マンション大規模修繕の「春工事・秋工事」を知っていますか?

東京都内北部の大規模マンションで、1回目の大規模修繕工事を検討するにあたり、コンサルタントのお仕事を頂き、その下打ち合わせを行いました。

区分所有者から立候補や推薦で選ばれた修繕委員会のメンバーから、大規模修繕工事の計画から工事に至るスケジュールの相談があり、手帳にざっくりとしたイメージを書いてみました。

その時、ある委員から、「大規模修繕工事って、春か秋の2回しかできないの?」と質問がありました。

マンション修繕業界では、大規模修繕工事の実施時期を

・春(2月頃から6月頃まで)
・秋(8月頃から12月頃まで)

のいずれかの時期に行うのが望ましい、と説明(営業)しています。

私がマンション管理業界を志した2000年ころからすでに、大規模修繕工事は『春工事』か『秋工事』といわれてきました。
正確に言うと「教育」されてきました。
なぜそのような慣例があるのでしょうか?

目次

1.業界人が春工事と秋工事を提案する理由を考えてみる

2.年2回の工事スタートは施工業者も得しない!?

3.春工事と秋工事にとらわれない大規模修繕工事を

1.業界人が春工事と秋工事を提案する理由を考えてみる

先輩や技術者から教えられた、大規模修繕工事は『春工事』か『秋工事』に実施する理由は、以下の通りです。

・お盆(8月)と年末年始(12月末~1月上旬)に足場(建物回りに巡らす、作業員が作業したり移動するための骨組み)があると、留守宅が増えるこの期間に防犯上のリスクが高くなる
・お盆と年末年始のころは、暑過ぎて(寒すぎて)塗料が適切に定着しづらい
・お盆と年末年始のころにエアコンが使えないと、居住者の生活に支障を来たす
・新年(初日の出)を、足場やシートの被さっていないバルコニーから拝みたい、という居住者がいる

このような理由で、春か秋に工事を実施すべき、という風に教えられました。

でも、実際はどうでしょうか?

・足場があることによる防犯上のリスク
→すでに夏季や年末年始に集中して留守にする時代は終わりました。
休暇は分散され、それほど帰省率は高まっていません。
むしろ、居住者(世帯主)が60歳にもなれば、盆暮には子供たちがマンションに戻ってくるのです。
また、現在においては、機器を使った足場の防犯体制も充実しています。

・お盆(8月)と年末年始(12月末~1月上旬)は暑過ぎて(寒すぎて)塗料が定着しづらい
→技術の進歩により、劣悪な環境に耐えうる塗料が一般化しています。
また、そもそも地球環境が変わり(温暖化)、6~7月でも真夏日はありますし、11月でも2月でも冷え込む日はありますよね。

・お盆(8月)と年末年始(12月末~1月上旬)にエアコンが使えないと生活に支障を来たす
→夏場のエアコンなしは確かに厳しいですが、上述のように6月から3月くらいまで、エアコンが必要な日はいくらでもあります。

・新年(初日の出)を足場やシートの被さっていないバルコニーから拝みたい
→そもそも大規模マンションやタワーマンションでは、春・秋工事の範囲ではとても工事が終わりません。
半年~1年以上という工期ですから、春とか秋などと言っていられないのです。

理由を一つずつ考えると、『春工事』『秋工事』と大規模修繕工事の時期を固定化する意味合いは、だいぶ薄れてきていると思いませんか?

2.年2回の工事スタートは施工業者も得しない!?

落胆
修繕工事の施工業者やその下請け業者、孫請け業者には、それぞれ現場代理人や職人を多く抱えています。
会社がこれらスタッフを安定的に抱えるなら、毎月安定した給与を支払う必要があります。
なのに、工事時期を「春・秋」と2つに絞ってしまうと、仕事の機会が年2回に固定化され、それ以外の期間は『遊んでしまう』可能性が高くなります。

例えば足場の専門業者は、大規模修繕工事の「はじめ」と「最後」に組み立て/解体の必要がありますが、工事期間中には仕事がありません。
すると、春工事の頭と終わり、秋工事の頭と終わり以外には仕事がない、ということになります。

もし工事時期が分散されれれば、職人や材料をバランス良く融通することで仕事が増え、売上が上がるのです。

現にいくつかの施工業者にヒアリングしたところ、

・工事時期がずれる現場があるとありがたい
・ずれた工事期間であれば腕の良い職人を手配しやすい
・見積金額も安くできる

と共通した回答でした。

3.春工事と秋工事にとらわれない大規模修繕工事を

以上のことから、大規模修繕工事の実施時期については、なんとなくの慣習に縛られることなく、区分所有者間の合意形成が図ることができ、費用対効果が最大化される時期を狙って行うことをお勧めします。


深山 州(みやま しゅう)
マンション管理士。大手不動産仲介会社、大手管理会社、管理費削減専門会社、小規模管理会社を経て、2006年にメルすみごこち事務所を創業。
とにかく三度の飯よりマンション管理好きで、しかも管理組合のカイゼン・改良・改革系の取り組みに志向する、右脳的・文系的なコンサルタント。
メルすみごこち事務所(外部サイト)

- 2018年04月03日