街を盛り上げ価値アップ!「地域交流」が成功に導く賃貸経営

近年、賃貸市場が落ち込み、空き家、空き部屋が目立つ賃貸物件が少なくありません。賃貸経営をするオーナーたちにとって空室は大問題です。家賃を下げる、広告を出す、リフォームする、などで対策をするオーナーが多い中、マンションの1階でマルシェを開催し、エリアの価値を上げるという新たな試みを実践するオーナーがいました。

今回、2016年6月14日東京ビッグサイトで開催された住宅イベント「賃貸住宅フェア2016」にて行われた、マンションオーナー、石井秀和氏によるセミナーを取材。上記の試みを実践するまでの道のり、効果、石井氏の思いなどをセミナーで解説していただきました。

<プロフィール>
石井秀和
1975年生まれ。1998年東海大学を卒業。2000年に父の会社(株式会社南荘石井事務所)の手伝いを開始し、2013年に株式会社南荘石井事務所代表取締役に就任。

賃貸経営におけるCS(顧客満足感)

まず、お客様に賃貸を契約してもらうためにも、心がけなくてはいけないのが「顧客満足感」です。その物件に住みたいと思えるような満足感を感じてもらうことはとても重要だと考えています。
賃貸における顧客満足というのは「地理的満足感」「物理的満足感」さらに「精神的満足感」もあると僕は考えています。

「地理的満足感」
地理的満足感には、街の雰囲気や緑豊かな自然、駅やバスのアクセスの良さなどがあります。住むなら治安の良い街に住みたいというのが入居者の思いですし、住んでいて居心地の良さを感じるような景観も地理的満足感を感じさせてくれます。また、「○○駅まで徒歩10分」などのアクセスの良さは、社会人にとっては最も重要なポイントでもあります。
地理的満足感は、賃貸契約では重要なCS(顧客満足)なのです。

「物理的満足感」
物理的満足感は外観が綺麗だったりオシャレだったりという視覚的な面や、オートロックがついているなどのセキュリティ面、ロフトがあるなどの設備面を言います。設備は充実しているに越したことはありませんが、導入するにはコストがかかりますし、他の賃貸物件も同じ設備を入れてしまえば、差別化できなくなります。
物理的満足感を上げるために何かを導入する時は、それによって他物件との差別化が図れるかどうかをしっかり見極めることが大切だと考えます。

「精神的満足感」
個人的に僕が「これも重要だな」と感じるのはこの精神的満足感です。
引っ越してきたばかりで周囲に知っている人がいない、この地域に友達がいない、という入居者は少なくなく、あまり外に出ない日々を送っている入居者もいます。

入居者と話していて「この地域に知り合いが欲しい」「イベントに参加してみたい」と考えている人が意外にも多いことが分かりました。そこで、入居者同士でコミュニケーションを図ったり、交流を持つ機会を増やしたりすることで外に出るようになるのではないかと考えたのです。そんな交流が「楽しい」と感じるようになれば、外に出る機会が増えますし、友達を入居者自身も精神的な満足を得ることができると考えています。

地震の影響でプライバシー重視からコミュニティ重視に

東日本大震災を受け、それまではプライバシー重視だった人たちが「コミュニティ重視」へと変わっていきました。みんなで情報交換をしたり、お互いに助け合ったりする生活へと変わり、みんなが関わり合うようになったと思っています。
それらもきっかけで、僕は入居者同士で触れ合いが持てるようなコミュニケーションの場を設けようと考えました。

入居者同士の交流のはずが……

しかし、なかなかはじめはうまくいきませんでした。最初、交流する機会を増やすために近隣オーナーの物件にある共用部を利用し、流しそうめんを企画しました。しかしなかなか入居者が集まらず、参加者のほとんどは近隣に住んでいる子供やお母さんたちばかりだったのです。
そもそも、知らない人と流しそうめんをすることに抵抗がある人ばかりです。だからこそ、集まったのは近隣住民のお母さんと子供に偏ってしまったのです。

単身入居者は単発のイベントだと、タイミングと気持ちが合わないと出てきてくれない。それならば気が向いたときに来られる常設の店舗と、大反響を呼ぶようなイベントが必要。そこで僕は直営でカフェの経営をしようと決意し、イベントについては入居者だけに限定せず、参加してくれる近隣住民も巻き込んで、にぎやかなイベントを開催してしまおうと考えたのです。建物周辺がにぎやかになることで、単身者である入居者も外に出やすくなると思いました。

マルシェを開催!近隣住民を巻き込んでファンを増やす

入居者だけではなく近隣住民同士でも交流が持てるスペースを設け、様々なイベントを企画したのです。第1回目は、手作りお菓子やパン、アクセサリー、野菜の直売、陶器販売などさまざまなお店集めてマルシェを開催しました。多くの人にマルシェへ来てもらえるように、Facebookなども利用しながらとにかく人集めをしました。
うまくいくかどうか正直不安ではあったのですが、結果は大成功でした。第1回目からたくさんの人に集まっていただいたおかげで、認知度をアップすることにも成功しました。

また、その際に2回目のマルシェの出店者をポスターにて募集しました。それが功を奏し2回目のマルシェは、ほぼ近隣の方々の出店でまとめることが出来ました。出店者が近隣の方々だと、それを目当てにやってくるゲストも近隣の方々になり、1回目とは雰囲気が変わりました。参加した人が「連れていきたい」「教えてあげたい」と、人が人を呼んでくれるようになるので、マルシェを開催したおかげで地域の認知度もアップしました。実際に僕たちと関わっていなくても、参加者たちが友人や知人に話してくれます。その友人や知人が参加し、その人たちがまた自分の友人や知人に話す……この「人が人を呼ぶスパイラル」が大切だと僕は思っています。

イベントを開催するたびに徐々に認知度が上がり、今では僕が何もしなくてもみんなが勝手に主催していろいろなイベントを開催していますよ。

エリアの価値をアップさせることによるメリット

こうして、魅力的な街だと思ってもらえることで、引きこもりがちな単身者も街へと繰り出すようになります。そうなれば、街のファンになってもらえる可能性は高いですし、もしもまた別の場所へと引っ越してきても「あの場所が良かったから……」と戻ってきてくれるのです。
それだけではなく、別の場所へと引っ越していった入居者が、物件を探している友人や知人におすすめしてくれます。「あそこ楽しい街だよ」「私が住んでいたところ良かったよ」などと、どんどん良い情報が広がっていけば、この街に住んでくれる人は増えてくるのです。

不動産仲介業者も、街が魅力的であればオススメしやすいので、物件の契約もしてもらいやすくなります。「この辺は頻繁にイベント開催していますよ」「楽しい行事が多いんですよ」と、物件を探している人にも魅力を伝えやすく、実際にイベントに連れてくることもあるのです。
楽しいところだなと思ってもらえれば、契約率がアップしますし街自体の空室率の低下にもつながるのです。こうして人気なエリアとなることで、近隣賃貸の家賃相場がアップします。これも狙いの一つでもあります。

今回のセミナーのまとめ

賃貸のオーナーの悩みの種でもある「空室」。石井氏がとった行動は「地域ぐるみ」で認知度をアップさせるというものでした。
「入居者同士の交流」という程度であれば、多くの人が想像できる範囲ではありますが、近隣住民までも巻き込んで空室率を下げるというのはなかなか考えつかないものです。

石井氏のセミナーでは、街を知ってもらう、楽しい街だと思ってもらうことで空室の問題を解消するだけではなく、注目のエリアにすることで、近隣の賃貸相場をアップさせ、結果自分の所有する賃貸の家賃までもアップさせることができるという戦略を解説してくださいました。とは言っても、この試みは決して簡単なことではありません。石井氏の持つ行動力や前向きな性格だからこそ成功したのではないかと思います。ただ、決して不可能な内容ではないので、同じだけの行動力と思いがあれば取り入れることができるかもしれません。
マンションやアパートを所有するオーナーの皆さん、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか?

- 2016年06月29日