借りる方が負担するべき?鍵交換費用とは

賃貸契約をする際の諸経費として、不動産会社から「鍵交換費」という名目の請求を見たことがある方は多いかと思います。

しかし、よくよく考えてみると、鍵交換の費用は借りる側が支払う必要があるのでしょうか?

賃貸契約時の鍵交換費用について、考えてみたいと思います。

目次

1.鍵交換費用って?

2.鍵交換費用の請求時期は入居時? 退去時?

3.鍵交換費用の相場
☞鍵交換費用の内訳

4.鍵交換は借主が行わなければならないの?

5.鍵交換費用の負担は納得できる??
☞納得できない理由1 鍵を壊していないのに…
☞納得できない理由2 鍵は部屋の一部じゃないの?
☞納得できない理由3 費用を請求していても本当に変えているのか不明

6.それならば、鍵交換を自分で行うという選択肢はありか?
☞自分で勝手に交換するのはNG
☞貸主立ち合いの下で交換すればOK??
☞問題は貸主や不動産会社が了承するか?

7.鍵交換費用の特約がなければ、鍵交換は貸主負担??
☞鍵交換費用の特約がなければ、鍵交換は貸主負担??

8.鍵交換費用のポイントは「賃貸契約書の特約」

9.防犯対策として鍵交換費は支払ってもいいのでは?

10.まとめ 鍵交換は基本的には任意実施

1.鍵交換費用って?

家の鍵 まず、賃貸契約の鍵交換費用について説明します。

賃貸物件を契約しようとする際に、敷金や礼金などと合わせて請求される「鍵交換費」は、前の住民が退去した後、まったく新しい玄関のドアの鍵を作るというものです。これは、鍵を変えずにいると、前の住民が退去時に合鍵などを全て返却していない可能性もあるため、合鍵を使って室内に侵入してしまう可能性をなくすための措置です。

鍵交換を行う必要性については、一定の説得力もあり、防犯上必要なものであることは一目瞭然です。

2.鍵交換費用の請求時期は入居時? 退去時?

過去には、退去時に鍵交換費用を敷金の中から請求されていたこともありましたが、最近では、入居時の諸経費として請求されることが多くなっています。

これは、退去時に鍵交換をしたとしても、入居時に本当に鍵交換を行っているのかが入居者からは分からないため、入居時にきちんと鍵交換を行っているということを示すためにも入居時に鍵交換費用を請求されることは必要だと思われます。

3.鍵交換費用の相場

相場賃貸物件の多くは通常の鍵になります。中にはオートロックなどの機能が付いたようなドアもあります。玄関のドアの形がどのような形であるかで、当然ですが「鍵交換費用」の値段も変わってきます。

通常のドアであれば、15000円ほどが鍵交換の相場価格です。オートロック機能を備えたドアの鍵交換であれば、20000円~35000円ということもありますが、1万5千円を超える場合は、不動産業者にも内訳の確認が必要であると考えます。

鍵交換費用の内訳

鍵交換費用の相場が分かったところで、内訳を見てみましょう。

部品の価格は、鍵穴(シリンダー)と付属の鍵のみとなります。残りは工賃となります。工賃は、大手の業者と個人の業者で価格が違いますが、概ね8000円程度と言われています。大まかな分け方をすると残りの7000円が部品費となります。

4.鍵交換は借主が行わなければならないの?

入退去時の鍵交換の必要性、費用について考えてきました。ここで、ある疑問がわいてきます。それは「鍵交換の費用は借主が負担しなければならないのか?」ということです。その疑問については、国土交通省発行の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(平成23年改訂版)」の中で原状回復の範囲を超えた貸主への費用請求について、費用特約を結ぶことで請求することができるとしております。

原状回復の他に契約書中で記載できる費用特約が正当化できる要件として以下のものを挙げています。

① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

つまりは契約時の賃貸契約書で「費用特約」の中に鍵交換が入っていれば、借主負担で鍵交換を行わなければならないということを示しています。この要件の中の②、③の意思表示、義務の認識は、契約書を交わしている中に特約事項があれば、借主が分からずに署名捺印してしまっていても、認識しているということになり、要件を自動的に満足してしまう形となります。

また、賃貸契約上の原状回復義務の範囲を超えた部分に特約ということで対応することができるということを言っています。入居時にもらった鍵をすべて返却すれば、退去時の原状回復措置ということであれば、それで済んでしまいます。

しかし、特約を使って原状回復義務を超えた範囲を適用すれば、鍵交換費用を借主に請求することが可能です。これは一見乱暴なようにも見えますが、特約の要件①の「暴利的でない」「必要性がある」という部分で特約は正当化されます。退去時の鍵は合鍵などを作って持っていれば、次の住民の部屋にも侵入できてしまうこともあり、必要性はあります。

また、鍵交換の相場があり、相場以上に法外な価格を請求していないなどの価格面での適正があれば、借主に請求は可能ということになります。これは、最高裁でも妥当という判決が出ており、鍵交換費用の特約が契約書上にあれば、借主は負担しなければならないということになります。

5.鍵交換費用の負担は納得できる??

あるサイトでのアンケートによると、引っ越しの時に請求されたことのある費用の中で最も納得のいかない費用として「鍵交換費用」が僅差ですがトップに上がっていました。

いくら国土交通省のガイドラインに鍵交換は借主負担とできるとしても、契約書の細かい特約までちゃんと確認して契約する人は少ないと思われます。

では、納得できない借主の理由としては以下のようなものが考えられます。

納得できない理由1 鍵を壊していないのに…

壁紙が汚したり、畳を汚してしまったら、退去時に自費で補修をすることは納得ができます。

しかし、鍵は入居時の本数もすべて返却して、鍵を壊したりしていないのに、なぜ退去時に鍵交換費用を負担しなければならないのかが腑に落ちません。

納得できない理由2 鍵は部屋の一部じゃないの?

鍵穴(シリンダ)部分が、自分の所有するものであるから交換をするという考え方もあります。

しかし、古い物件などは鍵交換費用を請求されずに、次の入居者に貸しているという場合も見られます。

納得できない理由3 費用を請求していても本当に変えているのか不明

鍵交換が行われるのは、入居前もしくは退去後となります。そのため、借主が関知できない場所で行われることになります。費用は請求されているのに、鍵交換が実際に行われているのかが不明なため、「本当に鍵交換を行っているのか?」が非常に不明瞭となります。

実際に鍵を空き部屋と付け替えていて、ローテーションのようなことをしているという話もあり、その状態で鍵交換費用が20000円というアパートもあるようです。

6.それならば、鍵交換を自分で行うという選択肢はありか?

自分で鍵交換いろいろと納得のできない鍵交換費用ですが、契約内容を貸主または不動産仲介業者と協議して、自分で交換するということはできるのでしょうか?インターネットなどでもドアの鍵を自分で交換する方法というものが検索できますので、費用削減の一環として活用できるのかを考えます。

自分で勝手に交換するのはNG

鍵交換が自分でできるからと言って、貸主に無断で交換するのはNGです。これは、借主が事件に巻き込まれた、行方不明など連絡がつかない状態の時に貸主が中に入ることができなくなります。こうした安全面などの担保は貸主にあります。

貸主立ち合いの下で交換すればOK??

鍵交換を貸主や不動産仲介業者が立ち合いの下、行った場合はどうでしょうか?この鍵交換が、入居時であった場合、合鍵の一本を貸主に渡せば基本的には鍵交換を貸主で行ったことと同様となります。退去時であれば、鍵交換を貸主立ち合いの下で行い、鍵をすべて渡せばそれで契約書上の鍵交換を費用負担で行ったことと同じになります。

問題は貸主や不動産会社が了承するか?

鍵交換自体はそういった形で、借主側で交換することは可能です。

しかし、その作業自体を貸主が了承するかが問題です。これは費用に関する部分だけで断られるわけではありません。退去時に鍵交換を業者にて行った場合、退去後もその業者と貸主はコンタクトを取れる状態となってしまいます。その場合、合鍵を退去後に作成することも可能となり、防犯上の理由により貸主から断られる可能性が極めて高いと思われます。

7.鍵交換費用の特約がなければ、鍵交換は貸主負担??

貸主負担今まで賃貸契約書に鍵交換費用は借主負担という特約がある場合の前提で話を進めてきました。

今度はその特約がなかった場合はどうでしょうか?

鍵交換費用の特約がなければ、鍵交換は貸主負担??

鍵交換の特約がなかった場合、借主は退去時に原状回復の義務のみを負うことになります。

法律文としては以下の内容になります。

原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、 善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること

要するに借主が部屋を退去する場合、経年による部屋の色あせなど以外を除いた部分を入居前の状態としなければならないというものです。ここには鍵交換は入っていません。

ただし、鍵を入居時にもらった本数の一部をなくした等の場合は弁済する必要があります。鍵交換の特約が契約書上なければ、鍵交換費用を請求されても断ることができます。

8.鍵交換費用のポイントは「賃貸契約書の特約」

鍵交換の費用を借主が負担するかどうかを見るには、賃貸契約書の特約部分の記載をよく確認することです。賃貸契約書は署名捺印をしてしまうと、借主はよく読んでいなくても了承したということになってしまいますので、契約前に不動産業者や大家に確認することも重要です。

9.防犯対策として鍵交換費は支払ってもいいのでは?

防犯対策ここまで、契約や法律など難しい内容を一通り考えてきましたが、実際の話として、鍵交換は希望者に対して行う不動産物件もあるようです。これは、地方など比較的治安に問題のない地域でよくある話ですが、入居時の鍵交換は基本的には行われず、入居後の希望者にのみ鍵交換を借主負担で行うという場合です。

この場合、歴代の入居者が全員鍵交換を行わなかった場合、ずっと同じ鍵を使い続けられている状態になります。その中で合鍵を返し忘れていたりする可能性も極めて高く、防犯面では不安な要素となります。

鍵交換費用をどちらが負担するかという議論はありますが、防犯という観点に立てば、犯罪に巻き込まれてしまって一番困るのは借主でありますので、交換費用を支払ってもいいのではと考えます。

鍵の管理責任は貸主側にありますが、実際に鍵を使って出入りするのは借主でありますので、「自分で使う消耗品費」として捉えることもできます。

10.まとめ 鍵交換は基本的には任意実施

鍵交換は賃貸契約書の特約で規定されるように、基本的には任意で実施するかどうかを選ぶことができるものです。借主が、鍵は今までのままで構わないと貸主に伝えて、鍵交換が必要ないと言えばそれで済んでしまいます。

しかし、昨今の社会情勢などを考えると、前の入居者と同じ鍵で住み続けることは、防犯の面で危険だと思います。鍵交換は借主負担であっても行っておくに越したことはありません。

しかし、問題はその内容です。借主負担で見ていないからということで、まともに鍵交換をしなかったり、空き部屋の鍵を付け替えているだけにもかかわらず、相場よりも高い費用を請求したりと貸主の不誠実とも思える対応が借主側から見ると、鍵交換費が「納得のいかない費用」と捉えられてしまうではないでしょうか?

貸主としても、利益を出す部分が必要という言い分も良く分かりますが、こうしたグレーな部分ほど貸主に十分な説明を行う必要があります。

借主も自分で鍵交換費用を支払ったにも関わらず、まともに交換もされていなかったという事実が分かればトラブルの素にもなり得ます。

防犯の一つとして鍵交換を行っているということ、鍵交換の必要有無は、本当は借主で選択可能なことを念頭に置いて、賃貸物件を見てみましょう。

不動産契約は多くの法律が絡む内容を、素人である借主が、プロである不動産業者を仲介して契約するものです。初めての契約であれば、わずかの時間ですべての項目の確認を行うなど不可能です。本当は借主のための費用であるにもかかわらず、納得のできない費用とみられてしまうのは、一様に説明不足によるものと考えてもよいかと思います。

鍵交換の必要性、および実施方法について、借主との十分な話し合いによってこうした費用は妥当なものという認識になっていきます。法律的にグレーで任意の部分もあるため、借主、貸主双方にとって納得のいく着地点を探ることで、賃貸物件の評判も上がるものと考えられます。

- 2017年02月01日