不動産に関連するローンとして真っ先に思い浮かぶのは「住宅ローン」ですが、住宅ローン以外にも不動産に絡むローンがあります。 その中で「不動産担保ローン」は、利用条件や使途の制約が住宅ローンほど厳しくないことから、これまで多くの法人・個人に利用されてきました。
その不動産担保ローンが、昨今の超低金利政策によってあらためて存在価値が見直されるようになっています。
そこで今回は、不動産担保ローンの基礎的な知識や、利用にあたって知っておくべきこと、具体的な商品事例などについて説明していきます。
目次
1. 不動産担保ローンって何?
2. 住宅ローンと不動産担保ローン
2-1. 住宅ローンと不動産担保ローンの違い
2-2. 担保と抵当権について
2-2-1. 担保とは?
2-2-2. 抵当権とは?
2-2-3. 1つの不動産に抵当権1つとは限らない!
2-2-4. 根抵当権って何?
2-2-5. 住宅ローンと不動産担保ローンを併用できないケースとは?
3. 不動産担保ローンの審査基準
3-1. 不動産担保ローンの審査におけるチェック項目とは?
3-1-1. 担保価値
3-1-2. 既存借入および滞納の有無
3-1-3. 収入に対する融資額の基準
4. 不動産担保ローンの利用に向いているのはどのようなケース?
4-1. リバースモーゲージ
4-2. 不動産売却を検討している方
4-3. 賃貸物件をリフォームして収益性を向上させようと考えている方
4-4. 会社の事業資金調達を目的とする利用
4-4-1. 不動産会社の物件取得資金
4-4-2. 自社ビルを所有している法人の資金調達
4-4-3. 不動産投資家による不動産購入資金の調達
4-4-4. 既存の返済を軽減することを目的とした借り換え
5. 商品事例
5-1. 金利重視の商品
5-2. 融資可能額重視の商品
5-3. 借入期間重視の商品
「不動産担保ローン」を簡単に言ってしまうと、個人もしくは法人が所有している不動産を担保にして借りるローンのことです。 そうなると、住宅ローンも不動産担保ローンの中の1つということができます(相違点の詳細については後述)。
特徴としては、下記のポイントが挙げられます。
【不動産担保ローンのおもな特徴】
④に関しては金融機関によって基準が異なるため、同じ物件にも関わらずA銀行では評価額の8割なのに、B銀行では6割しか融資しないというケースもあります。
また、融資の際には事務手数料などの諸費用が必要となりますが、特に不動産を担保とすることから 登記費用が掛かることは覚えておく必要があり、この点は無担保のフリーローンとの大きな違いになります。
さらに、ローン債務者の保証をする保証会社に対する保証料については、通常は金利に含まれたり金融機関によっては掛からないところもあります。
団体信用生命保険(ローンの返済中に債務者が亡くなった場合の残債務に対する保険)への加入については、 金融機関によって加入が必須な場合とそうでない場合があり、加入必須となる場合の保険料は保証料と扱いが同じになります。
なお、ローンの返済を一定期間以上滞納したり、返済そのものができなくなった場合は、 担保不動産について任意売却や競売などで処分されてしまい、売却代金がローン残債に充てられることになります。
*任意売却と競売に関する参考記事:最も避けたい売却手段の「競売」を避ける方法
不動産担保ローンと住宅ローンは、双方とも土地・建物を担保にして借りるローンという点では共通していますが、以下の2つの点について違いがあります。
ひとつ目は、住宅ローンの利用目的はマイホーム購入に限定されていますが、不動産担保ローンについては、原則として利用目的の制限がなく、マイホーム購入やリフォーム資金、会社の事業資金、教育費用、投資用不動産の購入資金など、さまざまな場面で利用が可能です。
ふたつ目は、住宅ローンはこれから購入しようとするマイホームを担保に借りるローンですが、不動産担保ローンはすでに所有している不動産を担保に借りるローンです。
ここまでの説明の中に「担保」という言葉が出てきましたが、意味がよくわからないという方もいらっしゃるかも知れません。 ここでは「担保」と「抵当(権)」について説明します。
お金を借りた人が返済義務を怠った場合に、貸した人の損害を補てんするための保証物のことを“担保”と言います。 保証物は貸したお金に見合った価値である必要があり、住宅ローンや不動産担保ローンの場合は、借りようとするローンの額に見合った評価の土地・建物を担保とすることになります。
住宅ローンや不動産担保ローンの返済が為されない場合に、 担保不動産の売却などによってローンを貸した金融機関がその代金を優先的に返してもらう権利のことを“抵当権“と言います。 抵当権(または根抵当権)は、金融機関が住宅ローンや不動産担保ローンなどの高額なローンを貸し出す際には、ほぼ必ず設定します。
住宅ローンを借りている人が、新たに事業を始めるため金融機関から融資を受けた場合に、住宅ローンについては第1順位の抵当権、事業資金については第2順位の抵当権というふうに、 1つの不動産に対して複数の金融機関の抵当権を設定することができます。
前述で、ローンの返済が為されない場合に、担保不動産を売却して優先的に返してもらう権利が抵当権であるとお話ししましたが、 仮に返済が為されなくなった場合は、担保不動産を売却し、その代金について第1順位から優先的に返済を受ける権利を有します。 そのため、第1順位の抵当権を設定できなければ貸し出しを行わない金融機関もあります。
会社どうしの商取引では、注文の品を納めた翌月または翌々月に代金が支払われるのが通例ですし、 工事や製造などの業種では、完成まで時間を要する仕事が多く、代金が支払われるまでの間も従業員の給料を支払い続けなければなりません。
そこで、会社名義の不動産を担保に不動産担保ローンを借りる際に、 設定した上限額以内で何度でも借入と返済が可能な「根抵当権」を利用することで、会社の資金の流れを止めずに事業を続けることができるようにしています。
「根抵当権」はおもに法人や個人事業主の円滑な決済を目的としており、 借入や完済のたびに抵当権の設定と抹消を繰り返す必要が無く、手間もコストも抑えることができます
上記の中で、「複数の抵当権設定が可能である」と言いつつも、 「第1順位以外は貸し出しを行わない」とお話ししましたが、仮に、第1順位(住宅ローン)の抵当権が設定されていても、 担保に余力があり且つ金融機関の基準に適合すれば、第2順位として不動産担保ローンを利用することができる場合があります。
逆に言うと、担保に余力がない(売却代金が第1順位の残債額を下回る)場合は、第2順位に対する返済が為されない恐れがあるため、 住宅ローンと不動産担保ローンとの併用はできない可能性が高くなると言うことになります。
不動産担保ローンをはじめ、どのようなローンを利用するにも金融機関の審査が行われます。ここでは不動産担保ローン審査基準について説明します。
大前提として、金融機関の審査の主旨は、貸したお金が返済されるか(=貸し倒れされる可能性はないか)に主眼が置かれます。 具体的に言うと、「担保価値」と「ローン利用者の属性」が審査のチェック項目になります。
不動産担保ローンですから担保となる不動産が必要で、その不動産に担保としての価値があるかどうか、担保の価値はどれくらいかが審査されます。 金融機関によって基準は異なりますが、不動産価値を判断する際は「一物四価」と 「2つの収益還元法」は必須の基準になります。
これらの評価基準に従って不動産の価値が算定され、十分な担保価値があると判断されれば、仮に利用者の属性が弱いとしても、 「最低でも不動産の売却で回収できる」という見込みが立つことから貸し倒れリスクは少ないと判断され、融資の可能性は高くなります。
他に借入れがある場合は、その状況も審査のチェック項目になります。仮に下記の事実が発覚した場合は審査に通らない可能性があります。
これらは金融機関が個人や法人の「個人信用情報」や「法人情報」の照会を行って調査します。
また、税金の未納、滞納も重要な審査基準となります。 もし税金を払っていない場合ですと、第一順位の抵当権を設定できても、不動産売却時には国や自治体の税金回収が優先されてしまい、 融資金が回収できないというリスクが考えられるため、借入状況と同様税金の納付状況も審査されるのです。
収入に対する返済額の割合のことを「返済負担率」と言いますが、 この割合が一定基準以上となる場合は審査に通らない可能性があります。
○返済負担率=年収÷年間の返済総額
返済負担率の線引きは、ズバリ!35%を超えるかどうかです。もし超えるようなことがあれば、審査をパスするのは難しくなります。
これは、いくら収入が多くても35%を超えるような多額の融資は難しく、 反対に収入が少なくても、返済負担率が35%以下で収まるような融資額であれば審査をパスできる可能性が高いということになります。
なお、収入については、個人の場合は源泉徴収票や所得証明書に記載された金額が基準になりますが、法人の場合は、年間の フリーキャッシュフロー で審査が行われることになります。
収入判断におけるもう一つの基準として、勤続年数が短かったり転職を繰り返している場合は収入が不安定と見なされます。 それと同じく、事業年数が短い法人や個人事業主の場合も、収益が安定しているかどうかの判断が難しいと判断されます。
年数の基準としては、以下の通りです。
しかしながら、年数基準については、無担保ローンと比べると最重要項目というほど厳しくはありません。
また、雇用形態も収入の安定性を判断する基準になります。
○雇用形態の優先順位
正社員>非正規社員(契約社員>派遣社員>パート・アルバイト)
安定的な雇用であれば収入も安定すると見なされるため、審査時には上記のような優先順位で判断されます。
※不動産担保ローンは「総量規制」の対象外である
総量規制とは、借り入れの上限額が年収の3分の1までとする制度で、不動産担保ローンの他、住宅ローンや自動車ローンなどがこの規制の対象外となります。
この措置を活用して、複数の無担保ローンを1本の不動産担保ローンにまとめて、20年~35年の長期返済に組み替えたりすることが可能になります。
さて、不動産担保ローンはどのような場合に向いているのでしょう。利用の効果があると想定されるケースを見て行きます。
「リバースモーゲージ」は、自宅を活用して老後の生活資金を得ることを目的としたローンです。 老後の収入が年金だけで、自宅以外に資産が無いという方に向いています。
以下、参考記事(注目されている不動産ローン『リバースモーゲージ』とは何か?)より抜粋
― リバースモーゲージは、収入がない世帯に対する融資であることから、最初から「不良債権」となることを見越したローンということになり、自宅の売却処分による返済が前提になります。 あらかじめ設定した契約年数(20年間など)か、または契約者が死亡したした時のどちらか早い時期に一括返済義務が生じ、相続人等が現金で返済するか売却処分して返済することになります。
不動産を売却する際、住宅などの場合は空き家状態にして売り出す方が買い手が付きやすいために転居先への居住を前倒しするケースがあります。 ただ、そうなると買主が見つかるまで住居費が二重に掛かってしまいます。
そんな時に、一時的なつなぎ資金として不動産担保ローンが役に立ちます。 金融機関としては、売却後には代金が見込めるため、価格や立地条件等に問題が無ければ融資を受けられる可能性は高くなります。
アパートや賃貸マンションの収益性を向上させようとリフォームを検討しているものの、資金不足またはほとんどゼロというケースもあるかも知れません。 このケースに不動産担保ローンは打ってつけと言えます。
金融機関としては、リフォーム後には収益向上が見込めるため、改定賃料が相場と乖離していなければ融資を受けられる可能性は高くなります。 ただ、ローンが実行されるとすぐに返済が始まり、一方で工事完了後でなければ賃料収入が得られないことから、あらかじめ一定額の現金を確保しておく必要があります。
会社の事業資金を調達するために不動産担保ローンを活用することもできます。 前述した根抵当権は、事業資金目的の借入れがほとんどと言えるでしょう。
以下、利用目的ごとに解説します。
中古不動産を買い取り、リフォームして再販売する会社が増えていますが、 買取資金を確保するために、当該不動産を担保にして不動産担保ローンを利用し、販売代金回収後に返済するというケースで利用されます。 買取から売却まで数ヵ月程度であり、短期のつなぎ融資を目的とした利用になります。
競売物件を購入して再販売する会社は昔からありますが、競売入札時には証拠金が必要で、入札後も1ヶ月以内に残代金を支払う必要があります。 このケースに不動産担保ローンが利用されたりします。
土地を購入し、住宅やマンション、商業施設やビルなどを建て販売するのが不動産デベロッパーと言われる業態です。
土地を仕入れる際に、当該土地を担保に不動産担保ローンを借入れ、販売代金回収後に返済するという点では買取再販売のケースと似ていますが、 デベロッパーの事業は規模が大きくなるため、数億~数十億単位の融資になるケースもあります。
無担保ローンと比べると、不動産担保ローンには低金利という最大のメリットがあります。 自社ビルなど法人名義の不動産があれば、借入額も数倍、数十倍とレバレッジを効かせることができ、また20年~30年という長期での借り入れも可能になります。 さらに、不動産の評価によっては、銀行融資よりも有利な条件で借りられる可能性もあります。
法人に対する融資では、さまざまな理由から審査に通らない場合があります。
○審査否決事由の一例
銀行の融資や無担保ローンの審査が否決された場合の手段として、 社長個人が所有している自宅や不動産を担保に、銀行からの融資を受けるという選択肢があります。 昔から、個人事業主や中小零細企業では、経営が苦しい時や売掛金の回収が遅れたりする際に、社長の個人資産を担保にして融資を受けることが多く行われてきました。
不動産投資を事業としている法人や個人は、不動産購入に自己資金を拠出するケースは皆無と言って良く、自己資金は少額で抑え、不足分は融資を利用するのが一般的です。
仮に1億円の自己資金があったとしても、1億円の不動産を購入する際は1000万円程度を入れて、9000万円は銀行口座に証拠金として温存し、 不足分を不動産担保ローンでまかなえば、10億円からの投資物件を購入することさえ可能になります。
最後に、不動産担保ローンの商品事例をいくつかご紹介します。 利用者としては重視する条件が「金利」なのか、「融資額」なのか、「借入期間」なのかによって選ぶ商品が異なるでしょうから、 ここでは条件別に掲載しました。なお、最新の条件については、各社の情報を確認してください。
金利 | 変動型 | 0.850% ~ 8.650% |
固定型 | 1.300% ~ 9.250% | |
借入可能額 | 100万円 ~ 1億円 | |
借入期間 | 1年 ~ 20年 | |
審査回答日数 | 5日~ | |
対象地域 | 原則として全国 | |
申込資格 | ・日本国籍または外国籍で永住権があること・年収200万円以上 ・満20歳以上69歳以下で、完済時の年齢が84歳以下であること ・東京スター銀行の審査基準を満たしていること |
金利(変動のみ) | 2.950% ~ 8.900% |
借入可能額 | 300万円 ~ 1億円 |
借入期間 | 1年 ~ 25年 |
審査回答日数 | 1日~ |
対象地域 | 担保不動産が下記の所在地であること ○全地域:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、静岡県、愛知県、岐阜県、三重県、大阪府、京都府、兵庫県、奈良県 ○一部地域 北海道、岩手県、宮城県、福島県、広島県、岡山県、山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県 |
申込資格 | ・満20歳以上で、完済時満75歳以下であること・安定した収入のあること(原則) |
金利(固定のみ) | 5.000% ~ 9.490% |
借入可能額 | 100万円 ~ 10億円 |
借入期間 | 2年 ~ 20年 |
審査回答日数 | 当日~ |
対象地域 | 東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県、大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、福岡県 |
申込資格 | ・安定した収入のあること・日本保証の基準を満たすこと |
①個人向け ②法人・個人事業主向け ③不動産業者向け
金利(固定のみ) | 2.980% ~ 7.800% |
借入可能額 | 300万円 ~ 10億円 |
借入期間 | 3ヶ月 ~ 30年 |
審査回答日数 | 1日~ |
対象地域 | 東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県 ※アサックスの支店があれば他地域も可能 |
申込資格 | ・20歳以上 ・健康であること |
①個人向け ②法人・個人事業主向け
金利(変動のみ) | 2.990% ~ 5.990% |
借入可能額 | 300万円 ~ 10億円 |
借入期間 | 1年1ヶ月 ~ 35年 |
審査回答日数 | 当日~ |
対象地域 | 全国(一部地域を除く) |
申込資格 | 20歳以上で完済時の年齢が80歳以下であること |
特記事項 | 2016年12月15日~2017年03月31日までの期間限定商品である |
金利重視、融資可能額重視の商品にも借入期間が長期の商品がありますので、重複する条件を比較して検討してみると良いでしょう。
※ 本記事は2017年04月時点の内容になります。各サービスの最新の情報につきましては当該サービス事業者にご確認ください。
※ 注:本記事はマンションマーケットが、自社のサービス利用促進及び、マンション売買検討ユーザーへの情報提供を目的として作成しております。 内容については編集部の独断と偏見で作成しており、文中に紹介した事業者からの金銭等は一切発生しておりません。
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