その発注大丈夫?修繕工事を発注するのも自己責任です

管理会社の仕事は本来、マンション管理組合における日常の管理の支援(管理委託契約書に書かれた仕事)でしたが、現在はそこから一歩飛び出して「専有部(居住者個人を対象としたお世話サービス)」や「大規模修繕工事」に関連したビジネスについても、積極的に提案するようになりました。

そして、世の中の流れは、管理会社による大規模修繕工事への関与度合いを一層強めています。

しかもここ数年、設計監理や施工業者の紹介程度で小さなリベート(バックマージン)を狙っていた多くの管理会社が、「自ら施工業者」として、工事売上という「より大きなビジネス」を取りにきています。

それまで、大規模修繕工事ビジネスを「施工業者」として取りに来ていたのは、日本ハウズィング、合人社といった独立系や、東急コミュニティのような工事部門を確立している一部の業者でした。
ここにきて、分譲系管理会社も修繕工事を施工業者として狙うようになりました。

目次

1.背景は、本業売上の鈍化

2.マンション管理会社に修繕工事を発注して何が悪い!?

3.管理会社に大規模修繕工事を依頼する前に考えること

1.背景は、本業売上の鈍化

鈍化
管理会社が大規模修繕工事を積極的に取りにくる理由は売上の鈍化ですが、その理由は2つ考えられます。

・親会社(デベロッパー)からの新築マンション管理供給の減少

超少子高齢化社会に突入し、日本の人口は減少に転じています。
東京や神奈川、大阪、名古屋といった大都市でも時間の問題です。

そのうえ、東京オリンピック景気でマンション用地取得費や資材費が高騰し、いわゆる財閥系や一部の元気あるデベロッパー以外にマンションを積極的に建てる会社が大きく減りました。
親会社が新築マンションを建設してくれなければ、管理会社も新規物件の自動受注が自動的に鈍化します。

・管理委託料(本業)収入の伸び悩み

管理会社の本業である管理委託料について、新築時に決定した価格を後から値上げすることは、消費税増税やインフレなど、外的要因があり、管理組合が納得しない限り困難です。

大手・中堅を中心に、『専有部サービス』を展開し始めましたが、希望しない住戸の分まで一括で支払うことに管理組合は二の足を踏み、なかなか大きくは広がりません。
また、リプレイス(管理会社変更)営業にも限界があります。

一方で、管理委託費の削減ニーズは、どこの管理組合にもあります。
今ではインターネットで「管理費は削減できる」といった情報が出回っており、新築時に設定された管理委託料をそのまま放置しておく「お得意様」的な管理組合は相当に減っているのではないでしょうか?

このような理由で、管理会社の本業売上の伸びは鈍化しており、または鈍化することが見えているため、次善の策として『大規模修繕工事でしっかり売上・利益を上げる』ことが、どこの管理会社にとっても重要になってきているのです。

2.マンション管理会社に修繕工事を発注して何が悪い!?

管理会社が大規模修繕工事をビジネスチャンスと捉え、設計監理(コンサル)もしくは施工業者として、管理組合へ提案することに、いたずらに反対することはありません。

よく、多くのNPO法人やマンション管理士が、「管理会社は管理組合のお財布の中身(修繕積立金の残高)を知っている存在なのだから、直接修繕ビジネスをしてはならない」「利益相反だ」と言いますが、それを言ったら、金融機関は預金残高を知っているクライアントに新たな預金や投資の提案をしてはならない、のと同じです。

詐欺はいけませんが、合法的であれば、クライアントである管理組合の責任で発注するかどうかを考えれば良いのです。
管理会社=コンサルや施工業者としての資格はない、という論理は飛躍しすぎています。

一方で、管理会社からの修繕提案が『管理組合の利益になっているか』『良い工事を安く発注できるパートナーであるか』を管理組合が見極める必要はあります。
日頃お世話になっている管理会社からの提案だから、、、と盲目的に依存してはならない、ということです。

3.管理会社に大規模修繕工事を依頼する前に考えること

考える

大切なことは、管理会社に大規模修繕工事を発注することが「管理組合にとって一番得かどうか」、ここを考えて判断することです。

管理会社が大規模修繕工事でビジネスするにおいては、次のような傾向があります。

・修繕工事を発注しても、下手すると現場代理人も含めて、修繕専門業者を下請けとして使い、丸ごと請け負わせる(現場代理人すら外注のケースも多い)ため、割高な可能性が高い(本来100のお金で発注できるところが、115~150にも膨れ上がる事例あり)

・管理会社自身は修繕専門スタッフが手薄であり、社員が直接マンションの現場を見ることが少ない

・「管理会社は工事後も日常の管理業務があり、逃げられない」というメリットがある一方で、施工後の瑕疵(不具合)を誰よりも早く発見できるため、隠すこともできる

・「管理会社と施工業者が同じだと、居住者対応などの連携がスムーズに取れて対応がスピーディ」というメリットがある一方で、日常管理と修繕では対応部署が異なり、管理会社は基本的に縦割りで連携が悪いケースが多い。

・「管理会社はこれまでマンションを見てきたから安心」というメリットは大きいように見えるが、これを言ったら「人間は産まれた病院でずっと面倒を見てもらわないと病気になりやすく寿命が縮むかもしれない」と言う理屈になる

・大手管理会社は倒産リスクが非常に少なく、アフターサービス補修は確実に実施できる資金力はあるが、昨今は管理組合が修繕工事に対し、自ら保証をつけることができるのでそれほどのインパクトがない。

大切なことは、管理組合が管理会社を盲目的に依存したり偏った判断をせず、複数の発注方法や業者の選択肢の中から選定することです。
その結果、管理会社へ施工を任せるのが発注金額も技術力もサポート体制も含めて最良であれば、管理会社をコンサルや施工業者として活用することに何の問題もありません。

世の中は自己責任の時代です。
すべてを他者に依存しておきながら、後で「騙された!」というのは、詐欺でない限り
発注者に責任があるのです。
自分たちの修繕積立金を守るのは、自分たちなのです。


深山 州(みやま しゅう)
マンション管理士。大手不動産仲介会社、大手管理会社、管理費削減専門会社、小規模管理会社を経て、2006年にメルすみごこち事務所を創業。
とにかく三度の飯よりマンション管理好きで、しかも管理組合のカイゼン・改良・改革系の取り組みに志向する、右脳的・文系的なコンサルタント。
メルすみごこち事務所(外部サイト)

- 2018年04月09日