中川寛子氏が語る「昔の話題物件に学ぶ今の賃貸経営に役立つヒント」

6月14日(火)~15日(水)、東京ビッグサイト 西1.2ホールで、全国賃貸住宅新聞主催の、家主と地主と賃貸住宅市場で働く人のためのセミナー&展示会「賃貸住宅フェア 2016 in 東京」が開催されました。今回は、14日に行われた株式会社東京情報堂代表中川寛子氏による「昔の話題物件に学べる今の賃貸に役立つヒント」セミナーの概要を一部ご紹介します。

<プロフィール>
中川寛子氏
30年以上にわたる住まいの雑誌編集経験を持ち、数千件の住宅を取材してきた経験を持つ。現在は「住まいと街の解説者」として活躍し、メディアでの連載・執筆や「住まいのプロが教える30の警告 『この街』に住んではいけない!」(マガジンハウス)等、著書も多数。

セミナーは、中川氏が取材で見てきた昭和60年代から現在までの賃貸住宅について、現在も成功している物件はどこに成功の理由があるのか、また、うまくいかなった物件の失敗の原因はどこなのかを、具体的な物件を挙げて説明するというもの。

昭和60年前後から、住宅メーカーが投資物件用の賃貸アパートを建て始めた

今から30年ほど前は、非常に住宅が不足していた時期でした。その頃は住宅メーカーが投資用のアパートをほとんど手掛けておらず、実はまだ歴史が浅いのです。当時の物件で革新的と言われたのが、今では珍しくない中階段です。それまでは、アパートの階段は外階段がほとんどでした。また、当時の物件は4人家族を想定していため、3DKなどの間取りが多くありました。その傾向が変わり始めたのがバブルの頃です。

 東京情報堂_中川寛子氏_セミナー

プロジェクターに紹介されているのは、天井収納式ベッドのついた部屋のチラシ

バブル期には11~13㎡などの非常に狭い物件も珍しくなく、電動式天井収納ベッド付きの物件なども登場しましたが、あっという間になくなりました。また、ロフトが付いているため屋根が三角で、パステルカラーの外壁に白い屋根というようなメルヘンチックなデザインの“ショートケーキハウス“と呼ばれるタイプのアパートも流行しました。

バブル時期の不動産投資用に作られたマンション・アパートについて

バブル期に作られた物件が現在どのようになっているかについて、都心にはあるものの最寄駅からは遠く、低地というあまり条件がよくない場所に建つマンションへ取材に行きました。当時はそのような場所に、30~40戸の投資用マンションを建てていたディベロッパーがいました。部屋は狭いですが家賃が安いことからニーズはあるようで、現在は外国人の方や、年金生活の高齢者の生活保護世帯の方が中心に暮らしています。廊下には住人の荷物などが置かれていたり、共用部の手すりに布団を干されていたり、電気代未払いの札がドアノブに掛けられているなどの光景も見られました。

そのほかにも『ペット可』をうたい文句に高く売られた投資用物件もあったようです。しかしこのような投資用物件では、管理組合が機能しないケースもあります。現在はエントランスなどの共用部分でペットの排泄をさせたりする入居者がいるなど、マナーの悪い人も住んでいるようです。

不動産投資家に気をつけてほしい激狭物件について

東京情報堂_中川寛子氏_セミナー

プロジェクターの写真は、バブル期に登場した激狭物件。トイレのすぐ脇に狭いシャワーブースがある

最近ではまた、バブル期に登場したような極端に狭い物件も出てきています。以前、8㎡という非常に狭い物件を、知り合いの不動産会社の方に教えてもらい取材しました。その物件は、玄関を入ると目の前にトイレ、奥にシャワーブース、隣に洗濯機置き場。右側にキッチンがあり、キッチンの脇にロフトへつながる階段というつくりでした。なぜこのような部屋が可能かというと、東京都の条例で、1部屋の最低面積は7㎡以上というきまりがあるためです。ちなみにロフトに寝てみたところ、160cmの自分でもまっすぐ寝られませんでした。また、シャワーブースもごくわずかなスペースです。しかし、新築でバス・トイレ別という条件のため、ネットで検索すると条件に合致した物件として出てくるのです。

この広さであれば普通だと6~8戸程度しかつくれないはずですが、部屋数は14戸、利回りが非常に高く見えます。こういった部屋は『満室になったところで、ものを知らない不動産投資家に売りつけてやろう』という目的があるように思われます。そのほかにも、1LDKで居室が2畳、エアコン付きなどという物件もあり、売り逃げの魂胆が見え見えです。投資家の方は、くれぐれもこのような部屋に引っかからないように注意してほしいと思います。

バブル期に流行したデザイナーズ物件について

バブル期にはデザイナーズ物件を舞台にしてドラマを作るのが流行し、W浅野のトレンディドラマに登場した物件などもありました。また、当時は中庭を作るのが流行り、贅沢な敷地の使い方をしている物件もありました。しかし、独立感があって採光もとれるものの、駐輪場がない、洗濯物が干せない、などのデメリットもあるなど、使い勝手を考えていない所も少なくありません。中庭がある物件ならば、現在であればコミュニティ賃貸のように、住人同士がコミュニケーションを図れるような賃貸物件にする方法もありますが、20数年前にはそのような発想がありませんでした。

また、バブル期に作られた物件の見分け方として「アールとガラスブロック」があります。今はほとんど見られなくなったので、これを見たらバブルの物件と思っていいでしょう。デザイナーズの中でも変わっていて印象に残っているのは、アジア風の物件です。現在もこのような物件は少ないため、今だったらこういうものもおもしろいと思います。バブル期は、フローリング、コンクリート打ちっぱなし、大きい窓という同じようなつくりがほとんどでした。

バブル期に流行した、アールとガラスブロックの物件

プロジェクターに紹介されるのは、バブル期に流行した、アールとガラスブロックの物件

バブル期に建てられ、現在も成功している投資用物件について

女性向けの物件もバブル期に流行しましたが、現在までうまくいっている所は少ないです。当時は女性の方がきれいに住んでくれるだろうという幻想がありましたが、汚くしだしたらとことん汚く住むのが女性の傾向といえます。

東京情報堂_中川寛子氏_セミナー

プロジェクターに映されるのは、現在も人気のプール付き物件のプール

当時の女性向けで現在でも成功している、プール付きの物件をご紹介しましょう。バブルの頃に多く出たタイプですが、今はほとんどありません。こちらは今もプール付きをウリにしており、エントランスもリゾート風で、写真にはとてもこだわっています。今、主流となっているネット検索を考えると“写真”にこだわることは大切だと思います。同じ女性向け物件でも、賃料などが同じであれば写真が綺麗な方を選び、内見に来るでしょう。この物件は築年数26年ですが、現在もほぼ満室が続いています。室内は3点ユニットで、部屋の水回りなどは昔ながらのつくりですが、そのデメリットをくつがえすだけのメリットがあります。写真映えのするスペースを作っておくことは大切だと感じます。

東京情報堂_中川寛子氏_セミナー

プロジェクターに紹介されたのは、築10年以上経過しても人気のデザイナーズ物件

もうひとつ、写真映えのするデザイナーズ物件を紹介します。全体が67室と、賃貸で規模が大きい物件で、中庭やメゾネットなどの絵になる空間があり、現在まで当初と同じようにPRをし続けています。デザイナーズ物件であってもPRをし続けなければ物件の魅力は伝わりませんし、普通の物件になってしまいます。この物件は完成前に写真付きのパンフレットをつくり、HPでは部屋の写真を全室細かく見せています。ライフイベントごとに同じ建物内の広い部屋に住み替える住人もいるなど、築10何年でもほとんど賃料が下がっていません。

そのほかにも、築25年・駅から10数分で立地は特別よくないのに、ほぼ満室が続く物件があります。当時からすると広い間取りの部屋などもあり、1階で大家さんが不動産会社をやっているため、入居者は家賃を持参して大家さんと毎月顔を合わせます。大家さんが入居者のお子さんを預かってくれたりすることもあり、新築からずっと住み続けている人もいるそうです。

豪華設備などバブル期に流行した物件でも、現在まで機能している所は少ない

スポーツクラブを物件に併設したタイプもバブル期には流行りましたが、高額物件以外で現在残っている所はわずかです。そのほかに、バブル期には『家具付き物件』、今でいうサービスアパートメントが流行しました。しかし、結果うまくいかなかった所が全体の8~9割です。設備をつけても、ソフトが伴わないとうまくいかないのです。

ひとつ、物件をご紹介します。駅から2~3分と立地がよく、入居者用のレストラン・サウナ・ジャグジーなどの設備を備えた物件がありました。こういった物件の場合は部屋も豪華にしないといけないのですが、こちらは豪華なのは設備のみで、部屋は16㎡程度とバランス悪く、ソフト面のサポートができていませんでした。現在はレストランなどの設備は全て使われていません。しかし、駅から近いこととエレベーターがついていることで、高齢者には人気があります。そのほかに、看護師が24時間常駐するなど、有料老人ホームに近い設備を備えた賃貸物件なども昔はありました。今は普通の賃貸マンションとなっています。

最近、カスタマイズ賃貸やDIY賃貸が出ていますが、バブルの時にもありました。現在残っているのは、駅から徒歩10数分の物件で、現在もほぼ満室です。入居者が内装を好きにできるのがメリットで、ほとんど部屋に何もない状態で貸し出し、ある程度大家さんがリノベーション費用などを出してくれるそうです。バブル期にこのようなタイプの物件が続かなかった理由が『原状回復』です。当時は原状回復が絶対だったため、最初の入居者が自分の好きにやってしまうと、次の人が困ってしまいます。今は原状回復をしなくていい賃貸物件も出てきています。カスタマイズ賃貸の場合は、そこをセットで考える必要があります。

また、バブル期には外から電話で家の中のクーラーなどの調節ができる「テレコントロール」も流行りましたが、現在はなくなりました。当時は携帯電話がなく、外で公衆電話を探す必要があり面倒だったため、すぐにすたれてしまいました。今は、スマホやパソコンなどからコントロールできるタイプがあります。

まとめ

今回の中川氏のセミナーを聞いて、バブル期に建てられた投資用物件で現在も成功している所は少ない一方で、築年数が経っていたり駅から遠いなど、条件だけを見るとあまりよくなさそうな物件でも、

・入居者のニーズに沿ったサービスなどを提供している
・物件の魅力を伝えるためのPRを長期的に続けている

上記のような物件は、入居者が途絶えず安定した人気があるようです。
また、条件だけに惑わされてしまうと、極端に狭い物件などに当たってしまう可能性もあるため、投資用の不動産やこれから住む賃貸を探している人は条件以外にも、さまざまな観点から考える必要があることがわかりました。

- 2016年07月04日