の見解の違いが理解頂けたのではないかと思います。
― | 目 的 | 審査の比重 |
支援機構 | 多くの国民が住宅を持てるように支援する | 物件≧人 |
民間金融機関 | 利 益 追 求 | 物件≦人 |
わかりやすく言うと、人に対する審査は民間金融機関と比べて支援機構の方が“緩い”ということになり、 住宅を購入する人にとって利用しやすいと言えるでしょう。
買取型なら借り換えは可能で、保証型では借り換えできないルールになっていることは先の表で示した通りですが、 長期間のローンであることを考慮すると、借り換えできる余地を残しておきたいという方もいらっしゃるでしょう。
近年の超低金利政策に伴って、住宅ローン金利も史上最低水準となっており、なかでも民間金融機関が扱う変動金利ローンは、その恩恵を最も享受できる金利方式です。
日銀がマイナス金利政策を導入した2016年には、民間金融機関の窓口に住宅ローンの借り換え相談が多く寄せられ、変動金利への借り換えも相当数行われています。
金利が下落傾向の時に借り換えするメリットについては、言うまでもなく「返済額が減る」ことです。
メリット①返済額低減型 返済期間を変えなければ、月々の返済額が少なくなり、借り換え前と比べて総返済額が減少する。
メリット②期間短縮型 月々の返済額を変えなければ、返済期間が短縮され、こちらも借り換え前と比べて総返済額が減少する。
2つのメリットのうち期間短縮型については、短縮した期間の利息が発生しないため、総返済額減少の効果がより高くなります。
一方、借り換えにあたっては、さまざまな諸費用が掛かります。
これらの諸費用負担と返済額とを比較したうえで、借り換えが得か損か判断する必要があります。
フラット35には、「フラット35からフラット35への借り換え」という特殊な制度があり、現在返済中のフラット35ローンから、 直近の低金利のフラット35ローンに借り換えができるというものです。
借り換えにあたっては、民間金融機関と同様に諸費用は掛かりますが、民間の変動金利と違って長期間固定金利ですから、 将来的な金利上昇リスクが少ない点が大きなメリットになります。
フラット35の繰り上げ返済については、借り換えと同様、買取型は可能で保証型はできないルールなっていますが、 低金利局面とは言え、利息を減らすためにも繰り上げ返済できるようにしておきたい方は多いかと思います。
フラット35の繰り上げ返済時に覚えておきたいのが「住・My Note」です。 これは、フラット35を返済している銀行の窓口かインターネットで手続きするだけで、繰り上げ返済が可能となるシステムです。
平日や日中に銀行に行く時間が無いという方は多いでしょうから、インターネット手続きの方がお勧めと言えるでしょう。 なお、インターネットと銀行窓口では対応できる手続きの内容が異なるため、注意が必要です。
※「住・My Note」の手続き(インターネットと銀行窓口の比較)
比較項目 | インターネット | 銀行窓口 |
受付時間 | AM8:00 ~ AM2:00 | 窓口営業時間 |
返済方法 | 一部繰上返済のみ |
一部繰り上げ返済 全額繰り上げ返済 |
返済金額 |
元金10万円以上 (毎月分の返済額を除く) |
元金100万円以上 (毎月分の返済額を除く) |
手 数 料 | 無料 |
(参考):「住・My Note」
インターネットのメリットは受付時間が長いことと返済金額が10万円からという点です。 ただ、全額繰り上げ返済の場合は、銀行窓口での手続きが必要となりますし、 インターネットから2ヶ月連続で繰り上げ返済することはできない点も覚えておく必要があります。
ちなみに、繰り上げ返済時にも借り換え時の「返済額低減型」か「期間短縮型」を選ぶことができますので、目的や家計の状況を考慮して判断するようにしましょう。
支援機構の審査が“物件”を重視しており且つ技術基準に一定の条件設定をしていることから、どちらかと言うと新築物件が主な対象であると言えます。
新築物件を購入するとなると、長期の住宅ローンを組むことになりますので、固定金利のフラット35はユーザーにとって大きな安心材料です。 加えて、支援機構では借り換えや「住・My Note」など、ユーザーにとって使い勝手の良い制度も提供しています。
一方の民間金融機関も、ネット専用住宅ローンをはじめさまざまなサービスを提供しており、 一概にどちらが良いかを判断することはできませんが、「自分にとって優先順位は何か」に着目して、支援機構か民間金融機関かを選ぶようにすると良いでしょう。
※ 本記事は2017年03月時点の内容になります。各サービス内容の詳細については当該サービス事業者にご確認ください。
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