第3回 マンション管理コンサルタントはなぜ必要?

管理の良し悪しによって、マンションの資産価値は大きく左右されると言われています。資産価値の低下を避けるためには、それぞれのマンションに沿った正しい管理・運営が必要であると考えられます。
第三回目も、メルすみごごち事務所代表の深山州(みやま しゅう)さんに、なぜマンション管理コンサルタントが必要なのか?や、優れたマンション管理コンサルタントとそうでないマンション管理コンサルタントの違いなどについてお伺いしました。

―マンション管理コンサルタントの働き方について、具体的に教えて下さい。
また、マンション管理コンサルタントの費用はどこから出ているのでしょうか?

マンション管理組合が我々のようなコンサルタントを採用するには大きく2つの契約があります。1つは、コンサルタントに依頼する具体的なミッションがある場合。例えば管理会社に対する不満を解決したい場合などがこれに当たります。その場合は現在の管理会社との交渉他の管理会社との比較・検討、あるいは管理費を削減するためのコンペを行う、といった支援を、半年から1年程度かけて行います。大規模修繕の外壁工事のコンサルティング(設計監理と言います。)も、工事が終われば我々の役目は終わりですので、こちらに該当します。

もう1つは、顧問契約です。管理組合の執行部である理事会のメンバーは毎年全員が入れ替わります。任期が複数年だったり、少しずつ入れ替わるなど、理事会が切れ目なく活動できるようにしているマンションはまだ少なく、せっかく理事会が活性化してきたのに、1年で人が変わってしまうため引き継ぎなどができないという問題点があります。我々がコンサルティングに入ることで、次の理事の人にたすきを渡す役目をすることができますし、上述のような「切れ目のない理事会の仕組みづくり」を提案することも可能で、管理組合が長期的に一貫性を持った管理・運営が行っていけるというメリットがあります。基本的には1年更新で、理事が入れ替わるタイミングで我々が必要かどうか審議され、必要があれば次の1年間も継続して担当します。現在顧問契約をしている所で一番長い所では、2006年の起業の時から10年ほど担当しています。

これまで我々がコンサルタント契約をしたマンションの規模は、20戸~850戸程度までさまざまですが、全てのマンションでコンサルタントを雇えるかというと、なかなかそのようにはいきません。

理由としては、基本的にマンションの管理組合は企業と異なり、収入は住民から支払われる管理費のみなので、あらかじめ収入の上限が決まっています。管理費の内訳としては管理会社に払う管理委託料(管理人派遣やエレベーター点検・会計など)の割合が大きく、廊下や階段の電気代、清掃や植栽に撒かれる水道代、それらを支払って余剰金があった時に初めて、コンサルタントを雇うためのお金が生まれます。

日本人は特に、「コンサルタントを入れることによってマンション管理の状態がよくなり、将来的に不動産価値が向上して住み心地がよくなる」という、今目の前にモノが見えないサービスに対してお金を払いにくい傾向にありますから、住民が毎月支払う管理費を値上げしてでもコンサルタントを雇うという発想はなかなか生まれにくいと思います。むしろ、毎月支払っている管理費の中で無駄な部分をカットし、余剰金でコンサルタントを雇うという考え方です。どちらかと言うと、大規模なマンションの方が余剰金の額が多く、また建物が大きく住民が多い分だけトラブルや課題も比例して多いことから、コンサルタントが採用されやすい傾向にあります。

管理会社と対等な関係を築くため、理事会の議論を円滑にするためのファシリテーターとして、マンション管理コンサルタントは必要である

ーマンション管理を行う上で、なぜ「マンション管理コンサルタント」は必要なのでしょうか?

極端に言ってしまうと、きちんとマンションを管理・運営できていれば、我々は必要ありません。住民がマンション管理の知識・経験を正しく身につけ、お互いが価値観の相違や多様性を受け入れ合い、管理会社が真のパートナーとして誠実に対応しコンサルタントとしての能力をつければ、我々は不要です。住民同士の利害が対立したり、管理会社がきちんと機能していなかったり、管理会社側と住民側との利害が一致しない、といった課題がある以上、、第三者としてのコンサルタントを採用して問題解決に当たらせる意味があります。

その中でも、最近の需要で多いのは、理事会の内部、そして理事会と住民とのコミュニケーションを円滑にし、議論をスムーズに進めるためにコンサルタントを採用するケースです。例えば、300~400戸の大規模マンションやタワーマンションであれば、理事の人数は20人ほどにもなることもあります。こうなるとまるで小中学校の1つのクラスのような大所帯ですが、理事の中には20代の若者もいれば80代のシニアもいますし、低層階のコンパクトな部屋に住宅ローンを目一杯組んで住んでいる人もいれば、最上階の100平米以上のゆとりある部屋を現金購入して住んでいる方もいます。

そこまでバラバラな住民の間では、購入目的やこれまでの生きてきた背景、考え方が異なるため、そもそも議論が成り立ちにくくなります。その時に、機能していない話し合いを正常化させる「ファシリテーター」としての役割として、我々コンサルタントの出番になります。単に専門知識だけでなく、ものごとを進めるため話を整理・集約して助言するために、コンサルタントは必要なのです。

マンション管理コンサルタントの中には、資格は持っているが実務経験のない人が多い

―優れたマンション管理コンサルタントと、そうでないマンション管理コンサルタントの見分け方はありますか?

まず、マンション管理コンサルタントというのは、国家資格で言うと「マンション管理士」を持っている方がイメージされます。マンション管理士は平成13年にできた国家資格で、合格率は7,8パーセント程度なので、一見難易度が高いように見えますが、ペーパー試験ですので実務経験は必要ありません。
例えば宅建の場合、資格取得後も、世の中に不動産会社はたくさんあるので就職してがんばれば、実務経験を積むことができます。しかし、マンション管理士の場合、実務経験を積むことができる働く場所の受け皿が用意されていないので、資格をとっただけでは経験と知識が積めず、資格を持っているだけではほとんど戦力にならないのが現状なのです。

マンション管理士の試験を受験する人には、50~60代の定年退職を迎えるような人が多く、そのほとんどが、自分の住むマンションの理事長を経験して「けっこうできるかもしれない」などと考えたことをきっかけに、試験を受けているからです。しかし、マンションは千差万別で、自分のマンションでやったことが他で通用するかというと、違います。現在、マンション管理コンサルタントの仕事だけで生活ができている人は、全国でも少ないと言われています。

マンションの住民はマンション管理士に何を望むかというと、管理会社より詳しい知識や経験です。管理会社は、実務や担当者のレベルに差があるにせよ、マンション管理業界に従事しているだけあって知識は持っています。試験に合格しただけで実務経験のないマンション管理士がコンサルタントとしてマンションを担当しても、管理会社に知識や経験で負けてしまうケースが多いのです。

そのため、マンション管理コンサルタントをお願いする時は、その人に過去にどんな経験やキャリアがあるのかという裏付けを見ておくことは大事です。私の場合は、22歳~27歳の5年間は不動産仲介業者にいましたが、マンション管理士になりたいという思いがあり、その後は管理会社に入りました。また、自分が住むマンションの理事長に立候補していろいろな経験も積みました。

また、住民同士の話し合いを円滑にするためには、ファシリテーション能力が欠かせません。人の輪の中に飛び込んで、年齢も考え方も違う住民たちの話まとめることは、管理会社にはできない役割ですし、その能力を持っている担当者をほとんど見たことがありません。
ファシリテーション能力があるかどうかは、マンション管理コンサルタントをヒアリングで呼んで、話を聞けばわかります。きちんとこちらの話を聞いてくれているか、自分のアピールばかりしていないかなどは、話してみれば、みなさんでもすぐに見分けられると思います。マンション管理コンサルタントの中にも、このファシリテーション能力のある方は残念ながら少ないのです。20~30代の若い方がマンション管理士の資格を取得しても、マンションという高額資産を購入できる客層を相手にファシリテーションを発揮することはかなり難しいかもしれません。

もう一つは修繕の知識です。管理会社や住民同士のやりとりなどはいわゆる「ソフト面」ですが、建物や設備の修繕などの「ハード面」も、マンション管理には欠かせないものです。弊社には建築士や施工管理技士・の資格を持つメンバーや設備に詳しいパートナーがいるため、マンション管理士に建築設備の知識経験が少なくても、タッグを組んで十分に対応することができます。
建物・設備は住んでいれば必ず劣化してくるものなので、ハード面で相談できる人は必要です。マンション管理の知識と建築・修繕の専門知識を一人で担ってくれれば鬼に金棒ですが、知識経験のある人同士がタッグを組んでいるような組織を選ぶことをおすすめします。

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- 2016年02月16日