顧問先のマンション理事長より、次のような質問がありました。
Q:現在進めている植栽業者の選定(コンペ)について、一社当たり何分のヒアリング時間を設けるのが妥当でしょうか?
また、注意するべき点がありますか?
複数の候補業者がある場合、一社当たりどれくらいの時間をヒアリングすれば、理事役員が比較検討できるか?というお悩みです。
A:はっきり『●●分で』とは言えませんが、「複数の業者(サービス)の選定を支援するコンサルタント」として現場に入るとき、「参加者の合意形成を大事にする」という観点で考えると、
・選定の対象となる業務の内容
・聞き手である理事会の理解度・知識度や関心度
・何社を呼ぶか
この3つの要素で、一社当たり30分から60分の設定を想定するのが一般的です。
例えば、
①アフターサービス調査や植栽・清掃・鉄部塗装など、特定の分野に絞った比較検討は45分。
(40分+5分の休憩 兼業者の入れ替え・参加者への資料配布・プロジェクター準備)
②管理会社の変更や大規模修繕工事など、管理組合としての事業規模や住民との接点が大きい分野の比較検討は、60分(55分+5分)を基本とし、あとは個別事情に応じて、①でも短縮や延長を、②でも短縮することもあります。
ただ、ヒアリングにかける時間については、もちろん例外もあり、時には、60分以上の時間を費やしても、業者の話を聞かなければならない場合もあります。
例えば、「ほとんどの区分所有者にとって、馴染みのない商品やサービス」を提供する会社をヒアリングするときです。
ほとんどのマンション管理組合では、コンサルタント(マンション管理士)の採用を検討することは稀だと思います。
・そもそもマンション管理士って何?
・コンサルタントは何をしてくれるの?
・管理会社とどう違うの?
・どのような活用シーンがあるの?
・そんな仕事があるんだ!
と、そもそも存在意義から実際の発注イメージまで、まるで想像つかないような商品やサービスを検討するときは、60分のやり取りでは「理解できない」可能性があります。
また、例えば、「カウンセリングがセットとなるサービス」を提供する会社をヒアリングするときも、例外的に多くの時間を取ったほうが良いです。
ほとんどのマンション管理組合での業者選定というと、あらかじめ欲しい商品やサービスが決まっていて(またはイメージできていて)、あとは具体的に業者を比較検討するだけのケースが多いと思います。
でも、もし以下のような悩みがあった場合は、「コンサルタントから管理組合(理事会)へのヒアリング」で、あっという間に60分が経ちます。
・自分たち管理組合(理事会)の悩みを聞いて欲しい
・どうやって解決すれば良いのか道を示して欲しい
・全体像が描けず、どう手をつけたら良いかわからない
・複数の方法のどれがベストチョイスか判断がつかない
これらのように、存在意義から実際の発注イメージまで、まるで想像つかないような商品やサービスを検討するときについては、60分以上をかけて、一方的なプレゼンではなく、双方対話をしながら、じっくりと吟味する必要があります。
「まずはいろんな課題や悩みを聞いてもらい、方向を示して欲しい・どんなことができるのかを聞きたい」といった場合は、60分以上のヒアリング時間が必要になるでしょう。
また、ヒアリングの時間は、「理事役員や一般住民(コンペが公開制の場合)の理解度や知識度・関心度や、全体時間の中で『なるべく多くの方が最後まで飽きずに主体性を持って選んでいただけるか』」という要素で大きく変わっていきます。
たとえば、業者やサービス選定(コンペ)への参加者のほとんどが、理事を2年以上経験している方々や、修繕委員会のような『専門知識や関心を高く持っている方々の集まり』でしたら、一社当たりの時間は長めに設定することが考えられます。
この場合、参加者が各社からのヒアリングで判断したい項目は、
・業務(サービス)の詳細
・技術力(詳しさ)
・論理性(理屈が破綻していないか)
であることが多いです。
営業マンや上席からの挨拶や会社説明・実績を延々とされるよりも、早く本題に入ってもらいたいのが、目の肥えた参加者の求めるところでしょう。
複数社から絞り込んだ1社を再度招いてヒアリングする場合も、上記の観点でヒアリングの場を提供します。
一方で、参加者のほとんどが理事1年目で、まだまだ受け身であるような理事会の場合、一社当たりの時間を短くし、参加者の頭に入る情報量をコンパクトにして、参加者の頭がクリアな状態で比較できるように提案します。
この場合、参加者が各社からのヒアリングで判断できる項目は、
・サービスの概略(全体像)
・強み(特徴)
・説明のわかりやすさ
・誠実さ
・実際の担当者の顔が見えるかどうか(営業マンは仕事をとったら終わりですから…)
であることが多いです。
マニアックな技術説明を長々とされるよりは、これらの項目をバランスよく説明を受けたほうが、参加者の判断が迷いづらくなるので良いです。
なお、複数社を比較検討する場合、あらかじめ会社の経歴や経営状態などの基本条件を満たしている業者を選抜しておくことで「変な業者を選ぶ」リスクを未然に回避し、本題のヒアリングに集中できます。
また、特に理事1年目の方が多い理事会や、一般の区分所有者が任意で参加できるよう公開コンペとする場合、あらかじめ「選定における判断基準」を用意しておくことをお勧めしています。
前後の背景や詳細を知らない方が多ければ多いほど、「規模・売上・歴史・実績」で安易に選定してしまう傾向が強くなりますが、これは比較検討において本質的ではありません。
「規模・売上・歴史・実績」で比較するなら、ヒアリングに呼ぶ前に落選させるべきです。
例えば管理会社の選定であれば、あらかじめ参加者に対し、
・個別具体的な提案の内容と実現性
・現状の課題提起に対する回答のレベル
・共通質問に対する回答のレベル
・ヒアリングに参加したメンバー間のチームワーク(組織力が見えます)
・担当予定者やその上席の受け答え(レベルや上下関係が見えます)
・受注したいというモチベーション(伝わるものです)
・報酬(ただ安いのが良いのか、上述の選定基準を満たせば、多少高くても良いのかを決めておく)
これらの項目を判断基準として比較して欲しいことを、コンペの前にお願いし、同じベクトルで選定するべきです。
そうでないと「規模・売上・歴史・実績」で選ぶ人が増えてしまいます。
大切なことは、マンション管理への理解や知識・経験が少なく、関心もそれほど高くない多くの理事の皆さんへ、飽きさせずに興味を持ってもらいながら、共通のものさし(選定基準)を持ってヒアリングに臨むことです。
深山 州(みやま しゅう)
マンション管理士。大手不動産仲介会社、大手管理会社、管理費削減専門会社、小規模管理会社を経て、2006年にメルすみごこち事務所を創業。
とにかく三度の飯よりマンション管理好きで、しかも管理組合のカイゼン・改良・改革系の取り組みに志向する、右脳的・文系的なコンサルタント。
メルすみごこち事務所(外部サイト)
マンションサプリ 編集部 - 2018年03月23日